BMW Z4ロードスター 2.5i(FR/6AT)【ブリーフテスト】
BMW Z4ロードスター 2.5i(FR/6AT) 2006.06.13 試乗記 ……523万9950円 総合評価……★★★★ 内外装、エンジンを変更し、装備も充実した新型「Z4」。ベーシックな「2.5i」は“そこそこ”のパワーであるがゆえ、Z4ロードスターはオープンスポーツらしさを、先代よりじっくり味わえるクルマになったという。“流し”の似合うオープンスポーツ
新型Z4ロードスター2.5iの価格は439.0万円。旧型2.5iは478.0万円だった。単純計算すると、39.0万円安。しかも新型は、電動開閉ソフトトップが標準装備だ。安い! 発表会でいただいた資料を見たときは、そう思った。ところが……。
Z4には今回が初搭載となる、マグネシウムブロックを持つ新世代直列6気筒エンジンは、2.5リッターが2種類あったのだ。177psと193ps。3シリーズだと、前者は「323i」、後者は「325i」に積まれる。でも今回乗った2.5iに積まれるのは177ps。旧型でいうと、170psの2.2iに近い。で、2.2iの価格は423.0万円だった。
なんだ値下げじゃなかったんだ、と思ったが、乗るといまのZ4ロードスターにはこのほうがお似合いだ、と考えるようになった。
新型Z4はロードスターだけではない。クーペもあるからだ。
同じ車種ならクーペのほうがボディ剛性が上。だから走りをきわめるには有利。実は少し前に、それを痛感していた。ちょうど1週間前、ヨーロッパでクーペのZ4Mに乗ったからだ。このカッチリ感はロードスターとは別物だと、そのとき思った。
でもクーペが出たおかげで、ロードスターは流しが似合うスポーツカーになった。「ポルシェ・ケイマン」が登場したあとの「ボクスター」のように。
吹け上がりもサウンドもおだやかになったけれど、フレキシブルなトルクを持つ177psエンジンは、だから旧型の2.2リッターや2.5リッターよりも、いまのZ4ロードスターにふさわしい。マイナーチェンジでなめらかになった乗り心地にも、同じことがいえる。
ロングノーズ、ショートデッキのボディ。その後輪近くに座り、光と風を浴びながら走る。Z4ロードスターが持つトラディショナルなキャラクターを、旧型よりもじっくり味わうことができる。それならMはもちろん3.0siも必要ない。2.5iこそがお似合いだ。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
BMW「Z4」は、2002年9月のパリサロンでお披露目された2座のオープンスポーツ。日本での販売は2003年1月から、デリバリーは6月下旬から開始された。1995年にデビューした「Z3ロードスター」の後継たる存在だが、ボディサイズや価格などはZ3の上に位置づけられた。ベースとなるのは、E46型「3シリーズ」で、全長×全幅×全高=4100×1780×1285mm、ホイールベースは2495mm。Z3と較べて、それぞれ50mm×40mm×5mm大きく、ホイールベースは50mm長い。
2006年4月に、内外装とエンジンを変更した新型を導入。 フォグランプのデザインやディフレクターを変え、またシートカラーのバリエーションが増やされるなどした。
エンジンは、アルミ/マグネシウム合金製クランクケース、「バルブトロニック」「ダブルVANOS」などを採用した、最新の直列6気筒を搭載。トランスミッションは1段増えた6段ATが組み合わされる。
エンジンは直列6気筒DOHCで、2.5リッター(177ps)と3リッター(265ps)の2種類を設定。いずれにも、ステップトロニック付きの6段ATが組み合わされる。エンジンやEPS、シフトプログラムなどのマッピングをよりスポーティに変更する、「DDC」(ドライビング・ダイナミック・コントロール)が搭載された。ほかに、DSCなどの安全デバイスが、標準で備わる。
(グレード概要)
新型から「2.2i」がカタログから落ちたため、「2.5i」はZ4のベーシックグレード。標準車(439.0万円)のほかに、「ナビゲーションパッケージ」(478.5万円)と「レザーパッケージ」(469.0万円)が用意される。従来、ソフトトップは標準が手動式だったが、新型は電動格納式となった。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
キャビンは旧型とほとんど同じ。モダンでハイクォリティな、BMWらしい空間だ。トラディショナルなロードスタースタイルとの対比がおもしろい。ライトスイッチがステアリングやコラムレバーにさえぎられて見えず、パワーウィンドウスイッチは操作しにくい角度になっているといった欠点も、残念ながら引き継いでしまった。装備は旧型の2.2iと同レベルで、たとえばエアコンはマニュアル式となるが、ソフトトップは電動開閉式がスタンダードになった。400万円を越えるスポーツカー、しかもBMWブランドであるなら、電動が当然と思う人が多いのではないだろうか。
(前席)……★★★
クッションが薄く、背もたれは身長170センチ/体重60キロの自分にとってはサポートがややルーズという、他のBMWにもおおむね共通する作り。座り心地はガチガチではないが、シートバックはもう少し腰の部分の張りが欲しいと思った。ちなみに同じZ4でもMのシートは、サポート性にすぐれるだけでなく、快適性も上。ちょっとうらやましい。
(荷室)……★★★
リアオーバーハングが短いわりには、容量は240〜260リッターとそれなりにある。見た目にも、深さ、幅、奥行きともに、2人用としてはじゅうぶん。ランフラットタイヤのありがたさを痛感する。電動開閉式ハードトップのように、ルーフを開けたときと閉めたときで容量が大きく変わったりしないのもいい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
新世代ストレート6は、まずはなめらかなメカニカルサウンドで旧型との違いを教えてくれる。排気音もおとなしくなったが、オープンにしたときはこのぐらいが適度なボリュームに思えたし、依然として快音と呼べる音質だ。紙の上のパワーは旧型の2.2iとさして差はないが、低中回転域のトルクは排気量なりの余裕を体感できる。一方の高回転域は、回していくほど勢いづく性格ではなくなったが、レブリミットまでスムーズに吹け上がっていく。5段から6段になったATは、ドライバーの意思を自然な反応で速度に置き換えてくれる。だからタイトコーナーの連続でもストレスを感じない。ギアが増えたことで、気分に合わせてエンジンの回転域を細かく選べるようになったのも、スポーツカーとしては好ましい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
タイヤサイズは旧型の2.5iと同じ225/50R16インチ。ちなみに2.2iはふたまわり細い205/55R16インチだった。ランフラットタイヤが原因と思われる小刻みなコツコツ感は、あいかわらず存在するものの、旧型に比べると控えめになった。スプリングやダンパーはそれほど硬くはなく、快適な乗り心地を届けてくれる。ボディの剛性感は最強とはいえないが、不満のないレベルにある。
電動パワーステアリングのフィールは、かなり自然になった。ペースを上げてもノーズが外へふくらむそぶりはほとんど見せず、逆に立ち上がりで多めにアクセルを踏めばリアがジワジワと滑り出すという、FRスポーツカーのお手本のようなハンドリングは、旧型と変わらず。いまとなってはコンパクトなボディも、山道では武器のひとつになる。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2006年5月24日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:2971km
タイヤ:(前)255/50R16(後)同じ(いずれもブリヂストン ポテンザRE050 RFT)
オプション装備:ナビゲーションパッケージ(39万5000円)/バイキセノン・ヘッドライト(8万1000円)/PDC(パーク・ディスタンス・コントロール/5万4000円)/オレゴンレザーインテリア+シートヒーティング+ブラッシュド・アルミインテリアトリム(22万5000円)/メタリックカラー(7万5000円)/ETC(1万9950円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:424.6km
使用燃料:44.6リッター
参考燃費:9.52km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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