BMW 335iクーペ (FR/6AT) 【ブリーフテスト(後編)】
BMW 335iクーペ (FR/6AT) (後編) 2006.12.16 試乗記 759万3000円 総合評価……★★★ 7年ぶりにフルモデルチェンジを果たした「BMW3シリーズ・クーペ」に試乗。直噴ツインターボ採用により軽量化された新型の走りはどう進化したのか。【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
直噴とターボは理想的な組み合わせである。直噴エンジンは燃料の高い霧化性によって燃焼温度を下げられるため高圧縮比化が可能になり、過給効果が十分得られない低回転域でのドライバビリティを高めることができる。さらに335iクーペでは、1千度以上の高温になるガソリンターボの排気温度に対応できる新素材タービンの採用で、ターボの燃費悪化の要因だったガソリン冷却(ガソリンを多めに吹くことで燃焼温度を下げる)を不要にするなど、細部にわたって先進技術を積極的に採用し、燃費の大幅な向上も実現。ターボでパワーを稼ぎながら、『ターボ=燃費が悪い』という定説を過去のものとしている。
その効果は、発進しようとアクセルペダルに足を乗せた時点で早くも明らかになる。自然吸気の「330i」とは明らかに異なる分厚いトルクで、回転上昇を待つまでもなく力強い加速を開始するからだ。この時、ターボラグをまったく感じさせないことにも驚かされる。実際には皆無ではないはずだが、制御系やトルクコンバーターに改良が加えられたという6段ATとの協調で、それを巧みに打ち消しているのだ。
その先の回転上昇も滑らかそのもの。ターボ特有の盛り上がり感はなく、あくまでリニアに7000rpmまで爽快に吹け上がるが、実際には分厚いトルクのおかげでそこまで回さずとも十分以上の加速を得ることができる。
つまり、最新ディーゼルと大排気量NAの長所を掛け合わせたかのような、これまで体験したことの無いパワーフィールを味わえるのだが、冒頭に記したように、それはあまりに平板過ぎて、これが単なる実用車ではなくBMWである以上、必ずしも手放しで賞賛できるものではないという感も正直言ってある。V型8気筒並みのパワーを、それより約70kg軽く実現したというこのエンジンだが、もちろんその真価と技術的価値は大いに認めるものの、V型8気筒にもまだ存在価値はあるということだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ランフラットタイヤの乗り心地は、確かに特定の条件では随分と良くなったと感じさせる。しかし、わだちで荒れた路面やザラついたワインディングなどでは、依然として定まらない進路と絶え間ない上下動に辟易させられる。ここは厳しく、その完成度は未だ納得できるレベルにはないと言っておく。
反面、その影響の少ない平坦路での快適性やフットワークは、非常に高いレベルにある。ワインディングロードに持ち込むと、コーナー進入時にはまさに切れば切った分だけ正確にノーズが反応してくれる。これこそ、上に書いた軽量設計のエンジンの真価がもっとも明確に出る場面。決して姿勢変化を抑えて強引に曲げているのではなく、しなやかに路面をトレースしながら向きが変わっていくから、ウェット路面だろうがクルージングするような速度だろうが、同じように一体感に浸れる。駆けぬける歓びは、飛ばさなくたって存分に堪能できるのだ。
アクティブステアリングは、もはや付いていることを意識させないほど自然な仕上がりである。しかし実際には、走行中常に働いている細かな操舵制御のおかげで、こうしたフットワークを安全に楽しめているのだということは忘れてはならない。
リアの落ち着きの良さも、この絶大な安定感、一体感に貢献している。多少激しく攻め込もうと、四輪がガシッと路面を捉えているのがありありと伝わってくる。ヤンチャな1シリーズに対してはもちろん、3シリーズ・セダンと較べても、より一層懐が深まった印象である。
おかげで、いい気になって飛ばしていると、気がつけばびっくりするような速度になっている。あまりに安定しているがゆえに速度感が狂ってしまうのが、難点と言えば難点だ。
(写真=荒川正幸(A)、河野敦樹(K))
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年10月23日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前)225/45R17 91W(ブリヂストン ポテンザRE050A)(後)225/40R17 94W(ブリヂストン ポテンザRE050AII)
オプション装備:メタリックペイント(7万5000円)/電動ガラスサンル/ーフ(14万円)/クライメート・コンフォート・ウィンドスクリーン(2万4000円)/アクティブクルーズコントロール(25万8000円)/HiFiシステム・プロフェッショナル・ロジック(8万6000円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
・BMW 335iクーペ (FR/6AT) (前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018924.html
・BMW 335iクーペ (FR/6AT) (中編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018927.html

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。






























