メルセデス・ベンツS450エクスクルーシブ(FR/9AT)
よみがえる興奮 2018.04.11 試乗記 メルセデスのフラッグシップセダン「Sクラス」に、高効率を追求した直6エンジン搭載モデル「S450」が登場。試乗してみると、その走りは意外なほど、運転好きなドライバーを満足させてくれる楽しみに満ちたものだった。衝撃的な復活劇
2017年のSクラスのマイナーチェンジでは、とても残念なことがあった。それは、これまでSクラスの中で一番お買い得だった「S300h」が消滅したことだ。
S300hは、2.2リッターのディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせたディーゼルハイブリッドで、Sクラスで唯一1000万円を切る新車価格(998万円)。それでいて走りはまったく申し分なく、燃費は20.7km/リッター(JC08モード)。高速巡航なら軽くリッター20km以上走って、しかも燃料はお安い軽油! という、「いつか中古車が200万円台になったら真剣に欲しい!」と思ってしまうモデルだった。
日本市場でS300hが消滅したのは、あまり売れなかったからのようだ。しかし同時に、S400ハイブリッドも消えてしまったのはナゼ!? 今どきディーゼルもハイブリッドもなくして、ガソリンエンジンばっかりにするとはこれいかに。実はその裏には、このS450の導入計画があったのである。これぞまさにSクラスのお客さまが望む新世代のガソリンハイブリッド!
なにせメカがすごい。まず、メルセデスとして約20年ぶりに直列6気筒が復活! ここからしてマニアは涙が出る。排気量は3リッターです。その直6には、ターボだけでなく電動スーパーチャージャーが装備される。つまりツインチャージャー! ターボが効果を出しづらい低回転域でも、すばやく過給を行うためである。
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ビーエム以上にシルキー
そして、マイルドハイブリッドシステム。48V化された電気モーターは、最高出力16kWとパワーは控えめながら、最大トルクは250Nm。さすが48V! これだけで1.5tくらいまでのクルマを加速させられる数字だ。減速時には発電機となって、約1kWhの容量を持つリチウムイオン電池に充電し、エンジンが低回転時には、その電力を利用して加速を手助けする。
つまり、直6にターボと電動スーチャーと電気モーターの四段構え。長篠における信長の鉄砲三段打ちをも超える布陣なのである。
で、実際乗るとどうなのか。
まず直6。実にスムーズでシルキーな回転フィールだ。直6を知っている人ならすぐにピンとくる、あの直6な感じそのもの! 擬音だと「シュイイイィィィィィィィ~~~ン」ですかね。
パワーやトルクは、スペックほどは大きく感じない。いや逆に、直6っぽい低回転域での手応えのなさすらある。実際には低い回転からドーンとトルクは出ているのだが、直6ってやっぱり回してナンボなところがあるでしょ。高回転域でこそシルキーさが発揮されるわけで。
なので、低い回転だとV6より手応えみたいなものが希薄で、そこがまた直6っぽいのだ。もちろんアクセルを深く踏み込んで、高回転域まで引っ張れば、シルキー6を存分に味わえる。シルキー6って言葉、本来BMWのための形容詞かと思いますが、本家の直6が最近あまりシルキーじゃないので、こっちの方がシルキーで直6っぽい!
完璧なまでにシームレス
続いて、ターボ&電動スーパーチャージャーのフィーリングはどうか。
両者の担当分野(稼働域)は絶妙に重なっていると想像するが、切り替えみたいなものはまったくわからない。電動スーチャーは存在感すらゼロ。実のところ、近年のタウンサイジングターボに、レスポンスの遅れなんてまったく感じない。つまり個人的には、「電動スーチャーなんてホントに要るの?」と思うわけですが、実際存在感がないので、ただただレスポンスのいいダウンサイジングターボという雰囲気だ。
実はそのターボも、それほど存在感はない。トルクはビンビンに出しているはずなのだが、それもそんなに感じないので。
正直なところ、このS450、そんなに速いクルマだとは感じさせないのである。それだけ行儀がいいと言いますか、エレガントと申しましょうか。ボディーや足まわりを含め、加速Gを感じさせないクールなセッティングなのでしょう。
では、マイルドハイブリッドはどうか。
一番印象的なのは、アイドリングストップからの始動のスムーズさだ。スタート時のアクセル踏み込み量が小さいと、電気モーターだけで発進し(ダイナミックセレクトが「エコ」モードや「コンフォート」モードの場合)、間もなくエンジンが始動するわけだが、まさに完璧なシームレス感。スゴイであります。が、それ以外のシーンでは、モーターの存在感もまた非常に希薄だ。なにせシームレスなもので……。逆に存在感があったらダメなのでしょう。
モード変更でさらに楽しく
ただそれも、ダイナミックセレクトを「スポーツ」に変更すると、大きく変わってくる。デフォルトであるコンフォートとの差は相当ある。まずステアリングが重くシャープに。サスペンションもはっきりスポーティー&ダイレクトになる。
コンフォートでは、まさにSクラスな、フワ~ッとした穏やかでゼイタクな乗り味なのだが、スポーツではすべてが豹変(ひょうへん)、BMWみたいになる。そのように思っていただけると、わかりやすいかと存じます。
スポーツでは、エンジンレスポンスもぐっとシャープに。さらに激変するのは電気モーターの働きだ。コンフォートでは、スズキのマイルドハイブリッドみたいな感じだったのが、スポーツでは、ちょっとアクセルを踏み込んだだけでフルにモーターがアシストを始める。インジケーターを見ていると、アクセルを1cmくらい踏み込むだけで、モーターはほぼ全開状態。これが瞬時に車体を前に押し出してくれる。さすが250Nm!
「スポーツ+」にすると、エンジン回転も常時高く保たれるので、シルキー6もがぜん堪能できる。カーマニアとしては、このスポーツ+を熱烈支持であります! が、スポーツやスポーツ+だと、正直足が硬すぎる(個人の主観)。やっぱりメルセデスSクラスはフワ~ッとしててくれないと感じが出ないので、痛し痒(かゆ)し。
しかしそのために、「インディビデュアル」モートがあるのでした。実際にセットしたわけじゃないですが、走り、快適性、燃費、すべて好みのセッティングが可能。カーマニアも大満足だ。もちろん、このS450を新車でお買いになるお客さまが、喜々としてインディビデュアルをセッティングする姿というのは、あまり想像できないのですが、一応そういうことも可能! ということで。仮にお客さまがマニアだったとしても、その嗜好(しこう)に完璧に応えてくれるはずであります。
ホント言うと、新車で買うお客さまにとっては、S450という、この数字がかなり魅力的なんではないかと想像します。S400ってのはどっか中途半端だけど、450っていえば昔取ったきねづか。まぁ皆さん、450だけに3リッターだとは思わないでしょう。メルセデスSクラスは、今でも数字で勝負な部分がデカいおクルマですので。
(文=清水草一/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS450エクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×1899×1493mm
ホイールベース:3035mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:9段AT
最高出力:367ps(270kW)/5500-6100rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1600-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)275/40R19 101Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:1363万円/テスト車=1433万3800円
オプション装備:AMGライン(63万9000円)/フロアマットベーシック(6万4800円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1633km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:165.4km
使用燃料:16.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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