シトロエンC3プルリエル(2ペダル5MT)【海外試乗記】
変化自在 2003.06.11 試乗記 シトロエンC3プルリエル(2ペダル5MT) 2003年「インターナショナル・カブリオレ・オブ・ザ・イヤー」に輝いた、シトロエン「C3プルリエル」。一つのボディでいくつものスタイルに変身する。自動車ジャーナリストの河村康彦が、スペイン・マラガでの国際試乗会に参加した。シトロエンの意地
“ヨーロッパでポピュラーなボディ形式”といえば、ハッチバック。それも、日本ではすでに絶滅(?)してしまった感のある「3ドアハッチ」の人気が高い。が、シトロエンの意欲作である「C3」は、敢えてこれまで「5ドアハッチ」のみの展開だった。一体なぜか?
そんな疑問に応えたのが、今年2003年春のジュネーブショーでお披露目された「C3プルリエル」だ。
プルリエルのボディは、確かに左右2枚のドアとテールゲートから成る“3ドア”。けれどもそれは、そんじょそこらの3ドアハッチとはワケが違う。なぜなら、一見したところでは“キャンバストップ”付きにしか見えないこのボディは、時にフルオープンになり、時にはピックアップにもなってしまう変幻自在ぶりがウリなのだ。
すなわち、シトロエンは、C3の3ドアモデルにとびきりユニークで奇想天外なキャラクターを与えたということ。兄弟会社であるプジョーの「206CC」のような、最近流行(?)の格納式ハードトップの採用に走らなかったあたりに、独創の歴史と伝統に裏打ちをされた、シトロエンというメーカーの意地が感じられる。
サルーンからピックアップへ
「要素数にして60%はベースとなった(5ドアの)C3と同じ」というハードウェアの持ち主ながら、同時に「外装部分では一切の共通パーツを持たない」というプルリエル。そのルックスは、ご覧のように何ともキュートで親しみやすいものだ。丸っこいお尻が走り去る様は、新型「MINI」のそれと一脈通じる印象がある。
テールゲートは、まず上部のガラスハッチ、続いて下部のパネル部分という順番で上下に大きく開放できる。ちなみに、水平にまで開くパネル部分は、100kgまでの荷重に耐えるという。ラゲッジスペースは、後席使用状態で266リッターだから、まずは全長3.9m強というボディサイズ相応の実用性は、備えていることになる。
ルームミラー後方のダイヤル式スイッチを操作すると、「サルーン」モードから「カブリオレ」モードへ変身する。キャンバストップを後方に折り畳むまでは、スイッチひとつのワンタッチ。次にリアウインドウをフレームごと回転させてラゲッジフロア内に収納する作業は手動ということになるが、こちらもその動きは“一瞬芸”だ。
この時点ですでに開放感は抜群。格納式ハードトップのように収納スペースを考えてルーフ面積を小さくする必要は、このデザインならないのである。
さらに徹底したオープンエアを楽しみたいのならば、Cピラー部分と一体化したルーフアーチを取り外し、「スパイダー」モードへと変身させてしまえばOK 。ただし、アーチは片側12kgで“荷姿”も大きいので、正直ひとりでの作業はちょっときつい。さらに問題なのは、外したアーチは車載できず、その場に置き去りにしなければならないこと。となると、日本では大方の場合、前出「カブリオレ」モードまででの形態で我慢しなければならないかも……。
C3プルリエルの“変幻自在ぶり”の極めつけは、この状態からさらにリアシートバックを前倒しした「ピックアップ」モードだ。これはカッコだけの、単なる見かけ倒しではない。実際に大きな荷物の積載を考えて、固定用の4箇所のメタルリングまでも用意される“本格派”。リア席用のシートベルトをシート内蔵式にし、完全にフラットなフロア面を生み出したのが凄い。日本のように宅配システムの完備していないヨーロッパでは、想像以上に受けるかもしれない。
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まさにフル4シーター
プルリエルのバリエーションは、1.6リッターの“センソドライブ”(パドルシフター付き2ペダル5MT)と、1.4リッターの5MT。日本には来年早々にも前者が導入される予定だ。「スペシャルなモデルなので」通常のトルコンATやディーゼルエンジンは用意されない。
プルリエルは、リアシートバックとヘッドレスト内に40mmの鋼管パイプ製ロールオーバーバーを内蔵。そのほか、オープン化対応のボディ補強を行ったため、車両重量は5ドアモデルより若干重め。そのぶん加速感がやや鈍って感じられるのは事実だが、このクルマに盛り込まれたアイディアは、そんなマイナス面を補って余りある。
それどころか、絶対的な動力性能とは別の“爽快感”を味わわせてくれる。フロントのウインドウフレーム上端が頭上にかぶって来ないので、数あるオープンモデルのなかでも、オープン時の開放感は圧倒的に高い。ボディの剛性感はたしかに多少落ちはするが、一方、脚の動きのスムーズさは、5ドアモデルと同等だ。フル電動のパワーステアリングのフィールが自然なのも、C3ファミリーならではの美点といえる。
「洗車機もOK」というマルチレイヤー製のルーフを閉じれば、静粛性も予想以上に高い。後席居住空間も、ヘッドスペースに不満を感じる「ビートルカブリオレ」を凌ぐ。まさに、「フル4シーター」パッケージングの持ち主だ。
独創のアイディアが満載されたボディデザインに、シトロエンならではの、“意固地なほどのこだわり”を感じられる人も多いはず。ヨーロッパではたちまち市民権を得てしまいそうな、C3プルリエルである。
(文=河村康彦/写真=シトロエンジャポン/2003年6月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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