日産フェアレディZ ロードスター バージョンST(FR/5AT)【試乗記】
オールシーズン・ロードスター 2005.12.07 試乗記 日産フェアレディZ ロードスター バージョンST(FR/5AT) ……481万6350円 2005年9月にマイナーチェンジされた「日産フェアレディZ」。内外装のほか、メカニズム面に改良が施された、オートマチック仕様のオープンモデルに試乗した。冬でもへっちゃら
冬はオープンカー乗りにはツライ季節……そう思う人は多いかもしれないが、真実はちょっと違う。すぐ暖まるシートヒーターと、強力なエアコンがあれば、意外と快適なものなのだ。ホントにツライのは強烈な日差しに晒される真夏の昼間。灼熱の太陽には幌を閉めるしか手はないが、冬の寒さは雨や雪が降らないかぎりいくらでも対処法はあるのだ。
そんな“冬こそオープンカーの季節”と信じて止まない私だから、木枯らしが吹き始めると、途端にオープンカーが恋しくなる。このところマツダ・ロードスターばかりが話題に上るが、忘れてならないのが同じ日本勢のZロードスターだ。
クーペとともにマイナーチェンジを受けたZロードスター、細かい説明はあとまわしにして、とにかく幌を下ろして走り出してみよう。操作は簡単、頭上のロックを解除し、スイッチを押し続けるだけでキャンバス製のトップとリアウィンドウは跡形もなく消え去り、Zロードスター本来の美しいフォルムに変身する。
シートヒーターのスイッチを入れ、エアコンの設定温度を上げたらさっそくスタート。この日の外気温は12℃と、まだ真冬の寒さには届かなかったが、それだけにキャビンは寒さとは無縁で、走り出してもいっこうに風が巻き込んでこない。たいていのオープンカーは、頭の後ろや背中のあたりから風が入り込んで、部分的に寒い思いをするのだが、このZロードスターの場合、シート背後に設けられたウインドディフレクターの効果が絶大で、100km/hでも頭のてっぺんの髪が揺れる程度で、帽子すら必要がないほどだ。
さらに、ドアの内側に配置された空気の吹き出し口を調節すると上手い具合に温風が手に当たるので、グラブを忘れても大丈夫。冬でも快適……Zロードスターは、これからの季節にまさに打ってつけのオープンカーなのだ。
マイナーチェンジの功罪
もちろん、冬の快適さだけが、このクルマの魅力ではない。さらに、先に触れたように、この9月にマイナーチェンジが実施され、エクステリアデザインから室内の細部までさまざまな変更が施されている。
一番の目玉は、3.5リッターV6の「VQ35DE」エンジンのパワーアップで、従来の280PS/6200rpmから294PS/6400rpmに引き上げられたことだが、実はこれ、6段マニュアルが組み合わされる場合のみで、5段オートマチックが搭載される試乗車は対象外。となると、メカニズム面では、“デュアルフローパスショックアブソーバー”の採用や車速感応式パワーステアリングの搭載、さらに全車18インチタイヤの装着が主な変更点ということになる。
一方、デザイン上は、エクステリアで、フロントバンパーやヘッドランプ形状の変更を実施したほか、切れ長のテールライトにLEDを採用して新しさとシャープさを演出したのが印象的だ。さらに、年々質感がアップしている室内は、本アルミのパーツを増やしたり、コクピットまわりにソフト触感の素材を施すなどして、価格や車格のわりに安っぽいといわれてきたインテリアをグレードアップしている。
実際、コクピットに収まった印象は悪くない。これまでは巧みなデザインで安っぽさをうまくカバーしていたが、マイナーチェンジ後は質感に不満を抱くようなことはなかった。ただ、運転席まわりで気になったのは、オートマチックにせっかくマニュアルモードが備わるのにステアリングで操作できないこと。それから、これは個人的なことだが、ロードスターの「VERSION T」および「VERSION ST」にオプションで用意されるネットシートが、身体全体を包み込むようにサポートするのかと期待していたが、腰の部分に限ってはネットに挟まれたクッションが支える構造で、その形状がうまく腰にフィットせず多少窮屈な思いをしたのだ。購入を考えている人は、必ず座り心地を試してから選ぶことをお勧めする。
オートマチックがお似合い
ところで、エンジンの最高出力は従来どおりのオートマチック仕様だが、最大トルクを見ると、マニュアル仕様の35.7kgm/4800rpmに対してオートマチックは37.0kgm/4800rpmと多少優っていることがわかる。そもそも3.5リッターと排気量に余裕があるだけに、発進から豊かなトルクを発揮し、1500rpmも回っていれば事足りてしまうほどだ。街中などでちょっと加速しようとアクセルペダルを踏み込めば、シフトダウンするまでもなく、トルコンスリップを利用して、スムーズに力強く加速していく。このマナーの良さを知ると、オートマチックでよかったと思ってしまう。
もちろんフルスロットルを与えれば4000rpmを超えたあたりからレブリミットの6600rpmまで、勇ましい音を吐き出しながら力強く回転を上げていくエンジンが頼もしい。
今回から採用された“デュアルフローパスショックアブソーバー”は、「定常走行時は振動を抑えて滑らかに、コーナリング時にはロールを抑えてしっかりと、高速道路の継ぎ目を乗り越えるときには柔らかくいなし」(カタログより)というのが特徴だという。確かにクーペを試乗したときにはそれを実感したが、ロードスターでは18インチタイヤが拾うショックとクーペよりもユルいボディにより、快適性の面ではその恩恵が半減している。
一方、ワインディングロードでは、シャープというほどではないものの、後輪駆動らしい素直で軽快なハンドリングを示し、グランツーリズモとは一線を画するZロードスターの性格を垣間見ることができた。
プラス14PSのマニュアルもいいが、ふだんはゆったり、その気になれば豊かなトルクでドライバーの意図に応えてくれるオートマチックというのが、Zロードスターにはお似合いだ。冬の街を、スタイリッシュに着こなして走りたいものである。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2005/12月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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