第288回:アロンソくん優勝おめでとう!!
時は金なり! 今だから話せるルノーF1強さの秘密(小沢コージ)
2006.11.08
小沢コージの勢いまかせ!
第288回:アロンソくん優勝おめでとう!!時は金なり! 今だから話せるルノーF1強さの秘密
■ルノーF1ファクトリーで
いやはやフェルナンド・アロンソ君、遅ればせながら2年連続F1シリーズタイトルおめでとう。実はオレ、貴方を応援してたんだよね。皇帝シューマッハーじゃなくて。
勝って引退って確かにカッコいいけど、ちょっとカッコ良すぎるじゃない。負けて引退の方が人としてスジ通ってるし、オレとしては納得できる。
だから日本GPでシューマッハー&フェラーリがブローした時は「スズカに神はいた!」と思ったもんよ。そもそも勝ち逃げって嫌いなのよ。個人的には。
ってなわけで今だから言えるルノーF1の強さの秘密をちょいとお届けします。実は昨シーズン前、イギリスはエンストンのルノーF1ファクトリーに行ってきたんでね。そこではいろんな発見がありました。
まず実感したのはF1の世界はつくづく“時は金なり”ということ。強くなるためには昔から「ヒト・モノ・カネ」と言われてて、高いパーツはもちろん、優秀でギャラのいいドライバー、監督、エンジニアが必要なんだけど、それ以上に“時間”がものを言う。
具体的にはマシンの製作期間よ。エンストンではひと通りパーツ製作現場や風洞実験室、カーボンモノコックを焼くカマなどを見てきたわけだけど、細かい違いなどは当然わからず、なにより衝撃を受けたのはマシン一台を作るのに要する時間。ななんと「17ヶ月」もかかるというのだ。
「ええーっ? そんなに長いのぉ」って感じで、マシンの基本デザインを凍結させてから、ブツができるまで1年半もかかる。ほぼ全パーツ手作りだから数ヶ月でできるだろうと思ってた俺が甘もうございました。
つまりこの事は、設計者が1年半も前から猫の目のように変わるレギュレーションや、それに対応した技術進歩を正しく予測できるかがキモになってくるってことだ。それを誤るとガソリンタンクひとつとっても大きく作り過ぎたりして、全体のマシンバランスに多大なる影響を及ぼすのだ。
そして当然逆に、製作期間が短ければ短いほど有利ということになってくる。なぜならレギュレーションそのほかの状況をより正確に見極めてからマシンを設計した方がよりギリギリまで攻めた設計ができるから。だからフェラーリはどうなの?と 聞いたら、
「ウチより短いんじゃない?」
と即座に返事が返ってきた。資金力の差などからそこにはハッキリとフェラーリ側にアドバンテージがあり、それはルノーも認めているのだ。
■風洞実験室は24時間フル稼動
そしてさらに問題になってくるのが空力デザイン。と言うのも空力は複雑怪奇でスーパーコンピュータによるシミュレーションでも読みきれないのと、エンジンパワーが抑えられ、タイヤに対する制限も厳しい中、いまだ一番差がつき、開発シロが残されている分野だということ。制限は増えているが、難しさがゆえに未知のゾーンもあるのだ。
そこで重要なのが風洞実験だ。というのも今回の取材でもうひとつ勉強になったのが「風洞実験室は24時間フル稼動」という事実。具体的には「パーツ開発者やらエンジン開発者やらマシンデザイナーまでが取り合い」だそうで、まさに空力を制すものが世界を制す、みたいな状況になっている。
実際、スケジュール表をチラっと見たら、ハッキリ言ってクリスマスぐらいしか空きがなかった。
逆に言うと「風洞が2つあったら開発はどんどん進む」そうで、金に余裕のあるトヨタなどがそういうことをやってくるかも?というウワサもある。
ただし唯一それをカバーする方法があって、それはマシン・デザイナーなりエンジニアのもつ予測力。つまり先を読む見識&能力&精度が高ければ高いほど設計を早く行っても問題はないわけで、ここにルノーF1チームは自信をもっているようでありました。
例えばさきほどのマシン製作期間の話を聞いた時、俺はエンジニアに、
「だったら数シーズン前、マクラーレンがデカすぎるドライバーのために途中でコックピットを作り直したことがあったけど、あれはどうなってるんだ?」
と聞いたら、彼はフフフと半分笑いながら、
「あれはマクラーレンだからだよ」
と答えたのだ。ルノーだったら当然あんなヘマをしないし、最近のマクラーレンが今ひとつなのは彼らがマヌケだから、と暗に言っているようだった。
■今後のキーは潤滑油
それから面白かったのがエンジン。担当エンジニアによれば今後キーとなるものに「ルーブリカント」があるという。
これは潤滑油のことで、要するにオイルやフルードのこと。いまやエンジンパーツごとの細かい素材規制やガソリン成分規制があるなか、オイルだけはいまだノーレギュレーション。つまり潤滑性があって、なおかつ水のように抵抗の少ないオイルがあったならば、それはまさにパワーアップと同じ効果が得られる。
そこでルノーは同じフランス企業のエルフと組んで、最先端の開発をしているのだ。まー、なんて抜け目のない世界。
ってなわけで、F1とはまさに国の総合力の戦いであり、ある意味、お金や時間以上にいかにマシンを“本質を突きつつ効率的に開発するか”の勝負になっている。そこがおそらくルノー最大のアドバンテージなのだ。
余談なのだが、その時のルノー取材で他にも驚いたことがあって、それは通訳。とある日本人ジャーナリストと2人だけの取材だったのだが、なんと通訳が一人に一人もつく。
しかも会議通訳さんがだ。会議通訳とはサミットや五カ国蔵相会議に出られるレベルの通訳のことで、当然ギャラはメチャ高い。でも聞けばルノーはいつもそういう人間を使ってるそうで、それはなによりも言葉の正確さを大切にしているということだし、なによりもアカデミックなのである。
だから俺は思ったなぁ。市販車をみててもあまりピンと来ないけど、実はルノーF1、もしくはルノーグループの強さの秘密はある主の“本質主義”にあり“アカデミックさ”にあるのではないかと。
資金力というより、ある種、絶対に本質を見失わない、正確で見識豊かなマシン開発力。それこそが猫の目のように状況が変わる過酷なF1グランプリで勝ち抜くポイントなではないかと思ってしまったわけなのだ。
ま、俺の勝手な想像だけどね。
(文と写真=小沢コージ/2006年11月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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