メルセデス・ベンツS400d 4MATIC(4WD/9AT)
威風堂々 2021.03.10 試乗記 スリーポインテッドスターを象徴する一台であり、Lクラスセダンの世界的ベンチマークでもある「メルセデス・ベンツSクラス」がフルモデルチェンジ。7代目となる新型は、ライバルの一歩先を行く先進性と、さらなる快適性を併せ持つクルマに仕上がっていた。世界的な“高級車”のベンチマーク
メルセデスがSクラスという名を使い始めてから、この「W223」型は7代目にあたるという。が、市場でのステータスたるやそんなものではないだろうと歴史をさかのぼってみると、団塊世代には懐かしい“縦目”や“ハネベン”“ポントン”、それ以前にもSクラスに通ずる存在のモデルはある。
ともあれ言えるのは、民主主義的な価値観が浸透した第2次大戦後の世界において、メルセデスは“性能”という平等な評価軸のもとに、高級車の範であり続けてきたことだ。時の移ろいに沿ってメルセデスもコストダウンや多車種展開など、変節を経てきたが、それでも最も揺らぐことなくそのポジションを守り続けてきたのがSクラスなのだと思う。
果たして、山は動いたのだろうか。
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「BMW 3シリーズ」も然(しか)りだが、それにも増して、新しいSクラスの試乗には毎度そういう気持ちで臨むことになる。
日本市場での新型Sクラスのバリエーションは、「S500」と「S400d」の2つとなり、おのおのに標準ボディーとロングボディーが用意される。そしてドライブトレインは「4MATIC」、つまり4輪駆動のみ。FRが姿を消したのはクルマ好きにとっては衝撃的な出来事かもしれない。
S500に搭載されるのは先代Sクラスのモデルレンジ後半から投入された「M256」型直列6気筒直噴ガソリンターボ。これにISG(インテグレートスタータージェネレーター/モーター機能付き発電機)を組み込んだ48Vマイルドハイブリッドとなる。また、タービンに送り込む圧縮空気を生成する電動コンプレッサーも組み合わせて、低回転域でのターボの効率を高めている。最高出力は435PS、最大トルクは520N・mを発生し、9段ATとの組み合わせで0-100km/hは4.9秒をマークする。
一方、S400dに搭載されるのは、これも先代Sクラスのモデルレンジ後半に投入された「OM656」型直列6気筒直噴ディーゼルターボだ。こちらはISGなどのアシストデバイスはない純然たる内燃機となるが、WLTC複合モードは12.5km/リッターと、S500に対して約1割の低燃費となっている。最高出力は330PS、最大トルクは700N・mを発生し、S500同様9段ATとの組み合わせで0-100km/h加速は5.4秒となる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ADASについては“通信アップデート”に期待
車台は先代Sクラスが採用した「MRA」の流れをくみながらも、各部を大幅にリファインした第2世代のアーキテクチャーとなり、剛性向上と軽量化を両立したものとなっている。構造部位の中空部には発泡ウレタンを充塡(じゅうてん)させているが、これは剛性うんぬんよりも共振を抑えて静粛性を向上させる狙いだ。ほかにもキャビンと外部との貫通孔のシーリングや、ウィンドウまわりのストリップモールの形状などにも工夫を施し、遮音対策を徹底している。
足まわりは前:4リンク、後ろ:マルチリンクと先代の形式を踏襲しながら、新しいメカニズムとの親和性を高めるべく設計を改めている。日本仕様はエアサスペンションの「エアマチック」が標準となり、本国仕様ではオプションで用意される電動アクティブサス「E-ABC」は選択できない。また、新型Sクラスの目玉である4WS(4輪操舵)も標準装備となるが、後輪の切れ角は60km/h以下では逆位相で最大4.5°、60km/h以上では同位相で最大2.5°と、本国仕様に対して大きく規制されている。これはシュトゥットガルト空港などで実証が進む“レベル4”相当の自動駐車システムに対応した「インテリジェント・パーク・パイロット」が選択できないことも関係しているのだろう。裏返せばメルセデス側も、最大10°の後輪逆相角は狭所の駐車時など限定された状況でしか威力を発揮しないとみているのではないだろうか。
ちなみに先進運転支援機能(ADAS)関連では、ドイツ国内で認可待ちとなる“レベル3”相当のドライブ・パイロットも日本仕様には搭載されていない。LiDARや高精度GPS、ダイナミックマップなどのデータを連携させるこれは、当面はアウトバーンでの渋滞時のハンズオフドライブを実現させるためのシステムとなるだろう。車両側のデジタライズ化に伴い、こういったローカライズにまつわる課題は増えてくることになるだろうが、新型Sクラスでは通信機能を標準装備し、OTAアップデートにも柔軟に対応していく姿勢をみせている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ライバルの先を行くユーザーインターフェイス
前型では2画面液晶パネルによって推し進められたコックピットのデジタル化は、さらに加速。あらかたの操作は、有機ELを採用した12.8インチタッチパネルモニターを軸とするかたちで集約された。各機能へのアクセスは、直接画面をタッチするほか、ステアリングのサムスイッチを介しても可能だ。もちろんAIボイスコントロールの「MBUX」も多くの機能に連携している。さすがに使用頻度の高い空調系のコントロールパネルは常時表示されているが、「暑い/寒い」と口で言えば、それに応じて温度設定が変わるわけで、ここにきてクルマの多機能化とAIまで持ち出して育ててきたボイスコントロールの存在意義が、いよいよリンクするようになってきた感がある。
ほかにも、内装の全周に張り巡らされるアンビエントライトがMBUXやADASと連動し、機能のオン/オフや衝突警告などを視覚的に伝えてくれる機能や、メーターパネルの疑似的3D表示機能、現実の景色にARナビの案内指示を重ねてHUDに表示する機能など、新型Sクラスに搭載される新デバイスは、枚挙にいとまがない。デジタル的な先進性で言えば、ライバルにまた一歩差をつけたという印象だ。
試乗に供されたのは標準ボディーのS400d。実は少なくはないオーナードリブンに最も向くグレードということになるだろうか。オプションのAMGラインは、内外装のドレスアップとともに機能面では強化ブレーキやドリルドディスクを装着、そしてタイヤは標準の18インチから前後異幅の20インチへと変更される。
そのタイヤサイズに見覚えがあるなぁと思い起こせば、「日産GT-R」のそれとピタリ同じ。よもやSクラスにそんな物騒なイチモツが充てがわれるようになろうとは……と、乗り心地をある程度覚悟して走り始めると、その先入観はあっさりと覆された。路面補修やマンホールなど一般道にありがちな凹凸や首都高速の目地段差くらいでは痛い応答をみせることはまったくない。表層が柔らかく沈み込み、奥で体をむっちりと支える低反発タッチのシートも衝撃吸収に一役かっているのだろう。ショックといえば、微(かす)かなコツンコツンというバネ下のフィードバックがステアリングホイールを介して手のひらに伝わるくらいで、街なかをたゆたうように走りゆく。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
快適性はさらなる高みへ
先代との大きな違いとして挙げられるのは、認証タイヤが「MOE」から「MO」、つまりランフラットから通常のラジアルに変更されたことだ。これによって、タイヤ由来の縦バネ感の強さが大きく緩和されている。そこにサス本体のリファイン効果も相まって、ダイナミックセレクトで「コンフォート」モードを選んだ際の乗り味は、はっきりと小入力時の緩さを高めている。
オーナードリブン的にはもう少し引き締まった乗り味を好む向きもあるかもしれないが、走行モードを個別調整できる「インディビジュアル」を使えば、サスセットのみを「スポーツ」モードにすることも可能だ。その状態でさえ、先代のコンフォートモードに近いアタリの優しさが感じられる。そしてこのまろやかな乗り心地にあわせて静粛性も大きく向上しているなど、新型Sクラスの快適性ははっきりと一段上のステージに引き上げられていた。
この常速域でのイメージからしてみれば、高負荷域での姿勢変化は意外なほど少ない。コーナリングでのフラット感や回頭性のよさに大きく寄与しているのは4WSだろう。30年以上前に日本が世界に先駆けて実用化した技術が、自動運転の実現に向かうにつれ、不快なゲインやロールの抑制にも一定の効果をもたらすようになったことを実感する。もしここにE-ABCが加われば、恐らく今までとはちょっと次元の違う姿勢制御をみせてくれるのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“慣れ”を求められる箇所はある
そうした姿勢制御を、物理的違和感としてステアリングを握るドライバーに一切伝えないかについては、さすがに完璧とはいえない一面も感じられた。自分の経験値にある質量に応じたクルマの動き方と真剣に比較し始めると、交差点でのターンやコーナーでの頭の入り方など、微妙に唐突さを感じる箇所はやはり現れる。恐らく余計なことを考えなければ時とともに慣れてしまう程度のものだろう。が、人間の感覚と自然に呼応することに対しての期待値が高いブランドゆえ、一層の洗練を期待したい。
くだんのタッチパネルだけでなく、ドアノブはフラッシュサーフェス化され、ミラーやシートの調整もタッチが変わり……と、新しいSクラスには以前から親しんできたものに対して、新たな慣れを要する部位が先代以上に多い。ステアリングの両脇にレバーが残ったことが奇跡のようでもある。これを時代の変化に同調できるかの関門だと前向きに捉えられるか否かは乗る人次第だろう。
それでも座った瞬間から、走り始めた瞬間から、「あぁ……Sに乗ってるわ自分」と実感される気配づくりや触感づくりにはいささかのブレもない。このあたりは見事なもんだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS400d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5210×1930×1505mm
ホイールベース:3105mm
車重:2180kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:330PS(243kW)/3600-4200rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1200-3200rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101Y/(後)285/35R20 104Y(ブリヂストン・トランザT005 MO-S)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:1293万円/テスト車=1541万8000円
オプション装備:ベーシックパッケージ(70万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(66万円)/AMGライン(99万8000円)/3Dコックピットディスプレイ(13万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:334km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:131.4km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。


















































