プジョー407 2.2(6MT)/3.0 V6(6AT)【海外試乗記】
顔よりも足 2004.05.12 試乗記 プジョー407 2.2(6MT)/3.0 V6(6AT) プジョーのミディアムセダン「406」の後継モデル「407」。ポルトガルで行われた国際試乗会に、自動車ジャーナリストの森口将之が参加した。鋭くなった顔つきに、ちょっと違和感をおぼえるが……。スタイルの説得力
バンパーのなかで大きく口を広げたフロントグリルに、負けじと大きく見開いたヘッドランプ。2003年12月に本国フランスでデビューした「プジョー407」は、「206」や「307」を上まわるインパクトのある表情で度肝を抜いた。前作「406」が端正なたたずまいの持ち主だっただけに、違和感を抱いた人も多いだろう。
僕もまったく同じ思いだった。国際試乗会が行われるポルトガルのファロに向かう機内で、写真ではどうしてもなじめなかったあのカタチが実際にはどのように見えるのか、不安を抱いていた。しかし、南欧の強い日ざしのもとで目にした407のデザインは、悪くなかった。
例の顔を実際に見てみると、写真よりマトモ(?)だった。正面は206に似ているという発見もあった。最近のヨーロッパ車の流れから考えると、このぐらい自己主張が強いほうがいいのかもしれない。しかもサイドやリアから見たときのプロポーションは、スタイリッシュそのものだ。206や307の延長線上で3ボックスを描けばこうなるという説得力さえ感じられる。
![]() |
![]() |
![]() |
磨きがかかった走り
407には、セダンとブレーク改め「SW」の2つのボディがあり、今回試乗したのはセダン。日本に輸入される予定の、2.2リッター直列4気筒と3リッターV型6気筒の、2つのガソリンエンジンに乗ることができた。トランスミッションは2.2リッターが6段MT、3リッターは6段ATで、後者はプジョー初となる新開発のものだ。2005年初めに上陸するとウワサされる日本仕様は、どちらもATになる可能性が高いというが、2.2リッタ−が4段になるのか6段になるのかは不明だという。
運転席に座ってまず感じるのは、フロントウィンドウの傾きが強いことだが、これはしばらくすると慣れる。内装デザインは、プジョーらしくオーソドックスだが、仕上げのレベルは406よりかなり上がった。ナビゲーションシステムはオプションで用意される。モニターに、エアコンやオーディオの表示まで出るあたりは、406との世代の違いを感じるところだ。
前席のサイズは大きめで厚みもたっぷりしており、適度にソフトなクッションで体を優しく受けとめる感じ。背もたれのサポートも文句ない。リアシートは広さについては406とほとんど同じという印象だが、座り心地は快適。しかもフロアにセンタートンネルがないので、3人がけも楽にできそうだった。
エンジンはどちらも406でお馴染みだが、トランスミッションの違いで、従来とは違う印象を受ける。なめらかな吹け上がりが心地よいバランサーシャフト付きの2.2リッター4気筒は、クロースレシオの6段MTを操ることで、スポーツユニットと呼んでいい、心地よさを味あわせてくれた。
3リッターV6の6段ATはアイシンAW製を採用。変速タイミングやレスポンスに違和感はない。しかも多段化の恩恵で、発進直後や追い越し加速のピックアップが4段の406 V6とは別物となり、静かで余裕のある走りにさらに磨きがかかった。
凝ったサスペンション
407の技術上のトピックはサスペンションにあるといっていい。フロントはダブルウィッシュボーンながら、通常は一体となっているハブキャリアを、ハブと、それをサポートする部分に分割。リアは形式的には406と同じマルチリンクだが、スプリングとダンパーを寝かせて配置している。荷室への張り出しを抑えるのが最大の目的だそうだ。実際、トランク左右の壁はほとんどフラットに仕立てられ、使いやすそうだった。
一方、フロントに凝ったダブルウィッシュボーンを採用した理由は、ハンドリングで実感できた。ステアリングの切れ味は鋭さとなめらかさが絶妙に同居していて、多くの前輪駆動車のように、アクセルのオン/オフによって手ごたえが変わったりはしない。油圧式のパワーアシストにこだわったおかげもあって、とにかく操舵感が心地よい。
コーナリングスピードはかなり高く、限界付近までドライバーの思いどおりに曲がっていける。とりわけノーズが軽い2.2リッターは、自然で素直な挙動に感動をおぼえるほどだった。それでいて乗り心地は、406をさらに洗練させたという印象。すこしだけ硬くなったものの、ショックのいなし方やフラット感は確実にワンランク上だった。
試乗を終える頃には、顔つきのことなどほとんど気にならなくなっていた。凝りに凝った足まわりがもたらす乗り心地とハンドリングの絶妙なるバランスは、それほど素晴らしかった。
(文=森口将之/写真=プジョージャポン/2004年5月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
NEW
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
NEW
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
NEW
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
NEW
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。 -
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。