第299回:勝手に新春ビッグ対談その2 山内一典編
『GRAN TURISMO』は将来こうなる!?
2007.01.18
小沢コージの勢いまかせ!
第299回:勝手に新春ビッグ対談その2 山内一典編『GRAN TURISMO』は将来こうなる!?
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最新版グランツーリスモはタダ!
ってなわけで前回に続き突如勝手にやってる新春ビッグ対談その2は山内一典クン。そう、例の世界4600万枚の超オバケゲームソフト、ソニーPS用『GRAN TURISMO』(以下GT)の若きカリスマプロデューサーだ。
実は昨年末、話題騒然の新世代ゲーム機、プレイステーション3(PS3)登場にあわせて、お試し用ソフト『グランツーリスモHDコンセプト』がクリスマスと同時に提供されていたのだ。それも無料ダウンロードという今までにない手法で。つまり、タダっすよタダ!
しかもこれがやってみるととんでもないクオリティ。某サイトにゃ「1000円ぐらい取ってもおかしくない」って書かれてたほどで、個人的にも前作GT4に比べてリアル度倍。マジ、運転しやすくなってます。っていうか、お試し版だけあってコース短く、一種類しかない上、選べる車種も少ないんだけど、その方が忙しい俺にとっては逆に好都合って話で……。
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『GT5』=コミュニケーションに
小沢: えー、率直に言ってこんなに出来よくてタダでいいんですかって感じなんですけど、本当に大丈夫? PS3自体も儲かってないんでしょう……。
山内: ええ、いいんです。僕らの目的はもはやそこにはありませんから。今後、おそらく08年ぐらいに出る5作目のGT5は、今までの線形上にある進化じゃない。まったく別のゲームになるんです。
小沢: つまり、単純にHDコンセプトのクオリティのままコースが増えて、車種が増えるだけじゃないと?
山内: もちろんそれもありますけどね。というかドライビング・シミュレーターとしての基本性能はHDコンセプトよりさらに上がって、それ以外にもクルマを楽しむための要素が画期的に増えます。つまり概念が変わる。
小沢: 具体的には?
山内: 簡単にいうとコミュニケーションですね。PS2がPS3になってなにが変わったって、CPUがセルになって性能が飛躍的に上がって、ハードディスクが付いただけじゃなく、オンライン接続が可能になったことなんです。
つまりハードをネットワークにつなげることができる。要するに僕らとユーザー、僕らとメーカーの間に新しい関係を築くことができるわけで、ゲームをコアにしてまさに「カーライフシミュレーション」が体験できるわけです。
小沢: というと例えばネットでクルマを買ったり、パーツが付けられたりとか?
山内: それもそうですけど、それ以上にクルマ好き同士でクルマについて語ったり、情報を集めたり、競争したりすることが出来る。いま詳しくは言えませんが。
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なぜタダにしたかというと……
小沢: ふーん。でもだからといってタダにすることはなかったんじゃないの?
山内: いや、それよりもまずユーザーにGTを通して、PS3をネットに繋げてもらうことが先決だったんです。
小沢さんも自分でGTをダウンロードする時、画面に見えた景色はいままでにないものだったでしょう。
小沢: 確かにいままでにないモニター画面だった。絵がメチャクチャ精細なだけじゃなくて、新しい感じがした。少なくとも単純にこれ(PS)でメールが出来ればいいのにって思ったよ。
山内: そう、実はPS3の本質はテレビの進化なんです。ゲーム機というのはあくまでも入り口であって、もっと別の情報コミュニケーション手段。というのもテレビはここ何10年って進化してなかったですからね。
小沢: なるほど。要するに双方向テレビみたいなもんか。買い物とかコミュニケーションも出来るという。
山内: PS3はソフトもひっくるめたテレビの革命であって、本当の進化はこれからなんです。実際、HDコンセプトは3週間で日米あわせて既に約20万人にダウンロードしてもらってるんですが、そのうち毎日約1万5000人が動かしてる。
つまりユーザーの1割以上が毎日ゲームしてるわけで、それって物凄い確率だと思いません?
小沢: 今までのゲームにはないハマり方だよね。
山内: おそらく単純にゲームが良くできてるからだけじゃなくって、コミュニケーションとして楽しいからですよ。
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ドリフト走行も楽しめるように
小沢: まあねぇ。タイム出すたびにアナタは何位です! って出るのは楽しいよね。俺、最高で500何位ってのが出たような気が(笑)。
でもあと単純にゲームとしても凄く良く出来てると思うけど。実は俺、GT3まではクルマをマトモに走らせられなかったんだけど、GT4、HDコンセプトときてかなり普通に走らせられてる。っていうかいままでになくハマってるのよ。遅くて申し訳ないんだけど(笑)。
山内: それには2つの理由があって、まずは映像が画期的に高精細になった。要するに遠くの景色まで良く見えるんです。なにしろライトのレンズカットはもちろん、20万本の雑草が揺れる絵まで再現してますから(笑)。ドライビングには遠くの景色が大切ですからね。
小沢: なるほど。
山内: もうひとつは自動車の物理シミュレーションがより自然になってるんですよ。実はタイヤの表面と路面の間で力学的に何が起きてるかってのは完全には解明されてなくて、業界的には「マジックフォーミュラ」って言うんですが、タイヤメーカーはもちろん、自動車メーカーもおおよそ予測できてるだけなんです。駆動系とかサスペンションは、何が起きているか分かってますけど、こと摩擦に関しては不可解な部分が残ってる。
とはいえ、この10年間GTを開発し続けてきてある程度は予測できるようになった。それで運転がしやすくなったし、ドリフト・トライアルも出来るようになった。今回からドリフト走行も楽しめるようになってるんですが、あれは新しい物理シミュレーションソフトあってこそなんです。
フィオラノに招かれて……
小沢: ところでなんで今回からフェラーリが入ってるわけ? 今まで入ってなかったのに。
山内: 向こうから声をかけてきたんですよ。たまたまフェラーリの担当者と知り合ったら、彼が物凄いGTのファンだったという。
っていうか、フェラーリって物凄く面白い会社でね。最初は敷居が高いと思ってたのに、一度なかに入っちゃうと物凄くフレンドリー。去年なんて招かれてフィオラノに行ったら、いきなり599のカギをポンと渡されて「好きなだけ走って来い!」だって(笑)。
小沢: うまいねぇ。洗脳が。好きになっちゃったでしょう。
山内: あはは(笑)。まあ、勉強になりますよ。
小沢: でもそれだけGTが世界的クルマメディアとして浸透してるってことだよね。フェラーリですら見過ごせない存在になった。
山内: まだまだですよ。まだまだやることは沢山あります。
小沢: デキる男は違うねぇ(笑)。
ってなわけでどうやらゲーム×テレビ×α=GT!? になっていく模様。さしあたってPS3を手に入れたら誰でも楽しめますのでおひとつどーぞ!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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