プジョー307フェリーヌ(FF/4AT)/フェリーヌスポーツ(FF/5MT)【試乗記】
のこぎりからクルマまで 2005.11.05 試乗記 プジョー307フェリーヌ(FF/4AT)/フェリーヌスポーツ(FF/5MT) ……231.0万円/320.0万円 2005年10月14日、プジョーのプレミアムコンパクトクラス「307」シリーズがマイナーチェンジされた。今回新しく名付けられたハッチバックモデルの「フェリーヌ」とそのスポーティグレードに試乗した。大口&お歯黒へ
いったい猫足ってなんだ? 猫に乗ったこともないし、実は多くの人がわからないのではないだろうか。
想像するに、それは見た目からのイメージ。高いところから猫が飛び降りたとき、柔らかい身体をうまく使って、足を地面にいち早く着け、関節などを大きく曲げることで衝撃を和らげる。地面との接触時間が長く、しなやかでつっぱった感じがない。それが「猫足」、だろう。
英国ジャガーと共に、その“猫足”表現が最もよく用いられるフランスのライオンブランド、プジョーの主力「307」がフェイスリフトを受けた。2001年デビューから時が経ち、同セグメントのライバルたち(「VWゴルフ」「フォード・フォーカス」等)がモデルチェンジやバリエーションモデルの追加など活気づく中、リフレッシュをしたという意味合いが大きい。
具体的には407に始まるデザインキューである、切れ長のヘッドライトを採用。バンパー形状も、例の大口タイプに変更され、ライオンマークも大きくなった。ヨーロッパでの接触縦列駐車対策のためであろう、お歯黒(バンパーガード)も備わる。ファミリーであるオープンの「CC」やステーションワゴン「SW/ブレイク」も同様。
猫化にご熱心
猫化にはご熱心で、ハッチバックモデルには、猫科の動物の総称である「フェリーヌ」というペットネームが新たに与えられた。さらに従来「307CC」にしか用意されていなかった、2リッター177psのハイパフォーマンスエンジンを搭載する「フェリーヌスポーツ」グレードが登場したこともニュースである。そのほか、2リッターベーシックエンジンは従来型に改良を加え、3psの出力と0.2kgmのトルクが上乗せされた。
まず試乗したのはベーシックな1.6リッターモデル。新色の「サマランカオレンジ」をまとう小さいライオンは、ころころと静かに走り出した。試乗車は4段AT仕様。ちなみにベーシックグレードにも5MTが用意されるあたり、プジョーの良心を感じる。
108psというパワーはそれなりだが、307の見所は乗り心地にある。どの速度域でも、不快な突き上げなどが感じられないサスペンションは秀逸。ドイツ車とは対照的にボディを大きく動かし、コーナリングしていく姿は、まさに動物の動きである。タイヤがやや鳴きやすいと感じるが、その柔らかさはシャシーと見事にマッチングして、乗り心地の向上に貢献しているわけである。
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受け継ぐライオンの意志
続いて新設定の「フェリーヌスポーツ」を試す。こちらは5段MT仕様のみのラインアップ。
がっしりした太いステアリングを握り、フロアのシフトレバーを握る。正面の307CC譲りのホワイトメーターが目に入る。このグレードに標準装備される「インテグラルレザーインテリア」はドアトリムだけでなく、ダッシュパネルまでも革で覆われるというもの。太めのステッチがイキである。さらにオーディオが純正品になったことが、インテリアの統一感向上に一役買っている。
そのハイパフォーマンスエンジンは、高回転型を示すカタログ数字から想像するよりも遙かに扱いやすく、トルクフルである。遮音材の見直しなどもこのマイナーチェンジに含まれているのだが、このスポーティグレードにおいては、マフラーからの排気音はなかなか勇ましい。
走り始めると、くだんの猫足とは若干印象が違った。大きなストロークは感じるが、フェリーヌより2インチアップの17インチタイヤ(ピレリP-ZEROロッソ)を装着するせいか、コーナリング時の安心感は高まる反面、体に感じる固さは大きくなる。
猫足(とイメージされるもの)を感じるなら、1.6のベーシックグレードがいいだろう。ただ残念なのは、この排気量にしてハイオク仕様というところ。ガソリン代の高い昨今は気になるところでもある。
プジョー社は、その昔、のこぎりの刃を作っていた。とある本には、鋸刃の切れ味を評して「獲物に飛びかかるライオンの強靱な身体と歯」を思い起こすとあった。現代のライオンは、その牙ではなく足腰をアピールすることに成功している。当初から猫足のクルマを作ろうとしていたかは定かではないが、ライオンの意志はいまだどんな作品にも受け継がれているようだ。
(文=webCG本諏訪裕幸/写真=峰昌宏/2005年11月)

本諏訪 裕幸
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