MINIクーパーS(FF/6MT)【海外試乗記】
モデルチェンジの“2つの狙い” 2006.11.24 試乗記 MINIクーパーS(FF/6MT) 2006年11月、BMWが手がけた「MINI」2代目がデビューした。内外デザインが変更され、BMW製の新エンジンが搭載された新型の印象は? 来春の日本上陸前、トップグレード「クーパーS」にパルセロナで試乗した。変わってないのか!? ニューMINI
「いったい、こいつのどこが“NEW”なのか!?」
思わずそんな声が聞こえてきてしまいそうなルックスの持ち主が、BMWの手によって2001年に蘇って以来、初のフルモデルチェンジを受けた“新型MINI”だ。
全長は60mm延長され、外装も100%がニューパーツ。というのに、うっかりすると近寄っても従来型との識別が困難なほど“ウリふたつ”に見える新型は、むしろ従来型のデザインに対する、BMWの自信のほどを示す作品といっていいかもしれない。
そう、かのアレック・イシゴニス氏の手によるMINI“クラシック”のデザインキューを巧みにアレンジして生み出された新世代MINIのデザインは、既に従来型で完成形にあったというわけ。
ならば何故、今のタイミングでモデルチェンジが必要なのだろうか?
デザインの新しいアプローチは考えてなかった
そんな誰もが抱きそうな疑問に対し、国際試乗会が開催されたバルセロナ郊外の会場で真摯に答えてくれたのは、ミュンヘンのBMW本社からやってきた新型MINIの開発責任エンジニア氏だ。
彼いわく、「今回のモデルチェンジの狙いは、新たにBMW製のエンジンを搭載することと、歩行者保護構造など最新の安全規準に則ったボディを採用することの2つ。もちろん、細かなリファインはあるものの、基本的にそれ以上の目的はない!」と実に明快だ。
そう、デザイン面での新しいアプローチなどは、毛頭考えていなかったのだ。
ちなみに、前述の60mm全長延長分のうち、多くがフロントセクションにあてられたのは、「より大きなエンジンを搭載することと、ボディに歩行者保護構造を採り入れるため」である。
ホイールベースは従来型と共通なので居住空間の大幅な拡大は実現されていないが、それでも「あまりにタイト」と評された後席での膝元空間は、フロントシートの形状修正などで多少なりとも改善され、前席のレッグスペースまわりもセンターコンソールをスリム化するなどでやや広げられた。
BMWエンジンのデキ
さっそく新しいMINIに乗り込むと、誰もがびっくりするのが、もはや「巨大!」と表現するしかない、さらに大きくなったセンタースピードメーターだ。
“クラシック”時代から受け継がれたそれは、もちろん今でもMINIの重要なアイコン。従来型ではナビをオプション装着すると、スピードメーターはステアリングコラム部へと移設されたが、新型では中央部にナビモニターをレイアウトしてその周囲の円周上に目盛りを配し、両立を実現した。
またセンターパネル部のトグルスイッチは、こちらもしっかり踏襲。正直なところその使い勝手は今ひとつだが、これも新世代MINIの重要なアイコンという扱いなのだろう。
今回用意されたテスト車は、すべてが「クーパーS」のMT仕様だった。従来型は自然吸気エンジン車から市場にリリースされたが、今度は「インパクトの強いモデルから」投入する。
効率やパワーを考えて、過給機をメカニカルチャージャーからターボチャージャーへと置き換えた1.6リッターエンジンは、従来型のクライスラー(ダイムラー・クライスラーとなる前)との共同開発ユニットに替わり、今度はBMWオリジナル作品。「フランスのPSAプジョー・シトロエングループとの共同開発」と伝えられる新しいユニットだが、実際に開発を担当したのは100%BMWなのだという。
アイドリング付近でクラッチミートするとほんの一瞬だけトルクが薄い印象だが、そこを過ぎればパワフルさに不満なし。強い加速力を必要としなければ1000rpmプラスからでも反応するフレキシブルさには、「BMW 335i」用ツインターボ付きエンジンと相通じるテイストがある。
一方、高回転域への伸びは、複数のテスト車で差が感じられた。ある個体は6000rpm付近から頭打ち感を示したし、ある個体は6500rpmのレッドラインまで軽く吹ける。後者が本来の姿だといいのだが……。
“ゴーカート・フィール”
従来型同様、“ゴーカート・フィーリング”を謳う新型のフットワークだが、ロールの小ささや転舵に対する応答の遅れの小ささにそれを実感出来るのは、オプションのスポーツ・サスペンションに17インチシューズを組み合わせたモデルの方だった。
一方、標準サス+16インチシューズの組み合わせでは、意外なまでにマイルドなハンドリング感覚で、刺激度がやや物足りない印象も。
ただし、ランフラットタイヤの辛さもあってハーシュの強い40km/h程度までの低速域を除けば、路面当たりが優しくフラット感も望外に高い後者に対し、前者は常時ヒョコヒョコとした動きが収まらない。
ま、そうして常に揺さぶられる乗り味というのが“ゴーカート・フィール”といえば確かにそういえるのだが……。
こんな新型に対して、「かわりばえがしない」という声と「安心した」という声は、恐らく半々程度になるのではないだろうか。従来型の姿を目にして「これ以上はいじりようがないだろうナ」と感じていた自分としては、”後者”の立場をとるのだが。
たとえいずれかの声が大きかったとしても、「予想通りの反応だ」と、プロデューサーであるBMWは評価するに違いない。
(文=河村康彦/写真=BMWジャパン/2006年11月)
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。










































