メルセデス・ベンツS350(FR/7AT)【ブリーフテスト】
メルセデス・ベンツS350(FR/7AT) 2006.05.31 試乗記 ……1058万4000円 総合評価……★★★ ボトム・オブ・Sクラスながらも、快適装備などは上級とほぼ同等となるメルセデス・ベンツ「S350」。装備だけでなく、乗り心地や運動性能もフラッグシップサルーンにふさわしいものなのか?
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期待するものを得られない
メルセデスに期待するものは何だろう? 趣味性の分野は私には理解能力が無いとして、確実に作動してくれる信頼性、高い実用性、長く使える耐久性などだろうか。このうち耐久性については、単に壊れない強度的なものは、特にボディについてはタクシーの使用などで定評のあるところ。飽きずに長く乗れるかどうかも含めると、私見に走って申し訳ないが、好んでステアリングホイールを握る気にはならない。
その理由はずーっと昔は良かったシートが、この20年位の間に作られた生産車のシートは腰が疲れて長時間乗っていられないからだ。あの分厚い車検証入れに入ったマニュアルブックを背中に置いて乗っていたのが実情である。メルセデスの特徴として、ステアリングホイールは戻す方向にも力が要るし、動き出しにしっかりアクセルを踏まないと発進せず、大袈裟な力を加えないといけないクルマで、運転操作は雑で乱暴になりがちな繊細さとは対極にあるクルマなのだ。しかしこの新型Sクラスは、そのあたりがかなり譲歩できるまでに改善されつつある。外観デザインの好き嫌いについては見る人の判断によるが、実寸で5メートルを超える大きなサイズを感じさせない丸く隅切りした処理は、少なくともとりまわしを楽にしている。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
およそ7年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたメルセデス・ベンツのフラッグシップセダン。日本では2005年10月に発売された。ラインナップは3.5リッターV6搭載の「S350」、5.5リッターV8の「S500」と、そのロングホイールベース版「S500L」。いずれも7段ATが組みあわせられ、サスペンションは可変ダンパー「ADS(アダプティブダンピングシステム)」とエアサスペンションを統合した「AIRマティック」。全車低排出車認定で4つ★を取得していることもトピックだ。
装備面では、スピードメーターやナイトビューアシストの映像(オプション装着時)などを映し出す液晶モニターのパネルや、オーディオやナビゲーションシステムなどを集中操作する「コマンドシステム」が採用された。
(グレード概要)
S350搭載のエンジンは3.5リッターV6で、最高出力272ps、最大トルク35.7kgmを発生する。S500とはタイヤ/ホイールも同じで、外観上の差は基本的に無い。内装ではシートがファブリックになり(テスト車は本革シートなどを含む、ラグジュアリーパッケージオプション装着車)、オーディオが10スピーカーになるなど、微少な違いはあるが、もともとの豪奢な装備は他グレードと大差ない。各種エアバッグなどを含む充実した安全装備、タイヤ空気圧警告システム、左右独立調整式エアコン、パーキングアシストリアビューカメラなどが標準となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
情報を伝えるという実用車レベルの評価としては並。廉価版とはいえ絶対的な高価格を考慮すると液晶表示はもっと努力が必要。こうしたものの表記に敢えてカタカナ日本語は要らないと思うが、しかし日本市場を認めようという努力は買うべきだろう。ダッシュのパーキングブレーキやライトスイッチなどへのリーチが遠く、いちいち前へ屈まなければならないのは気になるところ。エンジンスタートがキーを入れて捻るだけの1操作系列で済むのはよし。時計もアナログの方が見やすいという認識も正しい。ナビ画面も大きくてよい。
(前席)……★★
シートの座り心地が改善されていない。下位グレードとはいえランバーサポート調整機構はなく(※)、背中を伸ばして座ると腰部分に空間ができた。これは長時間座っていると疲れる。ハイトコントロールも兼ねた座面座布団の長さ調整を工夫すれば少しは改善するも、根本的には短時間の腰掛け型シートに過ぎない。高くするよりも後部を下げて座面に後傾斜角をつけるのが先決。同じ理由で背面への分担率が足りない。またミラーの角度調整スイッチが遠く、座ったままのポジションで最適に位置あわせできない。さらに左右ミラーの切り替えスイッチがわかりづらく、スイッチもサイズそのものが小さすぎる。
(後席)……★★★
前席に比べれば座り心地まずまず。ベルトを締めていれば腰が前にずれてくる感覚も少ない。空間的な余裕は広いが、ヘッドクリアランスを確保するためか座面の高さは低めで、ちゃんと座ると腿が浮く体制となり膝が開いてしまってだらしなくなる。背面の角度はやや寝過ぎと感じ、ほんの少し立てたほうが疲れないと思われる。このあたりはアウディが絶妙。FR車ゆえ、3人掛けの場合にはセンタートンネルは邪魔。大型FF車のリアシートに比べ、せせこましいしクッションは薄い。同じくロードノイズや駆動系の音や微振動では不利。気にしだすと気になるところではある。
(荷室)……★★★
外から見ると小さそうだが乗用車のトランクとしては十分に広い。フロア面積も奥行きも十分。ネットがあったり、床板の蓋を上げれば小物入れなどもあって便利。開口部の敷居はフロアより高く、開けたとたんに中から小物が転げ落ちるような心配はない。トランクリッドは軽く閉めても自動で中からひっぱってロックしてくれる、クロージングサポーター付きなので安心。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
空車で1920kgと重量級ではあるが3.5リッターでも十分に速い。ブレーキを放した瞬間にクリープを始めるので発進時のモタモタした感じはなく、以前のように動きだしにスロットルを意識的にしっかり開ける必要はなし。上でやや音量は増すもののきっちり6000rpmまで回ってシフトアップしていく律儀さはメルセデスらしいところ。もちろんその手前で緩めれば3000rpm程度でもアップさせることは可能、踏み込み方で緩急自在。マニュアルシフトも左右別々でラグはあっても間違いはすくない。必ず1速発進なのも良し。しかし新考案のセレクターレバーは妙案とは思えない。ワイパースイッチと間違って、ギアをニュートラルポジションに戻してしまったこともある。ハンドルの陰になるコラムではなく、いつでも見えるダッシュ側に設定したほうが良さそうである。ついでにパーキングブレーキスイッチも同じ側にもってくれば、常に片手はハンドルに手を添えていられるし、メルセデス的な安全性も確保される。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
乗り心地は随分改良され、自然な感覚に近づいてきた。というよりエアサス特有の不自然な厭味がなくなり気にならなくなった。C(コンフォート)とS(スポーツ)の切り替えもそれなりに主張が認められる。ただし願わくばさらにフラットな感覚を追求してほしい。ゴツゴツするようなショックは少ないものの、ボディの上下動でショックを和らげている様子が見受けられる。つまりタイヤやサスペンションなどのバネ下だけの動きで路面の凹凸を吸収しきれていないのだ。重量級大型車は乗り心地の面で有利であるはずが、(車両価格から見ても)その期待値に届いていないといえる。また、操縦安定性面でのロールを抑えるのにスタビライザーへの依存は大きめで、そのためにコーナーなどで横Gがかかった状態でうねった路面などを通過すると、思いのほかボディが煽られる。ハンドリングは、以前のようにキャスター角に依存し舵角が深くなるほど急激にヨーが立ち上がる癖が薄れ、自然な感覚に近づいた。またステアリングの復元性もだいぶ改善されている。切ったままで居すわるような癖もなくなり、手を放せば渋々ながらも直進に戻ろうとする。しかし操舵力の大きさは未だ現代のパワステのレベルからして重めで、路面フィールを重さに頼っている状況は否めない。
(写真=高橋信宏)
※編集部注:上記「【車内&荷室空間】乗ってみると?(前席)」で、「下位グレードとはいえランバーサポート調整機構はなく……」という部分がありましたが、ランバーサポートは標準で設定されておりました。ここに訂正し、お詫びいたします。
【テストデータ】
報告者:笹目二朗
テスト日:2006年4月28日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:7474km
タイヤ:(前)255/45R18 99V(後)同じ(いずれもミシュラン Pilot PRIMACY)
オプション装備:ラグジュアリーパッケージ(53万5500円/前席シートヒーター付き本革シート、前席メモリー付パワーシート、運転席イージーエントリー、助手席リパースポジション機能付ドアミラー、パークトロニック)/ガラス・スライディングルーフ(17万8500円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離:275.9km
使用燃料:39リッター
参考燃費:7.1km/リッター

笹目 二朗
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