キャデラックXLR(FR/5AT)【試乗記】
見せびらかし、見られる快感! 2005.06.11 試乗記 キャデラックXLR(FR/5AT) ……1200.0万円 新世代「キャデラック」の旗艦「XLR」は、スタイリングと幌開閉時の派手な動作で目立ち度は抜群だ。自動車ジャーナリストの島下泰久は、いかにも無駄の多いこういうクルマがなくてはつまらないという。あふれるエンターテインメント性
アート&サイエンスという新たな方向性を推し進める、新生キャデラックの旗艦であるXLRは、見ても乗っても、実に刺激的というかエンターテインメント性にあふれた存在だ。シャープな線と面で構成された超ロー&ワイドなそのフォルムは、たとえクローズ状態だろうと、街を走っていて目立つことこの上ない。
そんな集まる視線を、さらに釘付けにするには、おもむろに自慢の電動リトラクタブルルーフを開いてやればいい。大きなトランクリッドがほぼ直立近くまで開いて、仰々しくルーフをしまいこむまでの一連の動作は、この分野で先行するメルセデス・ベンツSLあたりと較べると、洗練されているとはとても言い難いものの、人目を惹く効果は抜群。大体、街なかでルーフを開閉させるなんて、本人にその気があろうとなかろうと、注目を浴びることは間違いない行為なのだ。だったら思いきり楽しませてやろうじゃないの。XLRのリトラクタブルルーフは、そんな精神に満ちている。
開放感は想像以上
もちろん楽しいのは周囲だけじゃなく、2人の乗員も大いに楽しめること請け合いだ。有名宝飾メーカーのブルガリが手掛けたというインストゥルメントパネルの質感は、頑張っているもののあと一歩といったところ。小物や鞄などの置き場があればベター……など気になる部分もあるが、居住スペース自体は2人にとっては十分なほど広いし、ふかふかの本革シートもそれらしい雰囲気を醸し出している。ウインドディフレクターの類いは備わらないため後方からの風の巻き込みはそれなりにあるとはいえ、それも含めてオープン時の開放感は見た目から想像する以上で、風に乗って走り出せば、最高の気持ち良さが味わえる。
キャデラックの名に恥じない、すぐれた乗り心地の貢献している度合いも小さくない。GM得意のマグネティックライドコントロールと呼ばれる磁気を減衰力制御に利用した電子制御ダンパーは、当たりが実にソフトで、路面のうねりも大きな入力も軽くやり過ごしてしまう。ユルユルと心地よい、その期待通りの乗り味は、クルマの性格によく合っている。だから風が巻き込むなと思ったら速度を下げればいいのだ。それでもXLRは退屈だなんて思わせない、極上の心地よさで包んでくれるはずである。
肝心なことは、だからといって走行性能がおろそかにされてはいないということだ。バネ下のしなやかな動きの一方で、ボディは常にフラット感が保たれ、速度を上げていっても不安定になるようなことはない。オープン時でも変わらずステアリングの正確性は高く、グランドツーリングカーとしての資質は相当に高いと言える。
![]() |
無駄が多いから贅沢
心身ともに気持ちのいいツーリングには、もちろん、余裕のパフォーマンスを誇るエンジンの力も大きい。最高出力324psを発生する4.6リッターV8は、軽く流すようなシチュエーションでは粛々と、しかし充実したトルクを湧き出させる一方、右足にグッと力を込めれば排気量を忘れるほどの鋭さで迫力の吹け上がりを見せる。ビートの効いたサウンドも絶品で、これをダイレクトに聞くだけのために、オープンで走りたくなるほどだ。
ご存じの方もいると思うが、実はこのXLR、シャシーの基本骨格はコルベットと共通である。なるほど、その走りのポテンシャルの高さも、そう聞けばうなずけるところ。それでいて乗り較べても、コルベットとはまったく違ったテイストがそこにはしっかり表現されているから嬉しくなる。
理知的で合理的なヨーロッパのライバルと較べると、いかにも無駄が多いという感は正直あるが、それでこそXLRは、これだけ贅沢な存在になったのも確か。乗り手は、ドライバーもパッセンジャーも大いに選ぶけれど、それも含めて、オープンカーの否定できない歓びのひとつである見せびらかす嬉しさ、見られる快感においては、何をも凌ぐ1台である。こういうクルマ、やはりないとつまらないというものだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年6月)月刊『webCG』セレクション/オープンカー特集
「星空のために幌を開けよう!〜カジュアル・オープンカーライフのススメ」

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。