クライスラー・ボイジャー&グランドボイジャー(4AT)【試乗記】
『羨ましいモデルチェンジ』 2001.05.31 試乗記 クライスラー・ボイジャー&グランドボイジャー(4AT) ……356.0から422.0万円 1983年の登場以来、全世界74カ国で873万台余を販売したクライスラーの元祖ミニバン、ボイジャー。2001年モデルから第4世代に移行し、日本でも6月1日から販売が開始される。クライスラー顔になった最新モデルに、webCG記者が試乗した。
![]() |
![]() |
ウィングバッヂ輝く新型
「車検証の型式は変わるのですか?」と意地の悪いwebCG記者が、ダイムラー・クライスラー日本の広報担当に聞く。同社のドル箱モデルにして元祖ミニバン、ボイジャー&グランドボイジャーが「2001年モデルから4代目になった」というけれど、その実、フルモデルチェンジというよりフェイスリフトに過ぎないのではないか、と言いたいのだ。
「変わります」。言外の意図を汲むことなく、明快な答が返ってきた。
2001年5月28日、新型クライスラー・ボイジャーのプレス向け試乗会が、静岡県は須走を基点に行われた。6月1日から販売が開始される新しいミニバンは、ベーシックな「LX」(356.0万円)、レザーシート、パワースライドドア、オーディオ類を奢った「LXプレミアム」(390.0万円)、ボイジャーをストレッチしたグランドボイジャー「リミテッド」(422.0万円)の3種類がラインナップされる。
いずれも、フロントフェイスが、十文字グリルの“ダッヂ顔”から、格子模様を用いた“クライスラー顔”に変更されたのが最大の特徴だ。グリル中央には大きな「クライスラーウィングバッヂ」が配され、ギョロリと目をむいた4灯ハロゲンヘッドランプの採用と合わせ、ネオン、PTクルーザー、300Mといったクライスラー車に共通する顔つきとなった。わが国では、「ジープ」と較べていささか弱い「クライスラー」のブランドイメージを、なんとか強化したいのだろう。
パワースライディングドアとリフトゲイト
一新されたフロントエンド、2.5cm高くなったボンネット、より前方に倒されたDピラーとリフトゲイトウィンドウ、そして「サイドプロフィールをより均衡のとれたくさび型にする」(プレスリリース)ルーフとベルトライン、といった外観の変化とはうらはらに、2880/3030mmのホイールベース、前マクファーソンストラット、後リーフリジッドというサスペンション形式をもつシャシーは受け継がれた。もちろん、FFモデルがベースとなる。
日本に輸入されるのは、「両側スライドドア」「2+2+3シートの7人乗り」と従来通りの仕様で、当面、3.8リッターの四駆はカタログから落ち、3.3リッターV6のFFモデルだけとなる(4WD版は2002年に販売予定)。トランスミッションは4段ATのみ。先代と同じオーストリアはグラーツにあるユーロスター工場で生産される、ココロはアメリカンな欧州車である。
ニューモデルの目玉装備は、前席天井に設置されたスイッチひとつで開け閉めできる「パワースライディングドア」(LXプレミアムとリミテッドに装備)と「パワーリフトゲイト」(リミテッドのみ)である。特に後者に関しては“業界初”とクライスラーは鼻高々。「ピー、ピー、ピーッ」と警告音を発しながら、約4秒で開閉を完了する。
スライディングドア、リフトゲイトとも、電動モーターの駆動に抵抗を感じると即座に回転を逆転して作動方向を反転、つまり、障害物や人体の一部を挟むのを避ける仕組みを装備する。リアゲイトには、さらにゴムのウェザーストリップに「ピンチセンサー」を組み込み、異物を検出する。それでも指を挟まれたら、それはアナタの責任です。
![]() |
![]() |
![]() |
カタログより生活スペック
ラグジュアリーミニバンともいえるリミテッドに乗る。フル装備のレザー内装。3ゾーン温度感応式オートマチックエアコンディショナーがジマンだ。左右のセカンドシート間に設置されたセンターコンソールが脱着可能になったことも新しい。
フロントに横置きされた3.3リッターV6は、最高出力、最大トルク、ともに発生回転数を引き上げることで、14psと0.3kgmアップの174ps/5100rpmと28.3kgm/4000rpmを発生する。フロントブレーキローターが拡大され、ストッピングパワーも強化された。
フロントサスペンションのキャスター角が2度プラスされたので直進安定性が向上し、車重40kg増加の反面、リアサス4.5kgの軽量化が乗り心地に貢献し、さらにステアリングギアの容量3割アップがステアリングフィールに及ぼす影響も見逃せない、はずだが、ハンドルを握って一番印象に残ったのは「静かになった」ということだ。グランドボイジャーは、全長5.1m、全幅2.0mという立派な体躯だが、広い室内に、外部からのノイズがうずまくことがない。取り外し可能なセカンドシートも一脚につき5kg軽減して(それでもギックリ腰には注意!)25kgになったというから、40kgのウェイト増は、ボディの補強と防音防振に費やされたのだろう。しっかりとしたドライブフィールと合わせ、「なるほど、フルモデルチェンジだなァ」と思った。ショートボディのベーシックモデル「LX」も、もちろんボディの剛性感は高いけれど、受ける印象は変わらない。
1997年にオーストラリアで開かれたプレス向け試乗会で会った開発エンジニアたちを思い出す。「週末は、犬と一緒に釣りにいくんだ」「サードシートに座って、セカンドシートの背もたれを倒して足を載せてごらんなさい。それが、ボイジャーの特等席よ」。
クライスラー・ボイジャーが、「ステーションワゴンやセダンのオーナーにアピールするためには、この車はトラックよりむしろ乗用車の要素を多く持たせなければならない」という初代のコンセプトのまま、独立懸架やDOHCユニット、それに「豊富なシートアレンジ」を追加することなくベストセラーの座にとどまっていられるのは、ありていに言えば、ユーザーからそれで大きな不満があがっていないからだろう。
ミニバンに要求されるのは、カタログスペックより、生活のスペックらしい。
(webCGアオキ/写真=難波ケンジ/2001年5月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。