ルノー・ルーテシア1.6(FF/4AT)【試乗記】
「お国柄」に乗る楽しみ 2006.06.16 試乗記 ルノー・ルーテシア1.6(FF/4AT) ……209万8000円 ヨーロッパを代表するコンパクトカーであるルーテシアの3代目は、日産マーチと基本骨格を共用している。しかし、プラットフォームの共通性を超えて、その成り立ちにはお国柄が明確に表れていたのだ。エクステリアは禁欲的
3代目となる「ルーテシア」は、ルノー・ジャポン期待の新モデルである。フランス車といえばプジョーの一人勝ちで、なかなか存在感を見せられずにいたルノーだが、「カングー」のスマッシュヒットでようやく足場を築いたように見える。勢いをかって、本命のルーテシアの販売をプッシュしていきたいところだろう。2006年のカー・オブ・ザ・イヤーを獲得したというタイミングは、絶好の機会である。ヨーロッパで激戦区となっているコンパクトカーの中でも、ルーテシアの評価は高いのだ。
エクステリアは、一時期のルノーを思えば、禁欲的だ。さほど個性的という印象は持たないが、昨今のトレンドを取り入れたデザインではあるのだろう。サイドにまで回りこんだ大きな目は目頭が長く中心にまで伸び、くっきりとした面構えになった。先代に比べてサイズアップしたこともあり、面の張りに力強さを持たせることに成功している。エレガンス、可愛らしさという言葉で語られた前モデルに比べると、精悍さという要素をかなり多く盛り込んだ造形だ。
当初導入されるモデルに搭載されるエンジンは、1.6リッターのみである。ただし、3ドアと5ドアが選べる。しかも、トランスミッションが4ATに加えて5MTが用意されているというのはうれしい。また、ボディカラーのバリエーションはスタンダードの6色にオーダーカラーを加えると13もあって、力の入れどころにお国柄が表れているということなのだろうか。
相変わらず出来のいいシート
今回乗ったのは、5ドアのATモデルだった。MTモデルに乗りたい気はしたが、これがいちばん売れ筋となりそうな組み合わせである。運転席に収まると、インテリアの質感が着実に進歩したことを実感する。どちらかというと事務的な風情であった先代を思うと、そこここにシャープさやモダンさを見せようとする工夫が施されていることがわかる。エアコン送風口などを縁取るシルバーの加飾がいいアクセントになっている。
シートは相変わらずとても良い出来だ。スポーツシートではないがホールド性は十分で、しかも長時間走行で疲労を感じさせない。かつてのフランス車シートのようにふわふわということはないのだが、適度な硬さなのに柔らかさを感じさせる。ワインディングロードと高速道路を同じぐらいの時間走ってみて、とても気に入った。停車時に座ってみただけだが、後席もたっぶりとしたスペースを確保していることはわかった。
シートの出来によるアドバンテージが加算されているところはあるものの、乗り心地はさすがに高いレベルを実現している。先代から100ミリも伸ばされたホイールベースの恩恵は歴然としていて、小型車然とした落ち着きのなさはみじんも感じられない。それでいて、ワインディングロードではキビキビとしたノーズの動きを楽しむことができる。エキサイティングという表現は似合わず、あくまで安定した大人っぽい振る舞いである。
違和感はあるけれど……
エンジンとトランスミッションに関しては、あまり言うべきことがない。実用的には十分であり、それほど不満はないが、とりたてて精彩を放っているわけではないからだ。とはいえ、ルーテシアはよいクルマである、と僕は思う。問題は、そう思う人が多数派だとはちょっと考えにくいということである。なぜなら、このクルマのよさは、今の一般的なニーズから外れたところにあるからだ。しかも、アピール度が高いであろうポイントに関しては、目覚ましいアドバンテージを見せることができていない。だから、このクルマを人に薦めるのはなかなかむずかしい。
商品性としては、一点豪華主義のほうが有利なのだ。どうしても必要なものではなくても、パドルをつければなんとなくスポーティな感じはするだろうし、音楽を聴くことに特化したクルマづくりだって一定の層にはアピールする。シートの出来、乗り心地のよさ、ハンドリングの軽快さなどが総じて向上したというのでは、インパクトに欠ける。しばらく乗ってみれば、わかるのだが。
そして、普段日本車に乗っている人にとっては、違和感を避けられない点もある。たとえば電動パワーステアリングのフィール。新たに採用された「アクティブリターン機能」によるものだが、少しずつ切っていくと、ふっと手応えが変わるポイントがあって、慣れないうちは煩わしく感じるかもしれない。ブレーキの唐突な利きが気になる人がいるかもしれないし、「日産マーチ」の姉妹車ながら、1700ミリをわずかに超える全幅のせいで3ナンバーとなるのもマイナスだ。
しかし、「プレミアムセダン」がグローバルな価値基準で競争を繰り広げている中、こういうベーシックなモデルのほうが輸入車に乗っている実感を味わえるように思うのだ。たとえば、先に触れたステアリングフィールなども、本国では違和感など持たないのかもしれない。そういう「クルマ観の違い」に触れるという意味では、小型車のほうが分があるのだと思う。ヨーロッパのベストセラーであるルーテシアに乗ることには、そんな意義だってある。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=郡大二郎/2006年6月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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