オペル・ベクトラ2.2(5AT)【ブリーフテスト】
オペル・ベクトラ2.2(5AT) 2002.12.04 試乗記 ……335.0万円 総合評価……★★★★
![]() |
夢を載せる余地
2002年7月から正規輸入が始まったベクトラは、オペルのミドサイズモデル。世界中で「フォルクスワーゲン・ゴルフ」と死闘を繰り広げている「アストラ」の兄貴分にあたる。とはいえ、ボディサイズは全長が4.6m、幅が1.8mだから、ふたまわりほど大きい。寸法からいくと、日産スカイラインといい勝負だ。
オペルのデザイナーが「地味だけれど頑張った」と思わせるのが外観で、不格好になりがちなビッグキャビンスタイルを採りながら、ライトはじめ各部パーツの形状を工夫し、水平に走るラインを効果的に反復することで、全体として上手に斬新なイメージを醸し出した。好き嫌いは別にして。
実際、室内は広い。特に、先代からのボディ拡大分の大部分を消化したリアシートは余裕の空間。ベクトラをショファードリブンとして使うヒトが出てきても、なんら驚かない。
パワーソースとして、トルキーな2.2リッターユニットを搭載。5段ATとのマッチングもいいから、実用サルーンとしての動力性能に不満はない。見かけよりずっと活発なハンドリングも加点要素だ。サスペンションがスロットル操作によく反応し、活き活きとした印象をドライバーに与える。
ニューベクトラ、商品力はじゅうぶん。販売拠点として、ヤナセネットワークという伝統あるディーラー網をもつ。ブランドイメージの向上には? 「Creative German Engineering for Better Living(快適な生活のためのクリエーティブなドイツのエンジニアリング)」を掲げる。無骨なスローガンだが、要は、新しいベクトラにはヒトと荷物だけでなく、“夢”を乗せる余地もあるといいたい。オペルは、真面目に主張している。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2002年3月のジュネーブショーで、シリーズの先陣を切ってセダンが披露された3代目ベクトラ。7年ぶりのフルモデルチェンジを受けたオペルのミドレンジ・モデルである。65mm延長された2700mmのホイールベースに、「テンション(緊張感)」と「モーション(躍動感)」を高次元でバランスさせたと謳われる、先代よりひとまわり大きなボディが載せられた。
同年7月2日から日本での販売が開始された。機関は「2.2リッター+5段AT」のみで、トリムレベルによって「2.2」と「2.2プレミアム」に分けられる。ステアリングホイールの位置は、いずれも右だ。
(グレード概要)
テスト車のベクトラ2.2は、2.2プレミアムより27.0万円安い335.0万円のプライスタグをつける。上位グレードとの違いは、「レザーシート+シートヒーター」がファブリックとなり、リアガラスの「電動サンシェード」、駐車時に前後に障害物がないかを検知する「パークパイロット」が省略されること。アルミホイールは17(7J)に対して16インチ(6.5J)、タイヤサイズは「215/55R16」になる(プレミアムは「215/50R17」)。ベクトラ2.2のボディカラーと内装色は、「銀」「青」「赤」には「黒ベロア」、「紺」「グレー」には「ベージュ・ベロア」が組み合わされる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
幾何学デザインのインストゥルメントパネルを、ウッドパネルがザックリ横切る建築的な造形。一方、パネル上下の樹脂類ほかの質感はそれなりだ。センター上部には、平均燃費、速度、走行可能距離などを表示するオンボードコンピュータのディスプレイが設置される。将来、ナビゲーションシステムに転用するには、少々、サイズが小さいか。「キーレスエントリー」「集中ドアロック」「脱臭フィルター付きオートエアコン」「クルーズコントロール」はじめ、「ラジオ+MDプレイヤー」「インダッシュ式6連奏CDチェンジャー」など、装備は豊富。革巻きステアリングホイールには、オーディオ類の操作ボタンが備わる。インパネ右端のライトスイッチの下には、内張りをした小銭入れあり。
(前席)……★★★
「整形医学理論から設計された」(プレス資料)ということは、言われないとわからない一見平凡なシート。座り心地も平凡だが、あたりは柔らかいもののズブズブとオシリが沈まないから、疲れにくいのかもしれない。意識はされないが、通常走行時のホールド性は高い。むやみにドライバーの上体が動かない。左右とも電動でポジション調整できるほか、ランバーサポートとして、背もたれの腰付近を手動のレバーで押し出すことも可能だ。運転席側は3ポジションまでのメモリー機能付き。側面衝突に備えたためか、ドアポケットがドアの前半分以下しかないのは、ちょっと残念。
(後席)……★★★★★
大きくなったベクトラの魅力のひとつが、広い後部座席。シートのサイズはたっぷりとられ、余裕ある膝前空間、高く、後までのびた天井と、居住性満点。トンネルコンソール後端にエアコン吹き出し口と、アクセサリー電源用ソケットが設けられる。センターアームレストはもちろん、座面前端中央部には、2人分のカップホルダーが収納される。容易に引き出せるサイドウィンドウ用サンシェードは、ありがたい装備だ。身長170cmくらいまでなら、しっかりしたヘッドレストと3点式シートベルトをもつセンターシートも、(両脇の乗員の体型にもよるが)さほど快適性を犠牲にすることなく実用に使える。
(荷室)……★★★★
“実用”に“プレミアム”を足すべく、よく研究されたラゲッジルーム。トランクリッドは、2本のダンパーで支持され、荷室を浸食しない。後席センターのアームレストには、トランクスルー用のフタが設けられる。もちろん、リアシート背もたれを分割して前に倒すことも可能だ。キャビンとの境、バルクヘッドを長方形に切り抜かなかったのは、ボディ剛性を考慮してのことだろう。容量は、先代より20リッター増えた500リッター(VDA法)。床面最大幅=113cm、奥行き103cm、高さは50cm。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
オペル自慢のオールアルミ「ECOTEC」ユニット。2.2リッター直4DOHC16バルブで、147ps/5600rpmの最高出力と、20.7kgm/4000rpmの最大トルクを発生する。2本のバランサーシャフトとマスフライホイールを備え、「6気筒エンジンに匹敵するスムーズな動作(プレス資料)を狙った。たしかに回転はスムーズ。ただ、走りはじめの低回転域では、車内にこもり音がたまりがち。欧州の排ガス規制「EURO-IV」はもちろん、基準の差を乗り越えて、わが国でも平成12年排出ガス規制値25%低減レベルを達成、星ひとつの「良-低排出ガス」認定を得た。先代より1段増えた5段ATは、「ドライバーの運転スタイル」「勾配」などからシフトプログラムを判断する「アダプティブプログラム(学習機能)」付き。シフターを左のゲイトに移せば、前後でギアを変えるシーケンシャルシフトも可能だが、「D」レンジに入れっぱなしでじゅうぶん。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
前マクファーソンストラット、後マルチリンクの足まわり。アーム類、ブレーキャリパーなどにアルミを使用、バネ下の軽量化を図った。乗り心地は、ことさら感銘を受ける類ではないが、ステアリングレスポンスのよさが、街なかドライブでも感じられる。フォルクスワーゲンと比べて相対的に“ちょっとラテン入ってる”オペルのサルーンらしく、ハンドリングは予想外に活発。一方で、「ESPプラス」と名付けられた最大3輪のブレーキを同時に制御するアンチスピンデバイスによって、ドライバーの“過度なお遊び”は拒否する。
ニューベクトラは、カーブ中のブレーキをコントロールしてラインを外さない「CB(コーナリングブレーキ制御システム)」、発進時のスリップを最小化する「トラクションコントロール」、ブレーキを踏んだときの制動力を前後に配分する「EBD(電子制御ブレーキ制御システム)」、緊急時にブレーキを踏む力を補助する「ブレーキアシスト」など、エレクトリックデバイス満載。受動安全性としては、前席ダブルエアバッグ、サイドエアバッグに加え、後席まで広がるカーテンエアバッグを標準で装備する。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年7月22-24日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前)215/55R16/(後)同じ
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(6):山岳路(1)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。