サーブ9-3スポーツセダン アーク2.0t(5AT)【試乗記】
もっと個性を! 2003.04.19 試乗記 サーブ9-3スポーツセダン アーク2.0t(5AT) ……415万円 2003年2月8日から日本での販売が開始された新型「サーブ9-3」。3/5ドアのハッチバックボディから4ドアボディに変更された。上級モデル「アーク2.0t」に自動車ジャーナリスト金子浩久が試乗する。完成されたターボエンジン
新しい「サーブ9-3」の走りっぷりは、旧型よりも格段に進化している。乗ったのは、リニア、アーク、エアロとラインナップされるなかの中間グレード「アーク2.0t」。
まず、エンジンがいい。ターボチャージャーを装着したサーブ自製の2リッター4気筒が非常に滑らかに回るうえに、ターボ特有の癖のようなものがみごとに消し去られている。ターボエンジンでは、ターボが効き出すのが唐突だったり、あるいはターボが効いている時と効いていない時とでのパワーの出方に著しく差があったりしがちだが、9-3にはそれがない。
学校の試験の採点などで、あらかじめ何点か余分に与えることを“下駄を履かせる”と表現するが、9-3のエンジンは、ちょうどターボでパワーとトルクの下駄を履かせたような感じなのだ。といっても、もちろん悪口ではない。アイドリング状態からすぐに厚味があるアウトプットを得ることができるから、どこから踏んでもターボの恩恵に浴することができる。とても使いやすい。使いやすいだけでなく、「パワーの粒子が細かい」とでもいうのか、アクセルペダルの微細な動きにも忠実に反応する。ここまで完成されたターボエンジンは希有な存在だろう。
乗り心地やハンドリング面も、大幅に向上した。旧型は(特にハイパワーバージョンにおいて)前輪駆動車の癖を強く残していて、アクセルペダルの踏み具合がクルマの挙動に直接現れたが、それがほとんど消えている。
たとえば、コーナリング中にアクセルペダルをさらに踏み込んでいくと、タイヤは直進状態に戻ろうとするから、切っているハンドルを強く保持していなければならない。ほかのメーカーのターボ車は、そうした前輪駆動の本来的な癖をドライバーに感じさせないように設計されているが、意図してなのかそうではないのか、これまでのサーブは独特の走りっぷりをしていた。ニュー9-3では、それが、だいぶ薄れた。
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大いに納得する
先代9-3のオリジンにあたる「900」のひとつ前の「サーブ900」までは、フロントガラスが円錐の一部を切り取ってきたように大きくラウンドしていて、シートに腰掛けた瞬間に眼の前にはサーブ独特の視界が開けたものだった。その後、サーブのフロントスクリーンは、ごく普通のモノになったが、しかし、最新9-3になっても、個性として残っているものはある。
飛行機のコクピットのようにドライバーの方を向いている各種メーターパネル類は、夜間走行用に速度計をのぞいて照明をブラックアウトできる。プラスチックの薄い板を何枚も重ねたエアコン吹き出し口や、センターコンソールにあるイグニッションキーホールなどが残され、サーブならではの独特な雰囲気を醸し出すのに貢献している。
運転席周辺の各種スイッチ類などは、BMWやアウディなどのドイツ製プレミアムカーのそれのように、精密な操作感をもっている。このあたりから受ける感じは、同じスウェーデンのボルボとは対照的だ。ボルボ各車は、スイッチやフォント類が大振りで、精密感というよりも、誰にでもすぐに馴染める親近感のようなものを重視しているように思えてならない。これは設計思想の違いだ。
9-3を運転していると、「さすがは飛行機を造っている会社のクルマだけのことはある」とサーブファンでなくても、大いに納得する。シートヒーターが3段階に調節できるところも、北欧のプレミアムカーとしての面目躍如といったところだろう。
余談だが、シートヒーター好きの筆者が知っている限り、3段階調節できるものはこの9-3だけである。もっとも、「アウディTTクーペ・クワトロ」などは、1度ずつ多段階に調節できるが。「レンジローバー」は2段階調節だが、ハンドルヒーターなるものが装備されていて、寒い日などはまことに具合がよろしい。日本に輸入されているなかで最も安いクルマとしては、「スマートクーペ」に7.0万円のオプショナル装備として、シートヒーターを付けることができる。
ハッキリしない
今度の9-3は、メーカーの狙い通り、プレミアムセダンにランクアップすることに成功した、と感じた。エンジン、乗り心地、そしてハンドリングのいずれも進境が著しい。路面からのショックやクルマの挙動を、ときに素早く、ときにジンワリと吸収するサスペンションは、しっとりとした乗り心地を実現していて、たいへん心地よい。
深く、奥行きのある荷室は大きな荷物を積めそうだし、リアシートの背もたれを倒せば、さらに広大になる。実用性がとても高そうだ。
このように、今度の9-3は大いに魅力的なのだが、ひとつだけ惹かれないところがある。それは、ボディの外観、カタチだ。特にCピラー。
Cピラーというのは、真っ正面や真後ろから見た時以外は必ず眼に入る、そのクルマを引き締めるフンドシのようなものだから、ビシッと締まっていなければいけない。旧型も、その前の900も、ハッチバックらしい実に頼もしいCピラーだったのが、今度の9-3はどこかハッキリしない。ウジウジしている。造形の際にデザイナーが迷いながら線を引いたのではないかと、見ているこちらが心配してしまうようなカタチをしている。フロントグリルなどはサーブのアイデンティティを活かしつつ、現代的にまとめるのに成功しているのに、惜しい。
新型9-3は、サーブらしい雰囲気をかろうじて残しつつ、さらに上質な走行性能を実現したことで“プレミアム性”を得ている。次は、サーブらしさを濃厚に感じるクルマを期待する。そうでないと、GMグループの一員とはいえ、年産たった13万台程度の規模を維持している意味がなくなってしまうのではないか。
昨年まで年産5.5万台だったポルシェが、SUV「カイエン」の導入によって7.5万台をステップに、近い将来に10万台を越えようとしている。同じく小さな量産メーカーたるサーブは、もっと個性を強くしてかまわないのだ。今度の9-3の走りの進化に驚かされたからこそ、切にそう願わずにいられない。
(文=金子浩久/写真=峰 昌宏/2003年3月)

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