サーブ9-3スポーツセダン・リニア1.8t/アーク2.0t(5AT/5AT)【試乗記】
真面目な楽しさ 2003.03.11 試乗記 サーブ9-3スポーツセダン・リニア1.8t/アーク2.0t(5AT/5AT) ……378.0/415.0万円 北欧のプレミアムカーメーカー「サーブ」。中核モデル「9-3」シリーズを2002年のパリサロンで発表し、03年1月20日にわが国での販売を開始した。3/5ドアハッチから4ドアサルーンに変わったニュー9-3はどうなのか? 『webCG』エグゼクティブディレクター、大川 悠が乗った。
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小さな「9-5」
“小さな「9-5」”。新しいサーブの「9-3」に乗った印象は、この言葉に集約される。当たり前のことかもしれないが、9-5は2年前の2001年にリファインされてから、とてもよくなった。それを追うように登場した新型9-3も、前のモデルとは大きく性格を変え、より洗練度を増した。根本的かつ実質的な改善が、各所に見られる。
サーブの輸入販売権を持つGMジャパンは、名前を敢えて「9-3スポーツセダン」に変え、プレミアム・コンパクト市場へのサーブの初挑戦である、と謳う。先代モデルは、3/5ドアハッチのボディをもち、プラットフォームを共用する「オペル・ベクトラ」よりは高級であっても、広く“プレミアム”と認識されることはなかった。しかし今回は違うといいたいのだろう。
新型も基本のプラットフォームはベクトラのそれだが、ベクトラ自体も昨2001年にフルモデルチェンジを果たし、シャシーが格段に進歩した。サーブではこれをベースとしながら、さらに独自の技術を盛り込み、結果として“プレミアム・コンパクト”なる言葉を胸を張って使い始めたわけだ。
2台の新型9-3に乗って、その主張を納得できた。いまや世界の乗用車市場のなかで、もっとも競争が激しいカテゴリーに挑んできたのだから、当然、相応の気合いが入っているのだ。
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開発の思想が表現されたカタチ
文字通り9-5を縮小したようなボディは、タイトに引き締まっており、一見地味に見えるが、きちんと観察するとスポーティかつ各所に個性を盛り込んでいるし、質感も高い。すくなくともそのカタチは、このクルマの開発思想−−あくまでもドライバーを中心としたクルマであることを示している。
9-5と同様にベースの「リニア」、高級版「アーク」、そしてスポーティ仕様の「エアロ」の3モデルがラインナップされる。この日はリニアとアークのみが試乗に供された。前者は「Linear1.8t」、後者は「Arc2.0t」とグレード名の後ろにエンジン種別が付くが、いずれも2リッターターボを搭載し、チューンの度合いによって(150psと175ps)名前を分けている。
室内は、後者が控えめにダークカラーのポプラを使ったウッドトリムを取り入れていること、レザーシートが標準で装備されることを除けば、基本的に変わらない。
インテリアもまた9-5の様式を応用したようなもので、あくまでもドライバー中心にまとめられ、全般的に暖かい機能主義とでもいったスウェディッシュ・モダンのテイストに溢れている。ついでにいうなら、小ぶりのシートも心地よい。
リアルームも拡大されたというが、単に広いと感じるのではなく、全体的に何となく居心地がいい。リアのバックレストは6:4の分割可倒式に加え、長尺物用のスルーハッチも設けられている。その背後には使いやすい立方形の広い荷室が用意される。
全体に、室内各部やスイッチ、カップホルダーなど、細部まで目配りが行き届いているのが気持ちいい。
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巧みなエンジン・コントロール
従来の4気筒をベースに各部が改善されたオールアルミのエンジンは、おなじ2リッターの排気量から、リニアが150ps/5500rpmの最高出力と24.5kgm/1900rpmの最大トルク、アークは175ps/5500rpmと27.0kgm/2200rpmを発生する。後日販売されるエアロは、やはり2リッターから高圧ターボによって210ps/5500rpmと30.6kgm/2500rpmを発する。
個人的には、スポーツセダンとして受け止めるなら175psのアークが気に入った。むろんリニアでも十分に走るが、アークは余裕があっていい。最新のエンジン・マネージメント・システムの採用に助けられて、非常にナチュラルに反応するし、ターボには経験が長いメーカーだけあって、その効かせ方がうまい。中低速域を中心にトルクをサポートするから、ほとんどエンジン回転を3000以下ぐらいに保ったままで、かなりのペースで山道を駆け上ることができる。
要するに日常でもっとも使う領域で、一番トルクが素直に引き出せるから不自然な感じはないし、それ以上にストレスもない。意図的に回すと3500から快音を発するが、そこまで使うまでもなく、十分にスポーツ・ドライビングを楽しめる。
新しい9-3は、いずれのグレードでもシフターを前後することでギアを変えられる「セントロニック」を備えるが、アイシン・エィ・ダブリュ製の新しい5ATとターボエンジンとの相性がいいから、「D」レンジに入れっぱなしでもなんら不満がない。
サスペンションもかなり細かく手が入れられた。特にリアは「ReAxs」なる独自のステア特性が与えられた。これはコーナーで外側のタイヤにトーアウトを、内側にトーインを僅かに与えることで、アンダーステアを抑え、クルマの回頭性を良くするのが目的だ。従来のサーブの味付けに名前を与え、明確にしたものといえる。実際、それはかなり効果を発揮する。むろん乱暴に扱えばノーズは張り出すが、きちんと制御している限り、前後のバランスはとてもいい。
比較的クイックなステアリングからは、依然として僅かなトルクステアを感じさせられるものの、従来に比べれば格段に改善され、フィールはずっとよくなった。
ボディ剛性が高まっていることは予備知識として知ってたが、実際に乗っても感じることができる。「215/55R16」サイズのグッドイヤー・イーグルNCT5を履いたアークの場合、低速での乗り心地はやや硬い。だがこれもベクトラ同様、飛ばせば飛ばすほど快適になるタイプだ。
乗る前には、非常にオーソドックスなFWD(前輪駆動)セダンだろうと考えていたが、でも乗ってみると、その奥行きの深さに好印象を受けた。基本的にとても真面目につくられている。それでいてクルマの楽しみを乗るヒトに与えようとしているのが、最大の美点だ。
(文=webCG大川 悠/写真=小川義文/2003年2月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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