レクサスLS460(FR/8AT)【海外試乗記】
控えめなラクシュリーカー 2006.08.15 試乗記 レクサスLS460(FR/8AT) 2006年のデトロイトショーで初公開され、国内では4月にお披露目されたレクサスのフラッグシップ「LS」。9月の発売が待ち遠しい注目モデルの印象は?オーストリアで試乗した。一線を画した存在
塩の城=ザルツブルクは、この地で生を享けた偉大なる音楽家、モーツァルトの生誕250周年を迎えていた。オーストリアのほぼ中央にあるその街で、昨年母国デビューを飾ったばかりのプレミアムブランド、レクサスのフラッグシップ「LS」の国際試乗会が行われた。
LSとしては通算4代目だが、日本では従来型は「トヨタ・セルシオ」として販売されていたので、これが初代という数えかたになる。
日本人ジャーナリストが、日本の新型車にヨーロッパで乗る。そこには、新型LSが欧州のライバルと互角に戦えるクルマだという作り手の意志が込められていたのかもしれない。しかし実際に接したLSは、ライバルとは一線を画した存在だった。
これはLSに限ったことではない。昨年発売された「GS」や「IS」を日本で試乗したときも、似たような印象を抱いた。それと同じ気持ちを、オーストリアでも感じた。
今回試乗したのは量産前のプロトタイプであり、それなりの個体差があった。その点を考慮に入れたうえで話を進めれば、まず乗り心地は、繊細である。強靱な肉体で大入力を受け止める骨太感は欧州のライバルが上だが、4輪マルチリンクにエアスプリングを組み合わせたレクサスLSの足まわりは、細かいショックをしっとりいなす優しさで、欧州勢を上回るような気がした。
短時間ではあるが、リアシートに乗ることもできた。フロントより快適だった。サスペンションはリアのほうが振動の吸収が上手で、ストロークもゆったりしている。シートもリアのほうがクッションの厚みが感じられるなど好印象だった。新型はLSで初めてロングボディを用意することになったが、それを含めて、ショファードリブン需要を意識した結果だろうか。
世界初8段AT
パワーユニットは、2007年にはハイブリッドが登場する予定だが、今回テストできたのは4.6リッターV8ガソリンエンジン。シリンダー内噴射とポート噴射を併用したD4-S、吸気側に採用した電動連続可変バルブタイミング機構VVT-iEなど、最新テクノロジーをあますところなく投入しているが、そういったハイテクがでしゃばらず、黙々と仕事をするあたりが日本車らしい。
排気量なりの力感はヨーロッパ勢に引けを取る感じだが、とにかくきれいに、そして静かに吹け上がる。上品で控えめなエンジンである。といっても初代LSのように、無響室に放り込まれた感はない。アクセルを深く踏み込めば、控えめにエンジンの息吹を届けてくれる。
新型LSのアピールポイントのひとつ、市販車では世界初となる8段ATは、Dレンジではいま何速で走っているのか判別できないほど滑らかだ。ただしキックダウンに時間を要したり、マニュアルモードでは望みのエンジンブレーキに到達するまで何度もレバーを動かしたり、多段化のデメリットも感じた。これはメルセデス・ベンツの7段にもいえることだ。
パワーステアリングは切り始めにやや電動っぽい感触を残すものの、車速感応のバリアブルレシオは、BMWのアクティブステアリングとは対照的に、いわれなければ気づかないほど自然な感触に終始する。メルセデスが結局モノにできなかった電子制御ブレーキについても、同じことがいえる。
ハンドリングをチェックするような走りはできなかったが、ボディサイズから想像するよりもはるかに自然に曲がってくれる点が印象的だった。小回りが利く点も長所に数えられるだろう。
浸れる高級車
デザインがそうであるように、新型レクサスLSには強烈な主義主張はない。穏やかで控えめなラクシュリーカーだった。一部の日本人はそれを、個性が希薄だと評価するかもしれない。LSの展開する世界が日本的なのだから、そう感じるのは当然だろう。
音楽にたとえれば、モーツァルトのようなクラシックではなく、もちろんロックやJポップでもない。あえていえばニューエイジやアンビエントが近いかもしれない。アンビエント(環境音楽)という概念を提唱したひとり、元ロキシー・ミュージックのブライアン・イーノは、自身の音楽について、「浸る」という言葉を使っている。それは新型LSにも通じる表現に思えた。
ラクシュリーセダンがすべて、「操る」や「味わう」でなくてもいい。「浸る」高級車があってもいい。そんなメッセージを、レクサスLSから受けた。
(文=森口将之/写真=トヨタ自動車/2006年8月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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