マツダ・ロードスターVS(FR/6AT)【試乗記】
もう、硬派ではない 2006.12.27 試乗記 マツダ・ロードスターVS(FR/6AT)……260万円
ハードトップ仕様「RHT」が登場した今、「マツダ・ロードスター」のATモデルにはいかなる意義があるのか。初代の硬派イメージからは離れたが、雰囲気グルマとして新たな魅力を得たクルマとなっていた。
プレミアム感ならRHTを
ロードスターがオートマなんて……という気持ちを持ってしまう人は、きっと多いんじゃないか。実のところ自分にもそういう感覚があるわけで、オープン2シーターはマニュアルでなきゃ楽しめるはずがない、という思い込みはなかなか消し去ることができない。そして、ロードスターは初代ユーノスの質実なイメージが鮮烈だったから、どうしてもATを組み合わせるという発想が出てこないのだ。
しかし、今やメタルトップのモデルだって存在するのだから、そんな古くさいことを言っていては始まらないのだろう。
他の日本のオープン2シーターを見ると、「日産フェアレディZロードスター」はATモデルが主流だ。エンジンは3リッターで余裕たっぷりだし、スタイルも悠々たる風情なのだから、MTでせわしなく運転するのは面倒に思う人も多いだろう。
対して「ホンダS2000」は排気量を拡大してATにもマッチしそうなエンジンに換えてからも、MTのみのモデル構成である。こちらはユーザーが硬派イメージを保ち続けていて、ATを要望する声は少ないらしい。
マツダ・ロードスターは、3代目となってスポーツカーの存在感よりも、快適な雰囲気グルマの方向にシフトしたような気がする。
先代と比べると、エクステリアは陰影を抑え気味にして、いわゆる都会的な洗練を指向している。タンレザーのシートは見た目も華やかで、おしゃれオープンカーの資質は充分である。
そう思って油断していると、ドアミラーの収納ボタンが見つからずに困惑していたら実は手動だったりして、虚を突かれる。幌の開閉も手動だから、そのあたりにプレミアム感を求めたい人はRHT(リトラクタブルハードトップ)を選ぶのが賢明というものだろう。
慣れにくいマニュアルモード
エンジンはMTモデルと同じものだが、最高出力が4ps抑えられている。それは体感できるほどの差ではなく、充分なパワーを発揮してくれるけれど、目一杯回転を上げたところでリズミカルにシフトアップしていく気分のよさを味わうことができないのは仕方がない。
ステアリングホイールにはシフトスイッチが設けられているからマニュアルモードを楽しむこともできるのだが、表がダウン、裏がアップという仕組みに慣れるまでには至らず、自動のままで気楽に運転することにした。
昔「名車列伝」というプレステのマイナーなソフトがあった。それはかつての名車をサーキットで走らせることができるというもので、たとえば「ホンダS600」を選んで筑波サーキットに持ち込むのだが、なんとATで走ることもできるのだ。現実にはあり得ない設定で、どうにも違和感があった。ちょっとそれに似た感覚を抱く。
しかし、シフトスケジュールはよくできていて、安楽で快適なオープンカーと考えるならば、これはいい選択なのではないかと思えてきた。ブレーキを少し踏んだだけではシフトダウンしないが、アクセルペダルにのせた右足にわずかに力を加えるとギアが一段落ちる。悪くない演出である。
今も魅力的な選択肢
コーナリングの感覚は、より優雅にはなってきたものの、初代から受け継いできたものがしっかりと残っている。ステアリングを切ると、ふっと外側にはらむ気配があって、その一瞬の後に踏ん張りを見せるのだ。
最近のより安定指向の性格付けに慣らされてしまうと、少々不安を感じてしまうかもしれない。もちろん実際に危ない挙動を示すわけではないのだが、感覚的にも安定感を求める向きにはおすすめしにくいクルマである。
意地になってガンガン飛ばすのではなく、高速道路をクルージングしたり郊外の空いた道を流したりするには、こぢんまりしたサイズと適度に弛緩した運転感覚が心地よい。シートヒーターも装備されているから、多少の寒さは障害とはならない。ただし、風の巻き込みをシャットアウトしているわけではなく、スピードを上げるにつれてウィンドスクリーンの上から流れてくる気流は勢いを増していく。頭頂部に偽装を施している人にとっては、緊張を要する状況である。
2005年のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞したモデルではあるが、その後の販売状況が好調であるとは聞かない。初代が爆発的な人気を博した頃とは、時代が変わってしまったのだろうか。
ATモデルやRHTが加わり、むしろ受け入れるユーザーの層は広がったはずである。ロードスターは、依然としてスポーツ心をくすぐるクルマであるし、そこに快適性や運転の容易さが加わったのだ。クルマの楽しさを味わいたいという気持ちがあるならば、今も魅力的な選択肢であり続けていると思う。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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