オペル・シグナム2.2(5AT)/シグナム3.2(5AT)【試乗記】
新しいタイプの優等生 2003.12.10 試乗記 オペル・シグナム2.2(5AT)/シグナム3.2(5AT) ……355.0/422.0万円 「ベクトラ」のホイールベースを130mm延ばし、ゆとりある後席がジマンの「オペル/シグナム」。自動車ジャーナリストの生方聡が、千葉県で開かれたプレス向け試乗会で乗った。オペルの新しいフラッグシップはどうなのか?
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スーパーハッチバック
写真を見るかぎり、ただの5ドアハッチバックのように思えるオペルのニューフェイス「シグナム」。だが、実物を目の当たりにするとまるで印象が違う。大きく、立派なのだ。
それもそのはず、シグナムはベクトラから派生したオペルのフラッグシップなのである。全長×全幅×全高=4635×1800×1460mmのボディは、ハッチバックの代表格「フォルクスワーゲン・ゴルフ」よりもはるかに長く、ずっと幅広い。
リアのオーバーハングを切り詰めたり、太いCピラーを採用したことから、デザインこそ5ドアハッチバックの延長線上にある。一方、サイズがサイズだけに、旧型のベクトラワゴン同等のラゲッジスペースが確保され、さらに、現行ベクトラセダンより130mm長い2830mmのホイールベースが、“一クラス上”の後席スペースを提供。並みのハッチバックやワゴンではない、“スーパーハッチバック”とでも呼びたいクルマなのだ。
スポーティな2.2、コンフォートな3.2
そんな新種の販売が、日本でも2003年12月6日からスタートした。ラインアップは、新開発の直噴2.2リッター直4ガソリンエンジンを積む「シグナム2.2」と、3.2リッターV6搭載の「シグナム3.2」のふたつ。エンジン以外でも両者の性格は異なり、一言で表現すればシグナム2.2は“スポーティ”で、シグナム3.2は“コンフォート”という位置づけになる。たとえば、シグナム3.2がフルレザーシートや前席パワーシートを採用するのに対し、シグナム2.2は本革とファブリックと組み合わせたスポーツシートを装着する、という具合だ。また、ダッシュボードやドア内側のパネルは、3.2が“べっこう”調の落ち着いたデザインとなるが、2.2ではメタリック調パネルでスポーティさを演出。さらに2.2にはスポーツシャシーが採用される。
大人4人の快適移動体
試乗した印象もまた、シグナム2.2がスポーティ、3.2がコンフォートであった。
スケジュールの都合上、シグナム3.2から試すことになったが、適度な張りを持つレザーシートに身を委ねてアクセルペダルを軽く踏むと、低回転域から十分なトルクを発揮するV6エンジンが、約1.6トンのボディを軽々と発進させた。4000rpmで最大トルクの30.6kgmを発生するこのエンジン、常用する3500rpm以下の領域ではレスポンスに優れ、豊かなトルクを生み出すから、とても扱いやすい。高回転での伸びやスムーズさはいまひとつだが、ふつうに乗るかぎり不満に感じる場面はまずない、といっていい。足はどちらかといえば硬めではあるが、快適でフラットな乗り心地も好印象だ。
次に試したシグナム2.2は、3.2と直接比べると見劣りするものの、単独で見ればこれでも十分な動力性能を備えていた。シグナム3.2ほど発進に力強さはないが、動き出してしまえばこちらもピックアップに優れるエンジンと、フレキシブルな5段オートマチックのおかげで力不足は感じない。エンジンからのノイズもさほど気にならないレベルに抑えられており、あえて3.2を選ぶ必要はないと思ったほどだ。スポーツシャシーは硬さよりもむしろ軽快感をもたらし、快適さを損ねることはなかった。
ところで、シグナムの“ウリ”であるリアシートだが、座ってみると確かに広い。13cmのスライド量を誇るリアシートは、一番前の位置でも膝の前にこぶし2個分のスペースがあり、一番後ろの位置なら足が組めそうなほど余裕がある。さらにシートバックは最大30度の角度調整が可能だから、好みのポジションを採ることができる。左右のシートは独立しているから、シートスライド、リクライニングとも別々に調整できる点もうれしい。一方、センター部は狭く、クッションも硬いから、定員いっぱいの5人乗車はお勧めできないことを付け加えておく。
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ついていける?
これでワゴン並みに荷物が積めるのだから、シグナムは新しいタイプの優等生といっても過言ではない。ヨーロッパでは、「ザフィーラ」がコンパクトなミニバンブームを巻き起こしたように、このシグナムもまた新しい市場を開拓しつつある。日本では、シグナムの新スタイルに人々がついていけるかどうかが問題だ。ただ、セダンに飽き足りない人や、スタイリッシュなワゴンを求める人にとって、シグナムは格好の選択肢になるのは確実である。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2003年12月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。