第7回:「ピザ風お好み焼き」ダイハツ・コンパーノ(1963〜69)(後編)
2006.09.13 これっきりですカー第7回:「ピザ風お好み焼き」ダイハツ・コンパーノ(1963〜69)(後編)
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ダイハツ初の本格乗用車として登場したコンパーノ!イタリアンルックのボディをまとい、日本初のメカニカル・インジェクションを備えていたのだが……。
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■続々とバリエーションを追加
1964年2月、ヴィニャーレのオリジナル(バン)をダイハツの手で2ドアセダンにアレンジした、待望久しい本格的な乗用車が、「コンパーノ・ベルリーナ」の名でラインナップに加わった。ベルリーナとはセダンのイタリア式の呼び方だが、次に追加されたバリエーションもまたイタリア風の呼称を持っていた。翌65年4月に発売された「コンパーノ・スパイダー」。ルーフを取り去ったボディに、958ccに拡大し、ツインチョーク・ソレックスキャブレターなどで強化したエンジンを搭載した4座コンバーチブルだ。独立したフレームシャシーを持つために、こうしたオープンやトラック(後述)といったバリエーションづくりが比較的容易に行えたのである。
コンパーノのバリエーション攻勢は続く。65年5月にはベルリーナのボディを4ドア化し、スパイダーのそれをデチューンした1リッターエンジンを搭載した「ベルリーナ1000」、10月にはトラック、さらに11月にはベルリーナの2ドアボディにスパイダー用エンジンを搭載した「1000GT」を追加。翌 66年には3月にマイナーチェンジを実施、次いで「ベルリーナ1000・2ドア」や「ワゴン1000」を発売した。デビュー当初はファミリア、パブリカくらいしか競合車種のなかったコンパーノも、サニーやカローラ、そしてスバル1000といった新たなライバルを迎え、後に「大衆車元年」と呼ばれたこの年、大衆車市場の主流が1リッタークラスに移行するのに合わせて、800から1000に主力をシフトしたのだった。
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■日本初のガソリン燃料噴射
構造的にはきわめて平凡だったコンパーノだが、「日本初採用」だったメカニズムがひとつだけある。67年4月に登場した「1000GTインジェクション」に採用された機械式燃料噴射装置(メカニカル・インジェクション」がそれだ。ディーゼルエンジンのノウハウを生かし、独自開発されたガソリンエンジン用としては国産初のインジェクションを採用した直4OHV958ccエンジンは、65psの最高出力こそソレックスキャブを装着した従来の1000GT/スパイダー用ユニットと変わらないものの、最大トルクは0.5kgm大きい8.3kgmを発生。主として中高速域のトルクが向上したという。
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■強豪に囲まれて
その後コンパーノシリーズは、67年6月と68年4月にフェイスリフトを受けたが、大筋は変わらなかった。シャシーレイアウトをはじめ、コンパーノのコンセプトはデビュー当時においても新鮮味のあるものではなかったが、加えてそのころの日本車の進歩は日進月歩という表現が大げさではないほど急速だったため、 60年代も後半になると強豪ひしめく市場において急激に色褪せてしまった。販売実績にもそれは如実に現れており、68年の登録台数は1万4000台弱にとどまった。同級他車をみると、カローラが約13万6000台とコンパーノの10倍近く、次いでサニーが10万台弱。当初のライバルだったファミリアは世代交代を果たして9万台近くに達し、凝った設計で独自の道を歩んでいたスバル1000/FF1でさえ3万台弱を売っていた。つまり、コンパーノはダントツで最下位を独走していたのだ。
結局、コンパーノはモデルチェンジを迎えることなく、69年4月には後継車となる「コンソルテ・ベルリーナ」が登場する。これは67年に業務提携を結んだトヨタのボトムラインを支える、かつてコンパーノのライバルだったパブリカと共通のボディに、コンパーノから受け継いだ1リッターエンジンを搭載するモデルだった。このコンソルテが2ドアセダンのみだったので、4ドア・スーパーデラックスに限ってコンパーノは細々と継続生産されたが、それも69年中には打ち切りとなった。6年間の総生産台数は約12万台。なお、ダイハツが再び独自設計の小型車「シャレード」を市場に送り出したのは、それから9年後の1978年のことだった。
■これっきりとはいえ……
日本では珍しい4座コンバーチブルや、日本初のメカニカル・インジェクション装着車をラインナップしていたコンパーノだが、そうした特色はトヨタとの混血車であるコンソルテにはなんら継承されなかった。つまり「これっきり」だったのである。とはいえ、いささかこじつけがましいが、そうした技術的な進取の姿勢は2代目シャレード用1リッターディーゼルエンジン(当時世界最小のディーゼル)に、またイタリアンデザインへの指向は同じく2代目シャレードのデトマゾ・ターボに見ることができる、と言えないこともない。
そうそう、インジェクションのほかに、コンパーノにはもうひとつ「日本初」があった。1964年、トヨタや日産に先駆け、イギリスに初上陸を果たした日本車がこのコンパーノだったそうなのだ。数年前にイギリスの旧車ホビー雑誌でその事実を知って驚いたのだが、さらに驚かされたことには、その雑誌には英国人エンスーの手で新車同然にフルレストアされた初期型コンパーノ・ベルリーナが紹介されていたのだった。
(文=田沼 哲/2002年2月27日)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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第49回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その4) 2006.9.13 新しいコンセプトのトランスポーターとして、1960年2月に発売された日野コンマース。だがそのセールスははかばかしくなかった。
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