フォルクスワーゲン・トゥアレグV6 (4WD/6AT)【試乗速報】
若返り、だけじゃない 2007.05.22 試乗記 フォルクスワーゲン・トゥアレグV6 (4WD/6AT)……586万8000円
2007年5月22日、フォルクスワーゲンのSUV「トゥアレグ」がマイナーチェンジを受け、内外装のデザイン変更のほか、エンジンがアップグレードされた。新型の3.6リッターV6モデルに試乗した。
ベストセラーの初マイチェン
2002年、スペインではじめて「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」を運転したとき、それまでのVWとは明らかに路線が違うニューフェイスであることに戸惑った覚えがある。
最近はずいぶんオシャレになったとはいえ、「ゴルフ」といえば質実剛健のイメージで通っている。ところがこのトゥアレグは見るからに高級車のオーラを放っているし、華美なところはないもののとても上質なつくりのコクピットが、まるで別の雰囲気をつくりあげていた。
そして、これまで足を踏み入れることのなかったオフロードでは、クルマ一台がやっと通れる砂利道や急勾配、行く手を阻む浅瀬など、次々に現れる障害を難なくクリアするワイルドさを見せつけるのだ。
そんな凄いヤツがゴルフの家族に加わるというのだから、ゴルフファンの私が戸惑うのも当然だろう。その一方で、トゥアレグが見せてくれた新しい世界がとても魅力的に思えたのも事実である。
どうやらそう感じたのは私だけではなかったようで、2002年のデビューから約4年の間にトゥアレグの販売台数は30万台を突破し、日本でも2004年に輸入SUVナンバーワンの座を手に入れるなど、世界中の多くの人の心を動かした。
その成功作がデビュー後はじめてマイナーチェンジを実施した。ひとめでわかる変更箇所は、フロントマスクの“ワッペングリル”と呼ばれるメッキグリルや新しいデザインのヘッドライトを採用したこと。これまでの落ち着いた雰囲気から少し若返ったように思うのは私だけだろうか?
エンジンは直噴ガソリンに
フロントマスク以外にも、テールランプやドアミラー、メーターパネルなどのデザインが変更されているが、デザインよりも重要な変更として注目したいのが、ガソリンエンジンの直噴化である。
V6モデルでは、これまでバンク角15度の3.2リッター狭角V6が使われてきたが、マイナーチェンジを機に、すでに「パサート」に搭載されているバンク角10.6度の3.2リッターV6直噴ユニットをベースに、排気量を3.6リッターに拡大。
その結果、最高出力、最大トルクは旧型に比べてそれぞれ39psと5.1kgmアップの280ps/6200rpm、36.7kgm/2500-5000rpmに達する。
これに組み合わされる6段オートマチックや、4XMOTIONと呼ばれるフルタイム4WDシステムは従来どおりだが、ABSやESPは機能の強化が図られた。
たとえば、ABSは砂利道や砂地でも制動距離を短縮させ、ステアリングの利きを確保する“ABSプラス”を採用。またESPには、ブレーキアシストや横転のリスクを減らすアクティブロールオーバープロテクション(ARP)といった機能が追加されている。サスペンションはこれまで同様、4輪ダブルウィッシュボーンを採用し、オプションで車高調節機能のある“CDCエアサスペンション”が用意される。
排気量アップの効果は?
試乗車は “カンパネーラホワイト”が眩しいV6モデル。サスペンションはノーマルのコイルスプリング式で、メーカーオプションで用意される人気のレザーシートが奮発されていた。ちなみに、V6のレザーシート仕様というのが旧型では一番の売れ筋だったそうだ。
シフトレバー横のボタンを押してエンジンを叩き起こし、さっそく試乗を開始。すぐに排気量アップの効果が感じ取れる。
車両重量が2260kgもあるから、余裕たっぷりとはいかないが、旧型に比べると2000rpm以下のトルクが厚みを増し、発進加速もストレスを感じない。街なかで3000rpm以下を多用するような場面でも、アクセル操作に対するエンジンのレスポンスが良好。ただ、加速時にエンジンが発するノイズがやや耳障りだったのが惜しいところ。
一方、アクセルペダルを深く踏んでエンジン回転を上げていくと、4000rpmあたりからは狭角V6ならではのスムーズな加速を見せてくれる。
これだけでもマイナーチェンジの意義は大きいが、サスペンションの進化も見逃せない。旧型と形式こそ変わらないが、乗り心地はよりマイルドになり、荒れた路面でもショックをうまく包み込むような印象を受けた。
それでいて、高速走行時の安定感が失われることはなく、むしろ旧型よりもフラットで落ち着きのある挙動に感心した。ワインディングロードでもロールは安定していて、こうなるとエアサスなしでも不満はないだろう。
見えるところだけでなく、数字に表れない部分でも確実に進化を遂げたニュートゥアレグ。マイナーチェンジ後もV6のレザーシート仕様が一番人気を守り続けそうだ。
(文=生方聡/写真=菊池貴之)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。