アルファロメオ・アルファGT 2.0 JTSセレスピード エクスクルーシブ/3.2 V6 24V(2ペダル5MT/6MT)【試乗記】
高級秘書 2004.06.22 試乗記 アルファロメオ・アルファGT 2.0 JTSセレスピード エクスクルーシブ/3.2 V6 24V(2ペダル5MT/6MT) ……453.6/543.9万円 「快適さとエレガンスが同居するスポーティカー」と謳われる「アルファGT」。ベルトーネの手になる「156」ベースの2ドアモデルはどうなのか? 『webCG』コンテンツエディターのアオキによる“ちょい乗り”報告。サルーンの快適性
あまり荷物を積めないワゴンをつくるかと思えば、妙に実用性の高さを強調するクーペを出すから、アルファロメオはおもしろい。
昨2003年のフランクフルトショーで市販モデルが披露された「アルファGT」は、「156」をベースに、ベルトーネの手になるスタイルを纏った2ドアクーペ。「クーペのスタイリングとパフォーマンス、大人4人が十分なゆとりをもって座れるサルーンとしての優美さと快適性」をもつとプレスリリースには謳われる。リアはハッチゲートになっており、グランドツアラーの名にしおう「クラストップクラスの約320リッター」の荷室容量がジマンだ。
久々のスペシャルティだけに、いっそのこと「アルファ147」の短いフロアパンの方が……と考えないでもないが、残念ながら(?)後席のスペースが考慮されるアルファGT のホイールベースは、156と同じ2595mm。まあ“GT”ですから。
日本には、「2リッター直4+2ペダル5MT」と、「3.2リッターV6+6MT」が入る。ステアリングホイールの位置は、前者が右、後者は左のみとなる。価格は、2.0 JTSセレスピードが438.9万円、装備を奢った同エクスクルーシブが453.6万円、3.2 V6 24Vが543.9万円となる。
短い時間だけれど、2リッター直4モデルと3.2リッターV6にハコネで乗ることができた。
CITYモードの新機構
先に運転したのが、2.0 JTSセレスピード。黒のレザーシートは、アルファの常で、ずいぶん手の込んだつくりだ。たっぷりした長めの座面。しっかりしたサイドサポート。興味深いのは、膝の下あたりにことさら柔らかいクッションが組み込まれていることで、なんといいましょうか、ネコの肉球のような感触である。気持ちいい。
インパネまわりは基本的にアルファ147と共通で、しかしこれは、“弟分の”というより、“156より新しい”コンポーネンツを活用した、と考えるべきだろう。
後席は、たしかに大人2人が座れるが(乗車定員は5名)、膝前の余裕はともかく、立った背もたれ、ミニマムのヘッドクリアランス、そしてはめ殺しの小さなサイドウィンドウと、閉所感が強い。プロモーションフィルムで映されたような、カップルが笑顔で収まる場所ではない。
プレス試乗会の基点となったホテルからしばらくは「CITY」モードでドライブする。いうまでもなくセレスピードはクラッチペダルを持たない2ペダル式の5段MTで、「CITY」とはAUTOモードのことである。
クラッチを自動かつ機械的につなげるセレスピードは、すこしずつリファインされていて、AUTOでもじゅうぶん実用には足るけれど、でも、シフトのタイミングやショックから判断すると、一般的には「デキの悪いオートマ」と評されるレベルだ。シフターもしくはパドルで任意にギアを変えることも可能だから、セレスピードのマナーが気に入らなければ、ドライバーが介入すればいいだけだが……。
なお、アルファGTでは、マニュアルでシフトした後も、「マニュアルモード」に移行しないでCITYモードが維持される。ものぐさドライブを決めこみながら、必要なときだけ、任意にギアを上げ下げすればいいわけだ。また、いったんCITYモードを選べば、エンジン再始動時にも、継続してCITYモードが選択されるようになった。
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ちょっと頑張りすぎ?
ハコネの山道を走る“156GT”は、水を得た魚というか、サラセン人を飲み込むヘビのように、元気だ。「アルファロメオらしいなァ」と個人的に感じたのが、直噴化された2リッター(166ps、21.0kgm)より、サスペンションのセッティング。2.0 JTSセレスピードの足まわりはソフトで、当然、カーブでのロールは大きいが、傾く速度や量がよくチェックされていて、右に、左に、としんなり沈み込むのが心地よい。乗り心地もいいから、ステアリングホイールを握りながら「うまい具合に“スポーティ”を演出したなァ」と感心する。タイヤサイズは、「215/45ZR17」。
続いて乗った3.2 V6 24Vは、一転、“エンジンのクルマ”である。3リッターのストロークを5.4mm延長した3.2リッターV6は、いついかなるときも存在を隠さない。大に小に、高く低く、野太い声で歌いつづける。
スペック上の数値は、最高出力が「GTA」モデルより10ps低い240ps/6400rpm、最大トルクは同じく0.8kgm小さい29.4kgm/4800rpmだが、十二分に速い。ギアボックスは6スピード。大きな握りレバーをグワシと掴んでの山道ドライブは豪快だ。優雅な外観をすっかり忘れるほどに。
ただ、乗り心地は少々ドタバタする。「スポーツサスペンション」で硬められた足には、「225/40ZR18」のタイヤが装着されていた。ちょっと頑張りすぎかしらん?
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アルファGTの魅力
ヒラリ、ユラリ……としなやかに走る2.0 JTSセレスピートと比較すると、相対的に猪突猛進型といえるアルファGT 3.2 V6 24V。前後重量比が、4気筒モデルの「840:520」kgからV6では「920:510」kgになる。ノーズが重いから、調子に乗ってペースを上げると、キモを冷やすことになる。コーナーで思わぬアンダーステアを出し、ドッキリしたあと、恥ずかしい。
アルファGTは、フェイスリフトで延命を図った希代のヒット作156から、さらに利益を紡ぎ出そうというクルマである。かつてのアルファロメオのように、スペシャルボディになったからといって、プラットフォームに手を加えたわけでも、特別なサスペンションを与えられたわけでもないから、口の悪いヒトに言わせれば、「いわばセクレタリーカー」ということになるかもしれない。でもまぁ、盾と蛇のクルマの魅力をして「高級娼婦」にたとえる陳腐な表現に倣えば、アルファGTは「高級秘書」ということになり、それはそれで淫靡ではある。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏/2004年6月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。