ホンダ・エリシオン・プレステージ SG HDDナビパッケージ(FF/5AT)【試乗記】
特等席は、運転席 2007.03.01 試乗記 ホンダ・エリシオン・プレステージ SG HDDナビパッケージ(FF/5AT)……463万500円
成熟期に入ったといわれる大型ミニバン市場で、ホンダが新たに投入したのは、「300psのエリシオン」。
存在感と所有感を高めたという新型に試乗した。
水平方向に広がる
ホンダの最上級ミニバン「エリシオン」。デビューから2年半がたち、従来の2.4リッター直4と3リッターV6の二本立てに、さらに大きな3.5リッターV6エンジンを積む「エリシオン・プレステージ」が追加された。
“プレステージ”なぶん、弟の「エリシオン」とは見た目が異なる。
切れ長だった眼は大きく見開かれ、グリルも大型化。押し出し感を増したフロントまわりは、「大型ミニバン(というのもミョーな言葉だが)」に堂々とした外観を望める声にこたえたものだという。
でも、どこかでお会いしたような……と、いちばん売れっ子のライバル「トヨタ・アルファード」の顔が思い浮かぶ。
「(プレステージは)水平方向に広がるデザイン。縦の高さを強調する他社ライバルとは、存在感を出すにも正反対のアプローチなんです」と、デザイン担当の西端三郎さん。そう聞くと、あれこれ勘ぐりたくなる第一印象はチョッとソンな気がする。
リアビューも、変わった。
テールゲートには、極太のガーニッシュが横一文字。バンパーの下には4本出しマフラーが光る。好き嫌いは分かれそうだが、フロントよりも印象的なのはたしかだ。
タイヤは16〜17インチの標準から、225/50Rの18インチへと大径化。ボディサイズでいえば、全高はそのままにノーマルの「エリシオン」より80mm長く、15mm広くなった。
まず300psありき
「ただ威圧するのではなく、内なるパフォーマンスが感じられるデザインを目指した」と紹介される、エリシオンのアニキ分。エンジンが一番のジマンである。
3.5リッターの排気量に、今度は「日産エルグランド」への対抗意識が感じられるが、「計画段階から“まず300psありき”でした」とは開発責任者の高野喜彦さん。オーナーの所有感を満たすためにも、馬力の大台超えにこだわったという。
最高出力300ps/6200rpmと最大トルク36.0kgm/5000rpm。ちなみに、エルグランドは240ps/6000rpmと36.0kgm/3200rpmだ。高級セダン「レジェンド」の心臓を譲り受けるも、排気管まで“ポン付け”とはいかないから、パフォーマンスと消音の両立にはたいへん苦労したらしい。
それは、車体中央にプロペラシャフトを置く4WDモデルが、エグゾーストパイプの取りまわしを自由にできず279ps止まりになってしまったことからも伺える。それでもスゴい数字だが、「作り手のこだわりを実現できたFFモデルのほうがオススメですね。」
試乗車は、FF。深めにアクセルを踏み込むと、大台超えのエンジンは野性味ある音をあげてレッドゾーンまでフケ上がる。車重のほうも大台の2トンに迫るから“暴力的なドラマ”というほどではないが、発進加速や追い越しで不足を感じることはない。
足まわりは、4輪ダブルウィッシュボーン。エリシオン固有の構造はそのままに、プレステージ専用のセッティングが施された。ミニバンにありがちな腰高感など皆無である。こんなドライバーズカーなら、せめて演出でシーケンシャルシフトをくれてもいいのに、などと欲が出る。
新入りのキャプテンは……
前席にはセンターコンソールボックスが新設された。「セダンのような囲まれ感を演出した」というけれど、インパネともども低くなだらかな形状だから、運転席まわりはとても開放的だ。
これまでは横3人がけのベンチタイプだけだったから、インテリア最大の目玉は、2列目の「キャプテンシート」。こちらも新設アイテムとなる。
ただし、スライド量はごく普通、のばした足をのせる流行りのオットマン機能は設定されない。アトダシにしては、ずいぶん“謙虚なキャプテン”である。
キャプテン化によるユーティリティへの悪影響は無視できない。
6:4に分割する3人がけの3列目シートで、フルスライドできるのは、2列目キャプテンシートとレールを共有する左側のみ。大きな右側は、独立した2列目のおかげでレールが中断、一番前に出しても左側より50センチほど後ろに留まってしまう。L字型の荷室は、ミニバンとしてはいかがなものか。
そのへんはホンダもわかっているのか、この「SG」グレードのみ、じつは2列目にベンチシートを選ぶことができる。
そもそもエリシオンプレステージは、「家族が増えたためにミニバンへの乗り換えを迫られる“セダン派”」が重要なターゲット。「広くて、積めて、7人乗れるセダン」だと思えば、それらたいていの欠点はゆるせてしまうというものだ。
なにせサンビャクバリキ。威風堂々。細かい文句は、似合わない。
(文=webCG 関顕也/写真=高橋信宏/2007年2月)

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