BMW316ti (5AT)【試乗記】
レゾンデートルの死守 2002.01.11 試乗記 BMW316ti (5AT) ……373.8万円 「コンパクト」のサブネームをはずして、BMWの新しいコンパクトモデルが日本に導入された。1.8リッターの316tiと、2リッターの318tiがそれ。webCG記者が前者に乗ると……。随所に盛られた新意匠
2002年初頭において、というのは大げさだけど、いま使って相当恥ずかしいフレーズに「ビビビッときた」というのがあると思うが、それはともかく、BMWの新しい3シリーズベースのコンパクトモデル「316ti」に初めて乗ったリポーターは、「ビビビッときて」しまったのだ。軽く吹けるエンジン、すばらしい乗り心地、そして軽快なハンドリング……。大いなる感銘を受けた。
日本に入るtiは3種類。316という名前だけど1.8リッターの318ti(5AT=299.8万円)と、やはり318と呼ばれるが2リッターモデルの318ti(5MT/5AT=313.0/323.0万円)である。左ハンドルのみとはいえ、318tiにはオートマより10万円安で5段MTモデルが用意される! BMW330i M-Sportに続く、守旧派クルマ好きへのビーエムからのプレゼントである。拍手ぅ!!
さて、ニューtiのボディサイズは、全長×全幅×全高=4265×1750×1410mm。絶対的にコンパクトかというと微妙なところで、名前からも「コンパクト」のサブネームが落ちたけれど、依然として街なかで使いやすい大きさではある。
Aクラスでゴルフクラスに進出するメルセデスを横見で見ながら、旧型シャシーを使って急造した先代と異なり、今度の3ドアハッチは現行3シリーズをベースとし、エクステリアもわかりやすくスタイリッシュだ。「ナメられちゃイカン」と思ったのか、顔つきにニューフラッグシップ(7シリーズ)のイメージを引用し、そのうえ眉毛を剃り落としてガンバッテいる。テイルランプのクリアガラスカバーが印象的なリアビューは、トランクエンドの小さなウィングがさりげなくスポーティ。サイドのキャラクターラインがフロントフェンダー前で終わっているのは、ファナティックなビーエムファンには、許せない!?
2001年のジュネーブショーで披露されたツーリング・インターナショナルには、サルーンとの差別化のためもあって、随所に新しい意匠が盛り込まれた。
センセーショナルと呼べる数字
エンジンもまったく新しい。「N42」型と名付けられたインライン4のツインカムユニットが投入され、日本ではいわゆる2002年モデルから、すべてのビーエム4気筒車がN42ユニットを積む。
シリンダーヘッドから離れたスロットルバタフライではなく、燃焼室のフタたる吸気バルブのリフト量を制御することで、燃焼室への吸気量をコントロールする「バルブトロニック」が採用されたのが最大の特徴。吸気効率を追求することで、燃費とスロットルレスポンスの向上をねらう。「ヒトは、走るときは大きく呼吸するが、歩くときは小さく息を吸う。「わざわざハンカチを通して息を大きく吸い込むヒトはいないでしょう?」というのが、ビーエムの説明である。
バルブトロニックによる吸気バルブのリフト量制御と、吸排気双方のバルブタイミングを可変化させるダブルVANOSと組み合わせることで、カタログ上、BMW316tiは6.9リッターで100km走ることができる(リッター約14.5km)。いわばガソリンエンジンに、ディーゼルユニットの良さを取り入れたN42型。「このクラスのガソリンエンジンでは、センセーショナルと呼べる数値を実現した」(広報資料)という。「さすがはバイエルン発動機(Bayerische Motoren-Werke)!!」と言いたいところだが、N42型直4ユニットは、英国はバーミンガム近郊のハムズホール工場で生産される。
上質と軽快感
シャンパンレッドに塗られた316tiに乗る。黒とグレーの布シートは少々平板で調整も手動だし、シンクをクレンザーで丸くこすったかのような「ブラッシュドアルミ」パネルは好き嫌いがわかれようし、なにより樹脂がギッシリ詰まったいかにも慣性が大きそうなステアリングホイールがtiの「駆け抜けるヨロコビ」に不安を感じさせたが、杞憂でした。
ニュー1.8リッターエンジンは、115ps/5500rpmの最高出力と、17.9kgm/3750rpmの最大トルクを発生する。スペックは大したことないが、その回転たるやスムーズしごく。6500rpmでカットオフが働くまで軽やかに回る。やたらと自己を主張することはないが、ちゃんと心地よいフィールが伝わってくる。リポーターの頭には、「そよ風のエンジン」なんてフレーズが思い浮かんじゃうわけです。なにしろ「ビビビッ」ときてるから。
驚いたのは、かつてはビーエムの魅力を大いに削いでいたオートマチックトランスミッションの進歩。GMストラスブルク製5ATのシフトは秀逸、かつお利口で、学習が早い。ドライバーの好みをすぐにおぼえる。
「オヤ!?」と思わせたのが、シフターを「ステップトロニック」ことシーケンシャルモードに入れたとき。シフトアップが手前に引き、シフトダウンが奥(前)に押すカタチになった。スポーツモードで走っている場面では、カーブに飛び込み、ブレーキ、そしてシフトダウン、となるわけで、減速Gを受けながらの操作にはこちらが正しい。ただし、現在主流である「シフトダウンは引く」派のクルマに乗り換えた場合、「ブレーキング!!」「シフトダウン!!」……のつもりが高いギアに入って、ヘロヘロヘロ……てなことが起こるんじゃないでしょうか。ちと心配。
通常はフラットな乗り心地を提供するBMW316ti。いざ峠に赴くと、シャシーバランスの良さを活かして、前後輪とも危なげなく滑らせながら、ひらり、ひらりとカーブをこなす。3シリーズセダンより約20mm短いヘンテコな見かけ……、じゃなくて、斬新なスタイルのなかに、上質と軽快感がうまく同居している。
新しいtiには、デザイン面におけるトライのみならず、内燃機関による「ドライビングプレジャー」と「環境」を両立させようというBMWの強い意志が感じられる。いわばレゾンデートルの死守。さすがはバイエルン発動機。ビビビッ!
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2002年2月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
NEW
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
NEW
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
NEW
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。 -
NEW
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー―
2025.9.18マッキナ あらモーダ!ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。 -
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2025.9.18谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が、ピュアなドライビングプレジャーが味わえるという「ポルシェ911カレラT」に試乗。走りのプロは、その走りをどのように評価する?