トヨタ・カムリ Gリミテッドエディション(FF/5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・カムリ Gリミテッドエディション(FF/5AT) 2006.03.01 試乗記 ……289万5900円 総合評価……★★★ 国内では地味な存在だが、実は100か国以上・地域で販売される「トヨタ・カムリ」がフルモデルチェンジ。日本では若返りを狙ったという新型の実力はいかに。胸を張って乗れる
レクサスを除くトヨタラインナップで、ミドルセダンの中核をなす「カムリ」がモデルチェンジ。まず感じたのは、このクラスの国内での存在意義が薄れる現状で、恐ろしくよくできた内容を持っていることだった。そして、そのクオリティの高さと市場需要のギャップが、逆に刺激的であった。わかりやすくいえば、超大穴車なのである。
よくできた、と評する理由にまずあげられるのはデザイン。「ヴィッツ」や「ベルタ」と同じ流れだからなのか、高年齢層にウケは悪いようだが、むしろ新世代ベーシックのクオリティが上がったのだ。そのブランド統一感に好感が持てる。
走りも結構奥深い。フロントから腰砕けするタイヤハイトだけが気になるが、ロール感を普通に出す姿勢は好印象。問題はエンジンにキャラクターがなさ過ぎることだけだ。2.4リッターもあるのであれば、もう少しトルク感を出してほしい。V6がほしいなぁ……と思うが、本来そこは従来の兄弟車「ウィンダム」の役目であったし、フロント荷重が増えれば足まわりも硬くなるので、やはり4気筒のフィールがマッチするのだろう。シャシーの完成度が高いだけにもったいない。
従来のカムリのイメージ。ジミだ。果てしなく地味。だが、そこがいい。北米比1/10、年間1万2000台という日本を見ていない販売目標ゆえに、逆に日本ではあまり同じクルマを見かけなくてすむ。中身一新、デザインもよし、それで価格は247.8万円から。「ヤマダ君、何に乗ってるの?」と聞かれたらボクはサムアップして「カムリ!」と胸を張って答えてもよいと思う。「えぇ、なぜ!?」と言われるかもしれないが、おそらく、クルマの性能に文句をつける人は誰もいないだろう。それほどデキがよいのだ、カムリは。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2006年1月にフルモデルチェンジを受けた、FFセダン「カムリ」は世界100か国以上で販売されているグローバルモデル。特にアメリカでは過去8年間で7回も販売台数ナンバーワンを獲得し、さらに2007年からは人気のモータースポーツであるNASCARにも参戦する予定である。
先代ではシャシーを共用する上級「ウィンダム」(5段AT)と差別化するため4段ATの装備だったが、新型で5段に進化(4WDは4AT)。2.4リッターエンジンも8psの出力アップがなされた。さらにブレーキの容量アップも施されている。
(グレード概要)
テスト車の「Gリミテッドエディション」は、3つあるグレードの中間。派手な外装パーツは伴わず、快適装備を充実させたモデル。運転席/助手席パワーシートや16インチアルミホイールも標準装備される。室内安全装備にグレード間の差は無いが、アンチスピンデバイスのVSCとTRC(トラクションコントロール)はオプション。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
オーディオや携帯電話などの集中スイッチを備えるステアリングホイールはデザインもスマート。フェイシアのソフトビニールレザーも質感良く(高く、ではない)、各部木目調パネルも明るい色合い。コンソール部分のプラスチックがカチカチと安っぽいが、カムリのクラスにそこまで望む必要もない上に、一番目につきにくい低い部分にその材質を当てていることを高く評価したい。しかし気になるのはナビ/オーディオ部分の透過パネル。まるで一世代前のiMacのようで、がんばったわりには時代遅れ感あり。国内での販売台数を考えれば、もう少し冒険したデザインにしてもよいのでは。
(前席)……★★★★
テスト車の「Gリミテッドエディション」はファブリックシートであったが、スライド&リクラインも電動でこなすしこれで十分。いや十二分。現状はウィンダムがないために、その購買層には必要なのかもしれないが、純然とカムリを買うならばレザーシートを求めて最上級グレード「Gディニスエディション」に80万円近い差額を出す必要はない。シートヒーターが少し羨ましいぐらいだ。座り心地はコシのある柔らかさ。ヴィッツやベルタの延長線上にある……というと勘違いされそうだが、それらの長距離移動には足りなかった部分、つまり腰まわりのつらさをきっちりカバーしている。
(後席)……★★★
前後席間距離970mmが従来比+30mmというレッグスペースは魅力。しかし、それを強調するあまりにシート座面長が短くなっているのが惜しい。怠惰な座り方であればそのレッグスペースも役に立つが、結果腰が痛くなる。それならば、と、きっちり腰をバックレストにつけて座ると、かなり直立した姿勢を強いられる。そんなときはリアのリクライニングが役に立つ。センターアームレストにはドリンクホルダー付き。ISO-FIX対応チャイルドシート用アンカー及びチャイルドシート頂部を留めるテザーアンカーも当然装備。
(荷室)……★★★★
リアオーバーハングを縮めた結果、トランク容量は従来比マイナス80リッターの504リッターに。それでもゴルフバッグは4セット入るという。でも4人乗せてゴルフに行ったら、室内がオヤジ熱気でムンムンになる。若返り(30代半ば)を狙わせるならこれではいけない。カムリとしては、若夫婦ふたりでゴルフに行ってもらいたいところだ。奥行き1039mm、開口幅1300mmとアクセスがいいわりに、リアデザインを崩していない点も評価。長尺物用のトランクスルー機構もあるので、スキー板も積むことができる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
エンジンは2.4リッター直列4気筒のみ。各部リファインにより167ps/6000rpm(8psアップ)となる2AZ-FEユニットは、「エスティマ」などにも使用される働きものだ。期待していたほどパンチがないと感じるのは、エンジン自体の特性か、それとも大柄になりすぎたボディのせいか。今回乗ったFFは5段AT(4WDは4段AT)で、各ギアのつながりはスムーズ。あえてシフトゲートをごりごりやってまでマニュアル変速するのは正直面倒だが、エンジンのトルクが足りないから結局使うことに。やはりV6が欲しくなる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
キャスターが少し立ち気味な感じのあるステアリングホイールは、切ったら即回頭し始める。街中での取り回しを捨てきれない初期操舵感に「あぁ、ヴィッツのようだ」と感じつつ、少し我慢してその操作感覚を覚え込ませれば、ロールも自然で「結構走るじゃない!?」となるから不思議。若返りを狙うには少し「オッサン味」だと思える乗り心地は、今どきの大勢を無視して215/60R16というタイヤを選んだのが原因か。50扁平くらいでフロントのしっかり感をもう少し出すとちょうど良かったのかも。シャシーそのものに不満もなく、“プジョー406セダン一歩手前”の、コシのある走りが好印象。硬いのが嫌いな人には好まれるだろう。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:山田弘樹
テスト日:2005年2月13日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:944km
タイヤ:(前)215/60R16 (後)同じ(いずれもトーヨーPROXES J33)
オプション装備:HDDナビゲーションシステム+ステアリングスイッチ=24万9900円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:84.0km
使用燃料:--
参考燃費:--

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。