第48回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その3)
2006.09.13 これっきりですカー第48回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その3)
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■ラインナップは基本5車種
1959年10月に発表され、東京・晴海で開かれた「第6回全日本自動車ショー(東京モーターショー)」でも注目を集めたコンマースは、翌60年2月に発売された。基本的な成り立ちは前回(その2)に記したとおりだが、ボディサイズは全長×全幅×全高=3930×1690×1880mm。ホイールベースは2100mmと現代の感覚からすれば非常に短いが、これは日野ルノー(4CV)と同一だった。
エンジンはそのルノー用のボアを広げ、ストロークを縮めた(それでも60×74mmのロングストローク型)直4OHV836ccで、最高出力 28ps/4600rpm、最大トルク5.3kgm/2800rpmを発生。2速以上シンクロメッシュの4段MTを介して、車重990kg(バン)のボディを最高速度82km/hまで引っ張ると発表された。
バリエーションは「2人乗りバン」(PB10型、最大積載量500kg)、「5人乗りバン」(PB10-A型、最大積載量300kg、側面後部窓なし)、「5人乗りバン」(PB10-B型、最大積載量300kg、側面後部窓あり)、「10人乗りミニバス」(PB10-P型)、「11人乗りミニバス」(PB10-B型)の5種類。このうち「10人乗りミニバス」は、今日でいうところの 5ナンバーのワゴン。それに対して「11人乗りミニバス」は2ナンバーの小型バス。当時の法規では普通免許で運転できたが、乗用車より最高速度が抑えられるなどの制約が課せられていたのだった。そのほか担架を備えた「病院車」や「幼稚園バス」などの特装車も用意されていたという。
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価格は基本となる「2人乗りバン」(PB10型)で59万5000円。コンマースよりやや大きい、既存のキャブオーバーバンの代表的なモデルであるトヨタの「トヨエース」(1000ccエンジン、850kg積み)が61万円だったから、その値付は一見妥当なように思える。
だが、頑丈なラダーフレームに前後リジッドアクスルのシャシーに、フロント・ウインドシールドまで平面ガラスを使った平易なデザインのボディを載せ、エンジンもサイドバルブというトヨエースに比べれば、進歩的ですべてが新設計であるコンマースのコストは、相当に高くついたはずである。
とはいえ後発メーカーゆえの乏しい営業力を補うために、思い切った価格戦略を採らざるを得なかったのだろう。なお、「10人乗りミニバス」(PB10-P型)の価格は77万円だった。
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■はたして動力性能は?
それにしても、スペース効率に優れたFFを採用し、ボディの高さはあるとはいえ、全長4m弱、全幅1.7m弱のサイズで10〜11人乗りというのは、現代の常識では考えられない。シート配置については図をご覧いただければおわかりと思うが、日本人の体格が小柄だったとはいえ、かなり窮屈だったのではないだろうか。
だが、さらに想像を絶するのはその走りっぷりだ。もちろん筆者はコンマースのステアリングを握った経験などないし、それどころか実車を見たのも、幼少時の記憶がうっすらとあるのみである。また、バンやミニバスなど車種を問わずロードインプレッションの類いが記された資料を見つけることも適わなかった。唯一知りえたのは、型式認定時の審査試験結果の一部。それによると、2人乗りバン(車両総重量1650kg)で0-400m加速に31.9秒かかっている。額面を見る限りでは、今日の軽よりも非力なエンジンで総重量1.7トン前後の車体を引っ張るのだから、その数字もやむなしといったところだ。だが、もし現代の路上に引っ張り出したとしたら、あまりの遅さに絶句するに違いない。
ただしコンマースの名誉のために付け加えておくと、2800rpmという低回転で最大トルクを発生する836ccエンジンは、500rpmという超低回転域から使用可能なフレキシビリティを備えていたという。ワイドレシオの4段ギアボックスと相まって、当時としては必要十分な走行性能を備えていたのかもしれない。(つづく)
(文=田沼 哲/2006年2月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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第49回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その4) 2006.9.13 新しいコンセプトのトランスポーターとして、1960年2月に発売された日野コンマース。だがそのセールスははかばかしくなかった。
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