第316回:緊急追加ジュネーブショー報告
スクープ! 「ベントレー・ブルックランズ」は偶然の産物だった!!
2007.04.06
小沢コージの勢いまかせ!
第316回:緊急追加ジュネーブショー報告スクープ! 「ベントレー・ブルックランズ」は偶然の産物だった!!
ケンカに強い紳士
ちょっと前の話だけど、俺も行った2007年のジュネーブショーでは当然何台ものワールドプレミアがあって、その中には、クルマ通が喜びそうな超シブワイルドなニューモデルの発表があった。その名は「ベントレー・ブルックランズ」!
新世代のコンチネンタル系ではなく、元々は1990年代から作られている高級セダン「アルナージ」をベースにしたモデル。といってもアルナージは2000年代に入ってからは、伝統のV8エンジンの50%を新設計とし、ボディもコンピュータデザイン技術を使って補強された別モノ。その“古くて新しい”ベントレーを使った最強のクーペが発表されたのだ。
車名の「ブルックランズ」は、ベントレーが20〜30年代に活躍した英国の伝統的なサーキットの名前で、それだけ勇ましいってことなんだけど、実際パワーがとんでもない。プッシュロッドの6.75リッターV8ツインターボは、最高出力が537psで最大トルクが107.0kgm! ようするにファントムの6.8リッターV12(460ps、73.4kgm)をパワーとトルクで、マイバッハの6リッターV12ターボ(612ps、99.9kgm)をトルクで凌いでいるんだから、ヤバいくらいの頂上決戦だ。
同じ500psといってもフェラーリやランボルギーニの500psとはわけが違う。高級なのに速いという、“紳士なのにケンカも強い”とか、“IQが高いのに足も速い”というような、いわばオトコにとっての最高のモテパターンを持つクルマだ。世のセレブといわれる人たちの間には、さぞかしそういう需要があるんでしょう。
ビジネスとは無関係にやれ!
そしたらね。偶然にも会場でベントレーの実質ナンバー2といわれる、セールス&マーケティング担当役員のスチュアート・マックローさんと話ができてしまった。しかもなかなかのスクープを拾っちゃったんで、ちょいとご披露しましょう。
小沢: なんでまたブルックランズができちゃったんでしょう。こんなに暴力的なまでのパワー、誰が求めるんです?
SM: まだ誰にも言ってない話があるんですけど聞きたいですか?
小沢: もちろん!
SM: よろしい。教えてあげましょう。実はブルックランズは、ベントレーの最初のリサーチでは絶対に必要なモデルとして上がって来ませんでした。セールス&マーケティングで調査したらいらないと。
小沢: わかる気もします。なにしろ530psのクーペですから。
SM: そもそも現在ベントレーには「コンチネンタルGT/GTC」という魅力的な2ドアモデルがあります。これ以上大きなクーペがいると思いますか?
小沢: いいえ。
SM: ですから経営陣がスタッフに出した最初の指示とはこういうものだったのです。“ビジネスとは無関係にネクストジェネレーションのベントレーを作れ”と。
小沢: なるほど。非常に大まかにね。
SM: そうしたらどうしたことか、スタッフが勝手に作っちゃったんですね。「アルナージ」をベースにこのクルマを。
小沢: よっぽどエンジニアやデザイナーは欲しかったんでしょうね。速くて強いベントレーを。ル・マンでも勝っちゃったし。
SM: できあがったモデルを見たとたん経営陣は叫びました。WOO! いいじゃないか! と。
小沢: つまり、マーケティングではなく、損得抜きで作り手側が作りたいから作った。それがブルックランズなんだと。
SM: その通り。ですから販売台数も控えめに550台に限定したんですが、これが予想外にも予約が殺到。嬉しい悲鳴ですよ(笑)。
うーん、まさにホンダが初代「シティ」を作った時とか、F1に復帰した時のようなステキなエピソード。そう、ベントレー・ブルックランズはトップダウンではなく、下から湧き上がる夢のアイデアにより生まれたのだ。
しかし少量生産がゆえに許される、このヒラメキのクルマ作り。これまたプレミアムブランドの一つのアドバンテージなんでしょうね、きっと。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。