フィアット復活物語 第4章「復活劇を演出する、異色の“宇宙人”経営者たち」(大矢アキオ)
2006.09.02 FIAT復活物語第4章:「復活劇を演出する、異色の“宇宙人”経営者たち」
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■怒濤のごとき株価上昇
「もう紙切れ同然だな」
昨年夏のことだ。あるフォトグラファーは、ボクにこうボヤいた。フィアット株のことである。
イタリア人は、日本人以上に株投資に興味をもっている。彼は、その昔フィアット株を15ユーロで買ったのだという。それが約半分の7ユーロ台になってしまったというのだ。
ところが、彼のボヤきの直後から、フィアット株は業績回復とともにジワジワと値を上げ始めた。2月にグランデ・プントの成功が明らかになると、さらにその勢いは増した。そして先日8月6日、株価は年初めと比較してプラス50%を記録した。
簡単にいうと、お正月に100万円をフィアットに投資した人は、150万円になったのである。いくら欧州経済全体が活発だからといって、高速道路会社のアウトストラーデ株の伸びがプラス8.5%にとどまるのからすると、いかにフィアット株人気かがわかるだろう。
例のフォトグラファーも、フィアット株をヤケになって手放していないといいのだが。
■マネージャーたちの共通項は「異業種参入組」
さて、そうした新生フィアットを支えるマネージャーたちで目立つのは、ずばり「異業種参入組」である。
たとえば、アルファ・ロメオのブランド&コマーシャル・ディレクターであるアントニオ・バラヴァッレ。
今年42歳になる彼はトリノ生まれだが、修士号取得後の1989年からは英国企業でマーケティング業務に携わった。92年からは同じく英国の飲料メーカーで、あのギネスやジョニー・ウォーカーなどを製造するディアジェオ社に移籍。流通ルートの責任者を務めた。つまり99年にフィアットに移籍する以前の彼のキャリアは、すべて英国なのだ。
そもそも2004年から現在まで社長を務めているセルジオ・マルキオンネにしても国際派である。
52年にイタリア中部に生まれたマルキオンネは少年時代、両親とともにカナダのトロントに移住する。
83年、世界的経営コンサルタント会社の税理士として職業人生を始めた彼は、次にプラスチック包装材メーカーに移籍。途中数社に在籍したのち、94年にはチューリッヒに本社を置く化学企業に移り、やがて会長の座につく。さらに2002年からはISO9001検査を行なう機関の社長を務めていた。
マルキオンネはイタリアとカナダの二重国籍をもち、一流の経理マンである。しかし、フィアットは彼にとって初めてのイタリア企業であり、自動車産業なのだ。
創業家であるアニエッリ家を中心とした従来のフィアットからすれば、異業種参入組どころか、「宇宙人」くらいの人選といえる。
ところで今年初め、『Solo Alfa 5』のために筆者が前述のバラヴァッレに会見したときのことだ。
彼は盛んに「イタリアニタ」という言葉を用いて、新生アルファを語った。italianitaとは、「イタリアらしさ」を意味する。外国人がイタリア車に期待するエモーションやパッションは、実は国内にいる者よりも海外にいた人間のほうが理解しているものだ。
彼らの国際感覚は、伊製ドイツ車を中途半端に目指したフィアット・スティーロのような失敗を避けることができるだろう。
■創業家にも宇宙人が
実はアニエッリ一族の人間にも、「宇宙人」がいる。
今年30歳のジョン・エルカーン副会長だ。故ジョヴァンニ・アニエッリ名誉会長の孫である彼は、生まれはニューヨーク、高校はパリである。
トリノ工科大学卒業後はジェネラル・エレクトリック(GE)に入り、アトランタ、ダブリン、バルセロナ、そして東京でも働いている。
ちなみに現在は、強豪サッカーチーム・ユベントスの役員や、大叔父さんであるウンベルト・アニエッリから引き継いだ伊日財団の会長も務めている。
プライベートでもアニエッリ一族の人間としては、ジョンは良い意味で「宇宙人」である。
実は先日8月27日、彼にとって初めての赤ちゃんが誕生した。夫人が出産を終えた後、トリノの病院からフラッと出てきたジョンは、TシャツにGパンというラフな姿。取り囲む報道陣に「新たなユベンティーノ(ユベントス・ファン)が生まれたよ」と気さくに話した。
さらに彼を待っていたのは、防弾仕様のランチア・テージスの後席?と思いきや、なんとブルーのフィアット・パンダだった。それも標準仕様である。奥さんからの預かり物か、運転席に座る前に白いスーパー用ポリ袋をリアシートにポンと置いていた。
まもなくチャイルドシートを装着し、「パンパース新生児用56枚入り」を積んだパンダが、ミラフィオーリ本社の役員用駐車場で見られるようになるだろう。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2006年9月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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