オペル・アストラ1.6&2.0ターボ(2ペダル5MT/6MT)【海外試乗記(後編)】
第三の選択(後編) 2004.04.29 試乗記 オペル・アストラ1.6&2.0ターボ(2ペダル5MT/6MT) 多彩な電子制御を搭載するオペルのニューコンパクト「アストラ」。試乗に供されたのは、1.6と2リッターの2車種だった。南仏から、『webCG』エグゼクティブディレクターの大川 悠が報告する。最大の価値
南仏サントロペを中心としたプレス試乗会で、私たちに用意された「アストラ」は2モデルだけ。1.6の2ペダルMTたる5段イージートロニックモデルと、上から2番目にスポーティな2リッター、170psターボの6MTだった(200psの2リッターターボが、この夏に加わる)。
結果から言えば、狙い通り、ダイナミズムに溢れ、しかもCセグメントとしては大胆に個性を打ち出した気持ちがいいモデルだった。多少コスメティックアピールを強調しすぎたスタイルには好き嫌いがあるだろうが、このくらい前向きの方が私は好きだ。
室内はとても整然としているだけでなく、日本車以上の質感を演出しているのに感心した。いわゆるコンテンポラリー・モダンを、巧みに材質やデザインに活かしたその手法は、メルセデスの廉価モデルなどよりはるかに好感がもてる。
フィッティングがどうこうというより、基本デザインの哲学や材質選択がハッキリしているところに、「素材特性を活かす」という、バウハウス以来のドイツ近代主義的造形哲学を感じた。
しかもクリーンで思想がはっきりしたクルマづくりは、実は乗り味にも同じテイストで織り込まれていた。多分、それがこのクルマの最大の価値だと思う。
スポーティな設定
個人的な好みは1.6(105ps/6000rpm、15.3kgm/3900rpm)だった。しかもスポーツモードを選ばずに、そのままで乗ったら、とてもよかった。というより、ノーマルモードでもかなりスポーティだからだ。
1.6エンジンは別に秀逸ではない。多分それほど低速トルクはないはずだが、実はこれをイージートロニックがシフトプログラムで意図的にカバーする。けっこう上まで引っ張りたがるモードなのである。たしかに4000rpm以上だと力は出るが、同時に共鳴音も隠せない。しかし、何となく、エンジニアは確信犯的にこの設定をしていると思った。
ということは、スポーツモードにすると過度に回しすぎる。面白いのは、そういうときに単に足まわりが硬くなるだけでなく、ステアリングの手応えが増すし、スロットルの応答性もよくなる。でも、個人的には、これほどまで面倒を見てくれなくてもいいとは思う。
ちょっと不満だったのはブレーキの感触で、最初は軽く、急に組み付くようところがある。
新しい道
小さな飛行場を使ったESPのテストでも、ダブルレーンチェンジでも、あるいは急ブレーキでも、新型アストラはとてもいい側面を見せた。世界のクルマ好きがドイツのスポーティなファミリーカーに、密かに期待する演技を見事にこなした。
しかも外観がその意欲を表現している。そして室内は、高級デザイナーホテルとはいえないが、たとえば最近ドイツを中心に人気が出ているマルティムのホテルのように、デザインとビジネス双方で要求されるテイストを巧みに両立させている。
戦前からゲルマン民族と長いことつき合い、それでも21世紀になっても完全にはチュートニックな感覚に踏み切れかったオペルが、新しい自らの道を、ダイナミズムとデジタルに見いだした。アメリカ系メーカーとしての道、なんとかドイツ車として仲間入りしたいと思っていた時期を経て、これはこれで、意外と面白い第三の選択かもしれない。
(文=webCG大川 悠/写真=Adam Opel AG/2004年4月)
・オペル・アストラ1.6&2.0ターボ(2ペダル5MT/6MT) 【海外試乗記(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015155.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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