シトロエンC3 1.4(4AT)【試乗記】
走ってナンボ 2002.12.27 試乗記 シトロエンC3 1.4(4AT) ……208.8万円 新生シトロエンジャポンの大きな期待を背負って、日本市場にリリースされたコンパクトモデル「C3」。丸みを帯びたボディが愛らしいダブルシェブロンのニューカマーに、4台のシトロエンを所有したことのある自動車ライター、下野康史が乗った。どんなヒトにC3を薦めるのか?ゆで卵の殻をむいたみたい
8.9%対6.0%。ヨーロッパにおける「プジョー」と「シトロエン」の新車販売シェア(2001年1月〜9月)である。両者が構成する「PSAグループ」の2ブランドは、むこうではそれくらい拮抗している。
ところが、日本ではシトロエンの完敗だ。どうやら今年はドイツ車御三家を射程に捉えるセールスランキング4位を射止めそうなプジョーに比べると、シトロエンの販売台数は10分の1にも遠く及ばない。
「そんな窮状をなんとか打開したい」という期待を背負って導入されたのが新しいコンパクト・シトロエン「C3」である。
Cと数字を組み合わせた新世代シトロエンとしては「C5」に次ぐ2作目だが、C5とはデザインの共通性はまったくない。C3の魅力は、群雄割拠する小型ハッチバックのなかでもとびきり個性的な内外装にある。とくに斜め後ろから見ると、ゆで卵の殻をむいたみたいにツルンと丸い。テールゲートがこれだけ強い3次元カーブを描くクルマも珍しい。
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走ってナンボ
初めて運転席に座ったときは、その居住まいにも面食らった。といったって、ステアリングホイールもシフトレバーも、ちゃんと本来あるべき位置にあるのだが、いままで見たことないのはフロントピラーの“曲がりかた”だ。強いアーチ型に湾曲してウィンドシールドを支える左右2本の柱は、「アルファSZ」と並んで「車内から見えるもっともユニークな形のフロントピラー」と認定したい。とにかく、まずは見た目で人の心を掴む、そういう意味では久々にシトロエンらしいシトロエンである。
日本仕様のC3には、1.4リッターと1.6リッターがある。試乗したのは車両本体価格182.0万円の1.4リッターモデル。テストカーは、これに「スタイルパッケージ」と「コンフォートパッケージ」というセットオプションが加えられていた。前者は15インチ・アルミホイールなど、主に外装品のエクストラ。後者はレザーシートやシートヒーターなど、アメニティに関わる贅沢装備をひとまとめにしている。“全部のせ”では、しめて207.0万円になる。
とくに行き先も決めず走り始めると、いつのまにか紅葉直前のワインディングロードに踏み入れていた。気がつけば、峠をいくつか越えていた……。一見、デザイナーズブランドの洒落たタウンカーに見えるが、いざステアリングを握れば、C3はそういうクルマだ。いかにもヨーロピアン・コンパクトらしい「走ってナンボ」の実用ハッチである。
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“乗り心地大王”なら……
パワーユニットは、基本的に「プジョー206」の1.4リッターと同じだ。1360ccの4気筒SOHCに、変速機は4段ATが組み合わされる。見た目も206でお馴染みのスタッガード(ジグザグ)タイプのシーケンシャルモード付きATである。
75psのパワーは、1080kgの車重に対してそれほど潤沢というわけではないが、シーケンシャルモードで活発に運転すれば、山道の上りでもけっこうイケる。逆にDレンジに入れっぱなしだと、少々トロイので、サボらず左手でカシャカシャやることをお薦めする。
C3のプラットフォーム(車台)は、これからプジョーにも使われる新しい小型車用のユニットだという。それを支えるサスペンションでちょっと不満だったのは、乗り心地が期待したほどよくなかったことである。
フロントはマクファーソンストラット、リアはビーム式のコンベンショナルな足まわりだが、“乗り心地大王”のシトロエンなら、もうすこしフラットさとしなやかさがほしいところだ。昔、僕も愛用していた「AX14TRS」は、なんてことない金属サスペンションだったのに、ハイドロ・ニューマチックを凌ぐほどすばらしい乗り心地の持ち主だった。
とはいえ、まる一日、C3を走らせていると、やはりあのAXがオーバーラップした。コンパクトカーといっても、“クラウンのちっちゃいの”ではぜんぜんないところが、コンパクト・シトロエンのいいところだ。
デザインに“引き”があるので、日本でも多くの人が興味を持ちそうだが、なによりもまず自分で運転するのが好きな人に薦めたいクルマである。
(文=下野康史/写真=清水健太/2002年10月)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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