プジョー・クーペ407(FF/6AT)【ブリーフテスト】
プジョー・クーペ407(FF/6AT) 2006.09.07 試乗記 ……549.0万円 総合評価……★★★★★ あえて「クーペ」という名称を前にもってきた「プジョー・クーペ407」。実用性重視のセダンとは違うものを求められるクーペだが、この407はビジュアルの美しさだけでなく、走りも満たされるクルマなのだろうか?艶めきは非日常的な時に
「クーペ407」。繊細な美しさを誇った「406クーペ」の後を受けて登場したこのモデルの、あえてクーペを先にもってきた名称が意味するのは、つまりは“クーペ”という存在に対するプジョーの自信や誇りなのだろう。
実際、そのスタイリングは一見406クーペと似ているようでいて、鋭い眼光や各部の押しの強いディテールに、より強いアピールを感じる。サイズ自体も、全長で200mm、全幅も60mmと、格段に大きくなっている。いわゆるプレミアムブランドを筆頭に、セダンですらますます強く存在感を打ち出す傾向にある今、特別な存在であるクーペならなおのこと、繊細なだけではいられないということなのだろうか。個人的には、そこに寂しさも感じるのだが。
クーペらしさは走りにも鮮烈に宿っている。その中でもっとも活き活きとしていたのは高速クルージングの場面。静粛で、しかし心地よいサウンドが響き、乗り心地は至極快適で、ハンドリングも意のままだ。日常の取り回しには辛い部分もあるが、そもそもクーペは、そんなの承知の上で伊達に乗るべきもの。項目ごとに評価すれば低い点数をつけざるを得ない部分も、クルマ全体で見れば大して気にならないともいえる。
合理的で、高い日常性の中にちょっとエスプリを加えたクルマを得意とする一方で、こうしてちっとも合理的なんかじゃなく、むしろ非日常的な場面での艶めきや贅沢感を演出するクルマも見事に生み出してみせるプジョーは、まったく何てフランス的なブランドなのだろうか。「1007」などとはまったく違った意味で、いかにもプジョーらしい1台である。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
プジョーのミディアムクラスサルーン「406」がおよそ9年ぶりのフルモデルチェンジを行い、「407」に生まれ変わった。日本では2005年5月に、セダンとステーションワゴンの「SW」が発表され、遅れること約一年、2006年7月に2ドアの「クーペ407」が発売された。なお、407導入と同時にトップレンジの「607」がラインナップから落ちたことで、日本では最上級モデルとして扱われる。クーペ407は3リッターV6エンジンのみとなり、トランスミッションは6段ATが採用される。
(グレード概要)
クーペ407はモノグレード。しかしハンドル位置は左右どちらも選ぶことができる。インテリアはシートだけでなく、ドアトリムやダッシュボードまで革張りのインテグラルレザー仕様。快適装備として純正HDDナビゲーションシステム、6スピーカー、左右独立オートエアコン、バックソナーなども標準装備される。安全面においてはアンチスピンデバイスのESPが標準装備されるほか、クーペとしては世界で初めてユーロNCAPにて最高評価の5つ星を獲得した高い衝突安全性能を誇る。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
基本的にセダンと同形状のダッシュボードは、特に入り組んだ造形となる上面のモールディングやパーツの合わせの精度が今ひとつ。もっとスッキリとした形状ならば、そんなに気にならないと思うのだが。もしくは、試乗車はメーターフードやグローブボックス周辺まで覆うインテグラルレザーの内装色に黒を選んでいたが、明るめの色調を選べば、圧倒的な華やかさで難が隠れるかもしれない。
一方、メーターは細身のクロームリングで縁取られ、盤面の細かなピッチや書体も繊細な印象。ステアリングのスポーク部分にワンポイントで付けられたクロームのパネルも品良く、このあたりのセンスはさすがだ。
装備は充実していて、もはや何も付け足す必要はない。パイオニア製のHDDナビシステムは、手が届く所にあるのにリモコンなしでは操作がしづらいのが大きな難点。空調スイッチや電子制御ダンパーのモード切り替えなどがずらりと並ぶ操作パネルも、手探りでは使いにくい。大型のドアポケットは嬉しいが、パワーウィンドウのスイッチは手前過ぎる。こんな具合に、操作系は今ひとつスマートさを欠く印象である。
(前席)……★★★
乗り込む前に、まず驚くのがドアの尋常ではない重たさ。乗り込んで閉めるには、かなりの力がいる。強風の時などは特に注意が必要だ。
レザー張りの電動バケットシートは、ゆったりとしたサイズ。クッションは硬めで、座り心地は非常にしっかりしているが、個人的には、406クーペのふんわり柔らかな座面とコシのあるクッションを組み合わせた、いかにもフランス車らしいシートへの郷愁も感じる。見た目にも、深いシワの刻まれた表皮が、とても良い雰囲気だと思っていたのだが……。とはいえ、それは繊細で奥ゆかしい雰囲気だった406クーペだからこそ良かったもので、もっとコンテンポラリーなイメージのクーペ407には合わなかったのかもしれない。
セダンよりさらに20mm低い着座位置と長大なノーズ、横幅のあるボディに補助ウィンドウをつけてまで前方に投げ出されたAピラーのおかげで、視界や取りまわしは良いとはいえないが、バックソナーは標準装備。この重いドアを手で支えながらの後退は、男の僕でもキツいだけにありがたい。
(後席)……★★★★
乗車定員は4名ということで、後席は2人用。しっかりしたサイドサポートを持つシートは、すっぽりと身体を包む。ルーフラインが落ち込んでいて頭上空間こそ余裕はないものの、ホイールベースはセダンと共通とあって、クーペとしては十分以上のスペースが確保されている。407の後席はセダンとしては広いとはいえないが、クーペとしてなら、プラス2ではなく完全な4シーターと呼んで差し支えない。ジャケットや鞄だけでなく、人を乗せても大きな苦情は出ないだろう。
(荷室)……★★★★★
セダンより130mmも長いリアオーバーハングの恩恵で、ラゲッジスペースは400リッターの大容量を誇る。バンパーレベルは低くはないが、これはクーペだけに不満というべきほどの問題ではないだろう。しかも、それでも足りないとなればリアシートを倒してスペースを拡大することも可能だ。バックレストは左右分割式、座面は一体式である。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
出足はなかなかの鋭さだが、それはおそらくスロットルを踏み始めに大きく開ける設定なのだろう。実際には低回転域ではやや線が細い。100km/h走行時のエンジン回転数は約2000rpmだが、そこから加速しようとすると、すぐにキックダウンしてしまう。ギアはキープしたままトルクで加速できる余裕がほしいところだ。しかし6段ATの採用で、その時にも回転が大きく跳ね上がることはなく、また踏み加減で何段シフトダウンするかコントロールできるので、積極的に走らせると望外の一体感を感じる。さらに、低回転でのもの足りなさが逆に中〜高回転域での伸びの良さ、パワーの高まりを強調して、爽快感は抜群。滑らかで丸みのある回転フィール、艶かしいV6サウンドの相乗効果で、心地よい走りを満喫できる。
静粛性の高さも、特筆すべきポイントだ。フロントとサイドに採用した防音ラミネートガラスの効果は甚大で、風切り音など外部からの不快な音はほとんど耳に届かない。これだけで走りの質が2段階は高まっているとすら感じるほどだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
もっとも気持ちよいのは、平滑な路面を高い速度域で流している時。微小ストローク域ではサスペンションが、まるで舐めるようにひたひたと路面をとらえ、まるで分厚い絨毯の上を走っているかのようにスムーズな走りを披露してくれる。
しかし、大きなうねりや段差に遭遇すると、実はストローク感はさほど大きくないことにも気付く。絶妙なダンパーセッティングがカドをきれいに丸めてはいるものの、目地段差を乗り越える際などにガンッと大きめのショックが伝わることも。235/45R18というタイヤサイズの影響もあるのかもしれない。ただし、ボディの剛性感に不満はなく、こうしたショックも一発で収めてくれる。
大柄な体躯に似合わない軽やかなフットワークはクーペ407の美点である。ステアリングを切り込むと、ノーズが遅れなくインを向き、それにリアがしかと追従。狙ったラインを確実にトレースできる。旋回スピード自体も高く、頑張ったつもりでもまだまだ余裕が残る。切り替え式のダンパーはAUTOモードのままで十分だ。もちろん基本的にはフロントヘビーで、進入速度が高過ぎればラインが大きく膨らむ。コーナリング中に不用意にアクセルを踏み込んだ時も同様だ。しかし、それは乗り手の問題。セオリー通りきれいに走らせれば、それに応えてくれるフットワークである。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年8月1〜2日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年式
テスト車の走行距離:4139km
タイヤ:(前)235/45ZR18(後)同じ(いずれもピレリPZERO NERO)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:247.1km
使用燃料:37リッター
参考燃費:6.67km/リッター
