オペル・ベクトラ2.2プレミアム(5AT)【試乗記】
地に足がついた進歩 2002.07.26 試乗記 オペル・ベクトラ2.2プレミアム(5AT) ……362.0万円 凝った造形のサイドミラーばかり(?)が話題になったオペルのミドサイズモデル「ベクトラ」。尻すぼみ気味だった日本とはうらはらに、欧州でのベストセラーとして成功を収めた2代目ベクトラがフルモデルチェンジを受け、3代目に進化した。webCG記者がハコネで乗った。
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スローガンの具現化
メルセデスベンツ、BMW、フォルクスワーゲンのドイツ御三家は安泰。スウェーデンのボルボは堅調な販売成績を示し、伏兵フランスはプジョーが地道に売り上げ台数を伸ばす……。といったわが国の輸入車状況のなか、ヤナセネットワークという立派なディーラー網をもちながら、いまひとつサエないのがオペルである。問題は、冴えないのが日本に限らないということだ。
ライバル、フォルクスワーゲンが、ニューフラッグシップ「フェートン」の導入を控え、世界的にブランドの上昇指向を強める一方、欧州におけるGMグループの老舗オペルは、むしろこちらの方が“国民車”の名にふさわしい堅実なクルマづくりを続ける。ところが、第2次世界大戦が終わって60年になろうという昨今、豊かになった大衆という名のフォルクス(国民)の皆さまもまた、単なる実用の具としてはクルマを見なくなった。自動車メーカーもグローバリゼーションの波に洗われ、従来のテリトリーを守るだけでは存続が危ない。
いわゆる高級車メーカーが小型車部門に進出し、大衆車メーカーは上位クラスへ向かうなか、販売台数伸び悩むオペルが打ち出した新しいヴィジョンが、「Creative German Engineering for Better Living(快適な生活のためのクリエーティブなドイツのエンジニアリング)」である。クルマを技術的に進歩させるのみならず、生活をも豊かにする製品を生み出したい、他社との差別化はドイツの技術で、と。なるほど、いかにもゲルマン流に、生真面目に説明調だ。
ちなみに、キャッチコピーは「Fresh thinking - Better cars(自由な発想-より良いクルマのために)」。……そこのアナタ、「何をいまさら!?」なんて言わないように。彼らは真剣なのだ。
スローガンの具現化として、まずオペルのブリッツ(電撃)マークが新しくなった。より立体的に、エッヂが立った! ……もちろん、それだけではない。同社の新しいミドサイズサルーン「ベクトラ」が、2002年3月に開催されたジュネーブショーでお披露目され、同年7月2日、日本市場へリリースされた。
第2グループのトップ
巻き貝のようなサイドミラーにスポットライトがあたり、そこからクルマ全体に光がまわってスタイリングが露わになる……、というテレビCMが印象的だった先代から、7年ぶりに新しくなったベクトラ。3代目になる。今後、ワゴン、ミニバンも用意される予定だが、まず投入されたボディは、オーソドクスな4ドアサルーン。ドイツはリュッセルスハイムに建設された新工場で生産される。
本国では、1.8、2.2リッターの直4、3.2リッターV6、そして2、2.2リッターのディーゼルターボがラインナップされるが、当面、日本に入るのは2.2リッター直4(147ps、20.7kgm)のみ。シーケンシャルシフトが可能な「アクティブセレクト」付き5段ATが組み合わされる。トリムレベルによって、本革仕様の「2.2プレミアム」とファブリック内装の「2.2」にわかれ、ステアリングホイールの位置はいずれも右側となる。
車両本体価格は、335.0万円と362.0万円だから、トヨタ・ウィンダム(320.0万円から)あたりといい勝負だ。4気筒だけど。
ガイシャ勢と比較すると、フォード・モンデオ(262.0万円から)よりだいぶお高く、VWパサート(349.0万円から)よりちょっと安い。オペルが望む新型車の位置づけがよくわかる。同社は、ニューベクトラをして“新しいプレミアムセダン”と呼んでいる。500万円台からはじまる「E」や「5」は“古い”といいたいのだ。
「テンション(緊張感)とエモーション(躍動感)を高次元でバランスさせた」と自賛するボディスタイルは、たしかに旧型からガラリと変わった。フロントとリアに配されたメタルの横バーは室内でも反復され、ドアを開けると、一転、黒とグレー、クロームのモダンなインテリアに、今度はウッドの横バー(パネル)が車内を上下に分かつ。
オペルは新型ベクトラのデザインにそうとう自信をもっているようで、プレス試乗会にわざわざドイツから駆けつけたエンジニアは、「3代目の一番のウリは?」とのリポーターの質問に、間髪入れず「スタイリング」と答えた。ライバルをたずねると、VWパサートとアウディA4の名が挙がった。
ハナシを広げて、隣のエンジニアの方に本国でのオペルのブランドイメージを聞くと、「メルセデスベンツやBMWといったトップグループがあり、オペルは第2グループのトップを走っています」と謙虚に認め、「しかしオペルは違ったカスタマー、もっと若い層に訴えます」と戦略を語った。
ベクトラ「C」とも俗称される新型は、内外ともわかりやすく“新しい”のがウリだ。斬新だけれど、フォーリングスのクルマように、乗員にまでモードな装いを要求するところがない。「着やすさと気安さが、まぁ、オペルたるところだ」とリポーターは思う。トガリすぎないことは、ボリュームを狙ううえで大切なポイントである。
寡黙な働き者
ボディサイズは、4610×1800×1465mm。新開発シャシーのホイールベースは2700mm。先代のベクトラ「B」より、全長で115mmも長く、90mm太く、40mm背が高い。ホイールベースの延長は65mm。
大きくなったボディは、正直に室内スペースに反映され、ドライバーズシートに座るとガランと広い。
後席では、天井に向かっての絞り込みが少ないキャビンが利いていて、これまたガランと広い。リアシートにも3人分のヘッドレストと3点式シートベルトが備わるから、名実とも、オペルの3ボックスは5人乗りである。
エンジンは、2.2リッター直4DOHC16バルブ“エコテック”ユニット。同じGMグループの「サターン」由来のオールアルミエンジンで、もちろん専用に手が入れられ、147ps/5600rpmの最高出力と、20.7kgm/4000rpmの最大トルクを発生する。2本のカウンターシャフトが組まれ、スムーズさに配慮される。走り始めにスロットルペダルを踏みすぎると少々こもり音が耳につくが、クルマが動き出してしまえば寡黙な働き者だ。
組み合わされるのは、シーケンシャルシフト用のゲートを備えた5段AT。通常走行用ゲートは「D」ポジションのみで、実際、ミドサイズサルーンとしてベクトラを走らせるぶんには、これでじゅうぶんだ。マニュアルでギアを変える「アクティブセレクト」は、よほどせっかちなドライバーか、テストと称してハコネに赴く自動車サイトのリポーター以外は、めったに使うことはないだろう。
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電子装備満載
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット/コイル、リアがダブルウィシュボーンと原理的に同じ4リンク/コイル。アーム類にアルミを使ったのがジマンだ。タイヤは上級版「2.2プレミアム」が215/55の17インチ。もてあますことはないが、クルマの性格を考えると「2.2」の215/55R16でじゅうぶんだろう。乗り心地はフェアで、気に障るところはない。
「フォード・モンデオに対して、少々お高いのでは?」とリポーターが言った際に、本国のエンジニアが「質を上げていますから」と胸を張った要素が、アルミの足まわりと「ESPプラス」と呼ばれるアンチスピンデバイス。従来のESPが、4輪中の1輪にブレーキをかけて、アンダーステア(曲がらない)やオーバーステア(曲がりすぎ)を抑えるのと比較して、“プラス”は同時に3輪を制御できる。乱れ始めたクルマの挙動を安定させるだけでなく、望みのラインに乗せることができるというのが、エンジニアの主張だ。
そのほかニューベクトラは、コーナリング中に踏んだブレーキを左右別にコントロールする「CBC」、前後に適正な制動力を配分する「EBD」、緊急時のブレーキをアシストする「BA」、滑りやすい路面での発進を手助けする「TCプラス」と電子技術を満載、アクティブセイフティに積極的だ。一方、受動的安全装備たるエアバッグは、前席に2つ、サイドアアバッグ、そしてカーテンエアバッグが装備される。
大きなドンガラでリーズナブルな価格。ほどほどに新しく、真面目なつくり。ベクトラは文句なくいいクルマだ。大仰なスローガンはともかく、自分のポジションを冷静に計算し、地に足がついた進歩を遂げたといえる。個人的には、日本におけるオペルのサルーンは、VWパサートやアウディA4より、むしろ「ボルボS60」と較べて“better car”であることを示す必要があると思う。いかに上手に“快適な生活”を想起させるか、その点において、クリエーティブなドイツのエンジニアリングを発揮しなければならない。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏/2002年7月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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