キャデラックXLR(5AT)【試乗記】
SLで満足できない人に 2005.01.05 試乗記 キャデラックXLR(5AT) ……1200.0万円 「メルセデス・ベンツSL」に挑む、キャデラックのラクシャリーロードスター「XLR」。自動車ジャーナリストの島下泰久が、ジャーマンとアメリカンの違いを探る。ブランド好きにもたまらない
エッジというエッジがシャープに切り立っている一方、面という面はどれもフラット。全長こそ長くはないが、幅は思いきりワイドで、そして思いきり低く平べったい。まさにキャデラックが推し進めている「アート&サイエンス」路線の極地と言えるフォルムをまとうのが、2シーターロードスター「XLR」である。そのエクステリアのインパクトは強烈そのもので、その点ではライバルと目される「メルセデス・ベンツSL」も、まるで敵ではない。
インテリアも、そんなイメージを反復したフューチャリスティックな雰囲気。アルミとユーカリウッドの組み合わせは、SLと比べて少し暖かみのある印象をもたらす。そして、眼前のメーターベゼルを見ると、「BVLGARI」のロゴが燦然と輝く。そう、XLRのインストゥルメントパネルは、宝飾メーカーとして名高いブルガリが仕立てを担当しているのである。こうした例は特別仕様車では時折存在するが、カタログモデルとしてはほとんど例が無いはず。よく見ると、リモコンキーにもロゴが刻まれている。なぜキャデラックとブルガリなのかはよく解らないが、ブランド好きにはこたえられないのではないだろうか。
とはいえ、純粋に質感という面で見ると、それこそSLにはまだ及ばない。スイッチ類の配置、素材の表面処理、パーツの合わせ目の精度といった諸々が、どれもあとちょっとという感じなのである。更に言うと、自慢のリトラクタブルルーフの振る舞いも、高級車らしさを削ぐ。トランクリッドがほぼ直立、見上げるような高さまで立ち上がり、メカっぽさ満点の骨組みを見せながらルーフをしまい込む様子は、まるで変身合体ロボか何かのよう。作動音もウィーンウィーンと大きく、閉じる時など頭上でガチャンッ! と大きな音がして、わかっていてもびっくりするし、ちょっとコワい。隣に何も知らない婦女子を乗せたら、きっと顔をひきつらせてしまうだろう。
極上の乗り心地
しかし走り出すと、そんなことすら些細なことと思えてしまうのも、また事実である。何より頬を緩ませるのは、その乗り心地の良さ。当たりはとてもソフトでユルく、いかにもアメ車的だなぁと思うのだが、それでも不思議と姿勢はフラットに保たれ、視線もブレることがない。そして、その印象は速度を上げていっても変わらず、それどころか、路面にぴたりと吸いついていくようにすら感じられる。
その秘密は、マグネティックライドコントロールと呼ばれる、磁気粘性流体を用いた電子制御ダンパーの採用だ。これが極上の乗り心地と、巧みな姿勢制御の両立を可能にしているのである。むろん、新型コーヴェットと共通となる最新鋭の後輪駆動プラットフォームに、そもそも高い実力が備わっているおかげでもあるだろう。
エンジンも実に気持ち良い。排気量4564ccのV型8気筒DOHCユニットは、最高出力324psを発生し、1670kgの車重に対しては余裕たっぷり。42.9kgmの最大トルクを4400rpmで発生する、比較的高回転型の設定だが、そもそも地力があるだけに低速域でも豊かなトルクを発生し、そこから6500rpmのリミットまで怒濤の勢いで吹け上がる。特にオープンにしている時にはサウンドも心地よく、アクセルを踏み込むのが楽しい。
おおらかな気分で
総じて、アメ車らしくゆったり流して気持ちよいキャラクターはしっかり踏まえつつも、独りの時にはちょっと鞭を入れてやろうという気になる。そしてそれを存分に楽しめる走りの素養を、XLRはしっかり備えているというわけである。
細部の煮詰めには不満な部分もあるが、それもアメ車らしさと思えば、まあ許せなくはない。というか、そういうおおらかな気分で乗るのが、きっと正しい接し方なのだろう。今や、特に夜の街にはあふれ過ぎてしまったSLでは、色々な意味で満足できないという人に、是非試してほしい。
ただし、もし本気で購入を考えるのであれば、そしてどんどんオープンで走りたいというのであれば、リトラクタブルルーフが自宅の車庫で、天井にぶつかることなく開閉できるかどうかだけは、あらかじめ確認しておいた方がいいだろう。
(文=島下泰久/写真=岡村昌宏(O)、洞澤佐智子(H)/2005年1月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。








