第15回:8月15日「わがクルマ泥棒対策」
2007.05.26 「ユーラシア電送日記」再録第15回:8月15日「わがクルマ泥棒対策」
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
カルディナの修理も(中途半端に)終わり、ロシアで初の休日がとれた。今回は、自動車泥棒が多いロシアを旅するため、金子浩久が考えた“盗難防止対策”を紹介する。
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初めての休日
今日は、ホテルを引っ越すぐらいしか用事はない。ロシアにきて、初めての休日らしい休日だ。
以前は飛行場があったという、近くの「ホテル・アエロフロート」から、中心地にあって便利な「クラスノヤルスクホテル」に移った。イーゴリさんとは、月曜日の朝8時までしばしの別れ。久々の家族との週末をゆっくりと過ごして下さい。
チェックインして、カルディナをホテルとエニセイ川の間にある大きな駐車場に停める。これまで訪れたどの街でも、カルディナは必ず管理人のいる駐車場に入れるようにしていた。もちろん、盗難対策である。例外はスコボロディノだけ。ホテルの近くに駐車場がなく、向かいの警察署に停めるよう勧められた。
いずれの駐車場も、塀やフェンスで区切った一角に、管理人小屋を建てて営業している。料金はどこも安く、1日25〜40ルーブル(約100〜160円)。満車ということはあり得ず、待たされることもない。
「ロシアにクルマを停める土地はたくさんありますが、泥棒が多いので、みんな必ず駐車場に入れます」とイーゴリさん。
静かで、治安の悪くなさそうな通りでも、一晩泊めておくと、盗まれはしなくてもライトやミラー類を壊されたり、ひどい場合はウマを噛ましてホイールが盗まれたりするらしい。イーゴリさんいわく……、「ロシアはドロボウこわい。ニッポンはケイサツこわい。オモシロイ」
はずせばイイじゃないか!
ロシアにクルマ泥棒が多いという話は、日本を発つ前からイヤというほど聞かされていた。「いかにしてクルマ泥棒の邪悪な手から逃れるか」。これは、旅の計画の初期段階から検討されていた重要なテーマだ。
ある日、ふと思い付いたアイデアに、私は思わず立ち上がって膝を打ちましたね。
「自転車を盗まれなくするために、前輪やサドルをはずすのと同じように、クルマはハンドルをはずせばいいじゃないか!」
そうすれば、クレーンで持ち上げたり、警視庁の駐車違反のレッカー車が使う台車でも使わない限り、盗まれることはないだろう。仮に盗まれたとしても、ハンドルのないクルマはなんの価値もない。盗もうとして、フロントガラス越しに車内を覗き込んだドロボウの“引く”表情が思い浮かんでくる。
これで決まりだ!
あまりのグッドアイデアぶりを心中で自画自賛し、さっそく中古車雑誌のページをパラパラと繰った。購入しようとしていた初代カルディナ1.8には、エアバッグがオプショナル設定されている。しかし、ハンドルを外すのが大変だから、アイディアを実践するにはエアバッグのない中古車を買わねばならない。ところが、エアバッグの付いていない仕様が、なかなか見付からない。
「エアバッグの付いているカルディナを購入し、何らかの方法で爆発させ、ハンドルを取り外せばいいのか?」自分で壁にブツければ簡単に爆発するだろうが……、助手席のエアバッグは確保しておきたい。だいいち硝煙の臭いと粉で、乗れたものではなくなる、という話を聞いたことがある。
ここはひとつ、爆発物処理班が不発弾の信管をソッと抜き取るように、エアバッグを取りはずさなければならない。お知恵を拝借すべく、崎山自動車サービスの崎山和雄社長に電話した。
「簡単ですよ。ヒューズを抜いて、プラスチックパネルを切れば、取りはずせます」
かくして、プラスチックパネルの真ん中に、10センチ大の穴がポッカリ開いたハンドルができあがった。衝突して命を落とす確率は増えたが、カルディナの盗まれる確率は格段に減ったワケだ。
「そのエアバッグ、どこかで使ったの?」
ハバロフスクを出てすぐ、アムール河を渡る長い鉄橋の袂の交通検問所の警官に笑われた。
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視線が痛い
“盗難防止装置”の使用方法は、いたって簡単。クルマを離れる際、十字レンチで穴の奥にあるナット1個を緩めてハンドルを抜き取る。ナットはなくさないように鍵と一緒にヒモに通して首から提げ、ハンドルはそのまま手にしてホテルの部屋へ。もともと握るためのものだから、持ちやすくて助かる。
ただ、ハンドルを持って歩いていると、周囲の視線が痛いほどたくさん集まっているのがわかる。なかには、指を指して笑う者がいたり、観て観ぬフリしながらコソコソ囁いているふたりもいる。
「このイポーニェッツは、うまいことを考えたな」
「盗んだ部品を堂々と持って歩くなんて、図々しいわね」
反応は様々だ……。
いずれにせよ、今のところ、かつ幸いにして、カルディナは盗難に遭うことも、壊されて部品を盗まれることもなく走っている。ルーフに積んだスペアのピレリP6も、キャリアと自転車用チェーンロックをかけてあるから無事だ。虫の死骸がたくさん付いているけど。
(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

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