BMW335iクーペ(FR/6AT)【海外試乗記】
ハイパフォーマンスなニューモデル 2006.08.26 試乗記 BMW 335iクーペ(FR/6AT) BMWの新機軸、直噴ツインターボユニットを採用した「BMW 3シリーズ」の新しい2ドアクーペモデルがついに登場。デザインもさることながら、当然注目はその心臓に集まる。直噴+ツインターボの一番の狙い
「335i」という名前を聞けば、「3シリーズに加えられた、もっともハイパフォーマンスなエンジンを搭載するニューモデルだ」とすぐに気がつくに違いない。しかし、このモデルに積まれた心臓のスペックを、従来の方法で言い当てるのは不可能に近い。
何故なら、BMWらしく直6としたこのエンジンは、排気量が3.5リッターというわけでも最大トルクが350Nm級というわけでもないからだ。
「セダン/ツーリングと同じダッシュボード以外は、すべてが新規に開発された内外装」というフル4シーターのクーペデザインもさることながら、やはり3リッター直噴+ツインターボエンジンという新機軸にスポットライトをあてないわけにはいかない。
「同等出力を発生する8気筒エンジンと比較をすれば、ターボチャージャーやインタークーラーを含めても、約70kgはこちらのユニットが軽い計算」――重量に対する質問をしたわけでもないのに、オーストリアはチロル地方で開催された国際試乗会に出席のパワートレーン担当エンジニア氏は、まずはそのように教えてくれた。
こんなコメントから、この新世代ユニットが、より大きな排気量の自然吸気エンジンに対しての”ダウンサイジング・コンセプト”を念頭に置いて開発されてきたことが連想される。さらに、直噴技術の採用で「同出力のポート噴射式ターボエンジンよりも約10%の燃費向上も果たした」という“省エネ効果”も期待できる。
が、知っての通り、前後重量配分=50:50を目指しているのがBMW。すなわち、『駆けぬける歓び』をクルマづくりの根幹とするこのメーカーにとって、エンジン重量の低減によりこのポリシーを守ることができる、ということが一番大きいのではないだろうか。
ちなみに、50:50を守るべく、335iクーペのフロントフェンダーには軽量な樹脂製パネルまでが用いられている。
デキのいい自然吸気エンジンのごとく
335iクーペで走り出してまだ100メートルも進まないうちに、ぼくは心底このエンジンがもたらすフィーリングに驚かされた。
何しろ、常識的にはまだとてもターボ・ブーストの恩恵を受けられない僅か1000rpmプラスというエンジン回転数で、この心臓はまるでデキのいい自然吸気エンジンのごとく、しっかりとしたアクセル・レスポンスを味わわせてくれるのだ。
残念ながら日本導入予定ナシという6段MT仕様車でも、「1→3→5…」と“1速飛ばし”のズボラなシフト操作を、何の問題もなく受け付けてくれる。
さらに付け加えれば、重低音をさほど強調しないドライな排気サウンドも、「ターボ車らしからぬ雰囲気」を助長するひとつの要因。まさかBMWは、そこまで計算して新しいエンジンらしさを演じようとしているのだろうか……。
日本では2006年10月頃にデリバリー開始予定という6段AT仕様車も、トルコンAT搭載モデルとしては異例なほどにダイレクトな加速感を味わうことができた。
実はこのクルマのパワーパックは、エンジン自体はMTもATも完全に同一スペックなのだが、変速時にクラッチを滑らせ気味にしてエンゲージするなど、AT側をエンジン特性に合わせてチューニングしているという。
変速動作が短時間に終了するため、時にややシフトショックを意識させられる場面もあるが、ATモデルとはいえこうしたダイレクトなパワーフィールが味わえるというのは、3シリーズのトップモデルをチョイスする多くのドライバーはきっと好意的に受け止めるだろう。
ハイエンドモデルらしいカリスマ性
もちろんこのエンジンが「単に低回転域重視の、フレキシブルなだけの心臓」というわけでは決してない。4000、5000rpmといった領域からアクセルペダルを深く踏み込めば、「M3」の立場が危うくなるのではないか、というオーバー300psのパワーが炸裂する。こうして、いかにもシリーズのハイエンドモデルらしいカリスマ性を備えているのも魅力のポイントだ。
そんな強力な心臓が生み出すパワーをしっかり支えるシャシーも、もちろんこの新しいクーペの売りもの。60km/h程度までは、ランフラットタイヤを履くことも影響してアシの硬さが気になる場面もあるが、そこを過ぎればしなやかでフラットな感触が心地いい。
ターボ付きのガソリン・エンジンといえば、高出力を得られる一方で、燃費や排ガスのクリーン化とは相反するものと受け取られたのがこれまでの常識。が、そんなターボ・エンジンを、より一層の省エネやクリーンな排ガスが求められているこのタイミングで一体何故に投入をしたのか?――試乗前に抱いていたそんな疑問も、このデキの良さを体感し、将来を見据えたシナリオがしっかりと描かれた事を知った今となっては、すっかり霧散することになったのだった。
(文=河村康彦/写真=BMWジャパン/2006年8月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。