プジョー407 Sport 3.0(6AT)【ブリーフテスト】
プジョー407 Sport 3.0(6AT) 2005.07.15 試乗記 ……430万円 総合評価……★★★ プジョーのアッパーミディアム「406」の後継として、2005年5月に発表された「407」。個性的なフェイスが特徴の新型車に試乗した。
![]() |
強く惹かれるセダン
一口にスポーツセダンといっても、さまざまなタイプがあるが、このプジョー407はスポーツセダンと明言もしていないし、スポーツカー並みにガチガチに固めた足まわりを持つスパルタンなクルマとも違う。快適な乗り心地を備えているのに、いざワインディングロードに持ち込むと気持ちよくコーナーを駆け抜けるタイプのクルマである。
1台でなんでもこなすユーザーには、この性格は理想的。のんびり走りたいときも、熱く攻めたいときも、ドライバーの要望に応えてくれる懐の深さがこの407にはあるのだ。
写真で見たときには特徴的なフロントマスクに抵抗があったけれど、実物は思ったほど嫌じゃない。それどころか、このくらい主張が強いほうがセダンはいいかもしれないと思えてきたから不思議である。
ちなみに、いつもはワゴンを選ぶ私だが、この407に限ってはセダンに強く惹かれている。リアセクションの美しさに加えて、乗り比べると、ボディのしっかり感や乗り心地の点で、明らかにセダンのほうが優っているからだ。
それだけではないが、たまにはセダンを持ちたいなぁと思わせてくれた407である。
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
プジョーのアッパーミディアム「406」の後継車として、2005年5月に発売。セダンに加え、「ブレーク」改めワゴン「SW」の2車種が投入される。
端正な佇まいの406に対し、407は“大口エアインテイク”&“キリリとしたフロントランプ”による個性的なフェイスがデザイン上の特徴。ボディサイズはひとまわり大きくなった。
日本仕様のパワーユニットは、「406」と「607」に搭載される3リッター V6の発展型と、2.2リッター直4の2種類。V6にアイシン製の6段オートマチックが採用されたことはトピックだろう。直4にはZF製4段ATが与えられる。
欧州衝突安全評価「EuroNCAP」で最高の5つ星を獲得した安全性も新型のセリングポイント。エアバッグは前席はもちろん、カーテンエアバッグ、前後サイドエアバッグ、ドライバーの足を保護するステアリングコラムエアバッグと計9つを用意する。
「206」「307」に次いで設定される407のSWの自慢は、お馴染み、フロントガラスエンドから後席頭上までを覆う、面積1.6平方メートルのガラス天井「パノラミックルーフ」。電動ブラインドで完全にカバーでき、採光の具合を9段階に調整できるという。
(グレード概要)
407シリーズはセダン、ワゴンともに、2.2リッターモデルが「ST 2.2」と「Sport 2.2」、3リッターは「Sport 3.0」と「Executive 3.0」が用意される。ベーシックなSTをのぞいて、ヒーター付き4Way電動調節シート、ウォッシャー付きキセノンヘッドランプを装備。SportとExecutiveの違いは主にインテリアで、前者はトリムがメタル調になるほか、3本スポークステアリングホイールやホワイトメーターを採用し、スポーティに演出される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
ドイツ車に比べると素っ気なく、質感もいまひとつというイメージが強かったフランス車も、このところライバルに迫るレベルになってきた。堂々としたデザインのセンターコンソールやシンプルで見やすいホワイトメーターなど、スポーティなグレードとして納得できる雰囲気だ。
それだけに、センターコンソールやステアリングホイールに施されるグレーのプラスチックの質感がこのクラスには不似合いなのと、コクピットを囲むように配されるメタル調パネルがさほど美しくないのが残念である。
日本専用にデザインされたセンターコンソールには、HDDナビとミュージックサーバーを備えるオーディオが標準装着されるが、この内容で430万円という車両価格はかなり魅力的だ。
(前席)……★★★
標準の電動シートはブラックレザー仕様。サイドサポートが目立つが見た目ほどのタイトさはない。シートの張り具合が私には強く感じられ、また、手動のランバーサポートも腰のやや高い位置に効くため、身長167cmの私の体にはいまひとつしっくりこない。
もうひとつ気になったのが、以前別のテストのときに底の厚いスニーカーを履いて運転したら、爪先がインパネのロワーパネルに干渉して、ペダルを踏む右足が窮屈だったこと。今回はドライビングシューズで試乗に臨んだので事なきをえたが、足のサイズが大きな方はご注意を。
(後席)……★★
フロントシートに比べると多少感触がソフトなリアシート。横方向のスペースは十分で、いざというときは大人3人がリアシートに陣取ることだってできる。前方の視界が開けているのはいいが、全長の割には足元が窮屈だ。リアウィンドウが頭上まで回り込んでいるのも、暑い時期にはうれしくないが、手動のブラインドが備わるのがせめてもの救いか。乗り心地が快適なだけに、パッケージングのまずさが目立ってしまう。
(荷室)……★★★
一見、どこにトランクオープナーがあるのかわからないが、最近のプジョーのお約束どおり、数字のエンブレムの「0」の内側が押しボタンになっている。
出っ張りの少ないトランクルームは、奥行き、幅ともにこのクラスのなかでは突出した大きさではないが、必要ならリアシートを倒して荷室を拡大することもできるので、不自由はしないと思う。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
最高出力210ps/6000rpm、最大トルク29.5kgm/3750rpmというスペックは3リッターとしては控えめなほうで、1650kgのボディを駆るのにパワフルとはいえないものの、街なかでストップ&ゴーを繰り返してもストレスはなく、また、高速で追い越しをかけるために加速するような場面でも、十分に力強い。組み合わされるアイシンAW製の6段オートマチックはシフトの動作がスムーズで、「なかなかシフトアップしない」といった煩わしさがないのもいい。
ただ、高速を巡航中、“ちょっと加速したい”と思っても、シフトダウンが起こるまでスロットルペダルを少し踏み込まないと加速が始まらない場面が何度かあり、それならマニュアルシフトしたほうが便利ということに気づいた。ステアリングホイールにシフトスイッチがあったら便利なんだけど……。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
フランス車というだけでソフトな足まわりを想像する方も多いだろうが、この407はむしろ硬めの乗り心地を示す。もちろん、ドイツ車ほどではないが、低速ではタイヤの硬さもあって多少ゴツゴツした印象。しかし、高速道路を走るような場面では、上下動を抑えたフラットな乗り心地で、V6モデルに搭載される電子制御ダンパーの設定を「SPORT」にすれば、さらにシャキッとする。
ワインディングロードも試したが、ボディの大きさからは想像できないほどの軽快な身のこなしはさすがプジョーだ。Aピラーが寝ているので、右コーナーで視界の邪魔になるのが気になった。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2005年6月29日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:5674km
タイヤ:(前)215/55R17(後)同じ
オプション装備:--
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(4):山岳路(4)
テスト距離:616.8km
使用燃料:50.4リッター
参考燃費:7.4km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。