フィアット復活物語 第15章「“類似品”まで登場?人気のフィアット・グッズの数々」(大矢アキオ)
2006.12.02 FIAT復活物語第15章:「“類似品”まで登場?人気のフィアット・グッズの数々」
■ブームの仕掛け人、フィアット
ここ数年イタリアでは毎冬、巨大文字入りのスウェットが人気だ。とくに今年はトリノ五輪やワールドカップなど、ナショナリズムに目覚める機会が多かった。そのため、デカデカと“ITALIA”の文字が入ったスウェットを着用した若人が多い。
そもそもこの文字入りスウェット人気に火をつけたのは、何を隠そうフィアットである。
仕掛け人はフィアット創業家の御曹司、ラポ・エルカーン(28歳)だ。
兄貴で副会長のジョン・エルカーンが貴公子然としているのに対し、ラポにはやんちゃ坊主の雰囲気が漂う。腕に漢字タトゥーの入った自動車エリートは、業界広しといえども彼ひとりであろう。女優との交際などで、たびたび女性週刊誌のグラビアも賑わす。
それはさておき3年前、当時フィアットのブランド・マーケティング部長だった彼は、1920-30年代のFIATロゴを入れたスウェットを試験的に発売してみた。すると、プレミアムがつくほどの人気が出てしまった。
以来スウェットが流行し、今やFIATのかわりにTORINOなんていう文字の入った“類似品”まで街のショーウィンドーを飾っている。
■古き良きイタリアン・ムード
前回紹介した「ミラフィオーリ・モーターヴィレッジ」にも、この大人気・FIATスウェットをはじめ、さまざまなFIATグッズを販売しているコーナーがある。
うら若きお姉さんにインタビューしようと思っていたのだが、「日本の有力自動車サイト取材」というボクの企画書が効いてしまったようで、ベテラン販売責任者が応対してくれることになった。
チータこと水前寺清子の雰囲気がないでもない、パトリツィア・ボッタッソさんである。
彼女によると、スウェットはもちろんだが、やはりアルファ・ロメオの盾型キーホルダーやミニカーといった定番ものもよく売れるという。
見ていてイタリアらしいのは、対面販売であることだ。イタリアではたとえパンツ1枚であろうと、高級品はいまだ店員さんに相談して、店の奥の棚から出してもらう。
ミラフィオーリでも、ショーケースの中やディスプレイされているモノを指さすと、店員さんが出してくれる仕組みだ。
さらに、ちょっと昔のせんべいのCMではないが、「なんか、なぁい?」と言うと、さらに別のバージョンを出してくれたりする。
そんなことをしている間に、エンスーと思われる他の客が、
「お前もランチア好きなのか?オレ、週末の市街パレードに参加するから、声かけてくれよな」
などと話しかけてくる。
血眼でショッピングするより、店員や他の客と会話を楽しむ余裕が必要なのである。
このあたり、前回紹介したようにショールームのニューウェーヴを狙いつつも、妙に従来のイタリアっぽいアットホームなムードが残っていて面白い。
なお、こうしたグッズとは別にカーアクセサリーを扱うサービスセンターもあり、併設するファクトリーで装着も可能である。
■充実のグッズに足りないもの
なお、写真はボクが訪れた時点で目にした商品の数々だが、限定生産品も含まれているので、すでに売り切れの場合もあることをお断りしておく。
ますますバリエーション充実のフィアット・グッズだが、何か足りないものがある。よく考えてみたら、わかった。“フィギュア”である。
今や日本では、ANA客室乗務員なんていうのは朝飯前、小田急ロマンスカーにだって、アテンダントのフィギュアがある。
日本のアニメで育った世代が増えてきた昨今、ミラフィオーリのコンパニオン・フュギュアを作ったら、そこそこ売れるのではないか?
そんな妄想にとりつかれていたら、水前寺パトリツィアさんが、
「Webに載ったら、ちゃんと教えなさいヨウ」
とボクに迫った。そして名刺をボクに手渡す。
自動車誌の仕事をして17年、ミス・フェアレディからもトヨタプリティからも、名刺など一度ももらったことはないのに。
へいへい。ボクはいい加減な返事をしながら、ミラフィオーリを後にした。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2006年12月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
番外編:大矢アキオ捨て身?の新著『Hotするイタリア−イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』 2007.3.22 『FIAT復活物語』の連載でおなじみのコラムニスト・大矢アキオ氏が、新著『Hotするイタリア−イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』を、二玄社より刊行した。トスカーナ在住10年の総決算ともいえる痛快なコラム集である。その大矢氏に直撃してみた。
-
最終章:「『君たちはもう大丈夫だ』と言いたかったけど……」 2007.3.17 ジュネーブ・ショーのフィアット。新型「ブラーヴォ」は評判上々、「アルファ159」にはTI追加、さらにアバルトやチンクエチェントなどがお目見えした。
-
第25章:「アバルト再生の日近し---『ストップ、宝の持ち腐れ!』」 2007.3.3 イタリアでは、「宝の持ち腐れ」が発生する。クルマの世界の代表例が「アバルト」なのだが、近日、再生の道につくことになった。
-
第23章:「フェラーリに人事異動の嵐、シューマッハー引退後の初仕事は“お笑い”だ!」 2007.2.17 フェラーリ黄金期の立役者シューマッハー。引退後の初仕事は「ミハエル園芸店」で働くことだった!?
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
