クライスラー300C 5.7V8(5AT)【海外試乗記(後編)】
価値あるクライスラー(後編) 2004.06.02 試乗記 クライスラー300C 5.7V8(5AT) 新開発のプッシュロッドユニットと、先代「メルセデスベンツEクラス」のシャシーを組み合わせた「クライスラー300C」。米独共作モデルにみる新しい価値とは? 『webCG』エグゼクティブディレクターの大川 悠が報告する。クライスラーのエンジン、ベンツのシャシー
クライスラーの新世代ハイパフォーマンス「300C」。エンジンは、3種類すべてがクライスラー製。2.7リッターのV6 DOHC、3.5リッターのV6 SOHC、そして今回試乗に用意されたのがトップの5.7リッターV8である。これは「ダッヂ・デュランゴ」などに使われている歴史の長いプッシュロッド・ユニットだが、クライスラーは全面的に新設計し、MDS(Multi-Displacement System)なる新機構を与えた。その名のとおり可変容積システムで、燃費を稼ぐべく状況に応じてV8がV4に切り替わる。実際はプッシュロッドの動きを油圧で規制し、バルブリフターを止め、給排気バルブを閉めるというもので、プログラムに従って1、4、6、7番が時々休む。
8気筒すべてが生きているときの出力/トルクは340ps/5000rpm、53.6kgm/4000rpmと、現代のアメリカ製サルーンでは最強とクライスラーは豪語する。トランスミッションはメルセデス設計でアメリカでつくる5ATとなる。
フロアは先代の「メルセデスベンツEクラス」のそれをベースにストレッチしたようなものだが、細部の部品や構成は当然異なる。サスペンションはメルセデス式に前はダブルウィッシュボーン、後ろはマルチリンクで、ともにほとんどメルセデスと同じようなサブフレームを介してマウントされる。
よくできたエンジン
南仏プロバンスの気候も気持ちよかったが、クルマもまたとてもよかった。アメリカの心臓にドイツの足となると、どうしても否定的な先入観を持ちやすいが、この組み合わせが実にいい。これまで経験しなかったような新しい感覚の大型車がそこに生まれていた。しかもそれが与える感覚は、何となく懐かしくもあった。
リラックスして流すことがとても楽しいクルマだったが、だからといっておとなしいわけではない。その気ならリアタイヤからスモークを立てるがごとく加速するし、フランス・アルプスに近い山道でも結構な勢いで飛ばせる。オートルートで踏み続けたら軽く240km/h以上をメーターは示すだろう。でも、軽く流しているだけでも充分に気分がいいクルマなのである。
何といってもエンジンがいい。比較的大きなプッシュロッドのV8が持つ独特の鼓動と応答性が、操る人間の気持ちとマッチする。6000rpm以上は絶対に回りたがらないエンジンだが、2000rpmから3000rpmぐらいが最高の部分で、いつも望むだけのトルクを引っぱり出すことができる。神経質になって観察してみたが、8-4-8への切り替えは事実上感知できなかった。「ホンダ・インスパイア」用ユニットほど高度な設計をしているとは思えないのに、この可変容積はよくできている。
何はともあれ気持ちがいいクルマ
乗り心地とハンドリングの妥協点も理想的だった。メルセデスと比べると多少ソフトで穏やかである。ひとつには18インチと径は大きいが、225/60と比較的サイドウォールが厚いタイヤが大きく貢献しているのだろう。
スタビリティもドイツ車ほど完璧ではないし、それほど俊敏でもないが、多少のロールを示しながら、それでも確実にリアでグリップしてついてくる大きなボディは、常にドライバーの手の内にあるような安心感を与える。そういえばメルセデス的に回転半径が小さいのも美点である。
「クロスファイア」ほどではないが、部分的には安っぽい内装、クッション長に欠けるリアシート、フロントに比べると妙におとなしいリアビューなど、細かいことを言い出したらそれなりに不平もあるが、そんなこと、このクルマそれ自体が持つ独特のおおらかな雰囲気を考えるとどうでもよくなる。
この300C、今秋遅くには日本に入ってくるはずである。その時には5.7リッターの他に3.5リッターも用意されるというが、本気になってヨーロッパのプレミアムと比べて悩むだけの価値があると思う。
(文=大川悠/写真=ダイムラークライスラー/2004年6月))

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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