BMW 645Ci(6AT)【試乗記】
選ぶ理由はいくらでもある 2004.01.28 試乗記 BMW 645Ci(6AT) ……998.0万円 1976年のジュネーブショーでデビューを飾った、BMWの4座クーペ「6シリーズ」。14年ぶりに復活した新型は、流麗なフォルムと斬新なデザインに、BMWのハイテクノロジーを詰め込んで登場した。4.4リッターV8を積む「645Ci」に、自動車ジャーナリストの生方聡が乗った。14年ぶりの復活
クーペファンにとって、日本市場は冬の時代が続いている。ありとあらゆるタイプのクルマが揃う日本車にあって、悲しいかな、クーペと呼ばれるモデルはほんの一握り。
「速さを求めるならスポーツセダン、スポーツワゴンがあるじゃないか」。
……そんな声がメーカーからも、市場からも聞こえてきそうだ。しかし、速さや走りっぷり以外の部分、つまり、クーペの美しいスタイリングや特別な雰囲気は、セダンやワゴンではなしえない。
ファンにとっての救いは、依然として、外国勢に魅力的なクーペが数多く存在すること。たとえば、14年ぶりに復活したBMW「6シリーズ」は、間違いなくファン待望のラグジュアリークーペである。
クーペの文法どおり、「645Ci」は長いノーズと短いルーフをエクステリアの特徴とする。ノーズからフロントウィンドウを経由してテールエンドへと続くラインは、低く伸びやか。これで全長4830mm、全幅1855mmとなると、さぞかしボディにボリューム感があるのだろうと思っていたが、実車を目の前にすると、むしろ小さく思えるほどだった。1375mmに抑えられた全高と、前245/45R18、後275/40R18サイズの大径ホイール、角のとれた流麗なボディパネルが、そんな印象を生むのだろう。
一方、室内は着心地のよいジャケットのようなフィット感がある。大袈裟でないサイドサポートを備えた運転席にタイトさはなく、ソフトな座り心地で身体を包み込んでくれる。ダッシュボードやドアも、ドライバーを包み込むようなデザインを採用。繊細に刻まれた回転計と速度計の目盛りも、スポーティな雰囲気を高めている。
なかなかの優れモノ
しかし、645Ciを小さく感じた一番の瞬間は、パーキングから出るときだった。ロック・トゥ・ロック1.6回転(!)というステアリングをフルにきって動き出すと、軽い操舵力とは相反して、下手なFFコンパクトよりも小まわりがきく印象なのだ。
これを実現するのが、新型5シリーズから採用された「アクティブ・ステアリング」と呼ばれる電気仕掛けだ。低速では軽く、操舵量に対するステアリングの切れ角が大きい。反対に高速では手応えがあって、ステアリングの切れ角が小さくなる。これにより、車庫入れからハイウェイクルージングまで、常に最適なアシストを得るというものだ。同じ操舵量でも、速度によってステアリングの切れ角が変わることに対して、乗るまでは疑問を感じていたが、実際に操作してみると違和感はまったくない。これはなかなかの優れモノである。
走り始めて気づくのは、低速での乗り心地の硬さ。路面の凹凸を忠実に拾う印象である。前席に陣取っている限りは直接的なショックを感じないが、リアシートでは段差を越えるような場面で突き上げを感じることもあった。これはタイヤサイズというより、サイドウォールが硬めなランフラットタイヤを採用したことによるものだろう。
高速道路に乗り入れると、タイヤの硬い感じは変わらないが、やや硬めのサスペンションはむしろしなやかに動く印象を受ける。フラット感も十分で、直進安定性が高いから、高速で巡航することが、ドライバーにとって実にたやすく快適なのだ。
余裕の4.4リッターV8
フロントアクスルよりも後方に重心がくるよう配置された、いわゆるフロントミドシップレイアウトのエンジンは、最高出力333ps/6100rpm、最大トルク45.9kgm/3600rpmのカタログスペックを持つ4.4リッターV8。バタフライスロットルを廃した「バルブトロニック」、吸排気可変バルブ機構「ダブルVANOS」を備えるユニットである。組み合わされるギアボックスはステップトロニック付の6段ATだが、シーケンシャル・マニュアルトランスミッション「SMG」を選ぶこともできる。
大排気量エンジンらしく、1740kgのボディを軽快に発進させる余裕の低速トルクを発生するのは頼もしいかぎり。街なかなら、2000rpm以下でも十分活発に動きまわることができるほどだ。もちろん、このエンジンが魅力的なのはさらに回転を上げていった領域にある。3600rpmでトルクカーブはピークを迎えるが、体感上は4500rpmを超えたあたりからレブリミットの6000rpm台の前半まで、伸びのある加速を見せつけてくれる。そのとき耳に入るエンジンサウンドが実にエキサイティングで、ついつい右足に力が入ってしまう。「DSC」(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)がわりと早い段階で顔を出すのが気になるが、誰にでもたやすく333psを扱うことができるように仕上がっている。
ワインディングロードが楽しい
645Ciには「DDC」(ドライビング・ダイナミック・コントロール)が備わり、シフトレバーの手前にある「SPORT」のスイッチを押すと、エンジンマネージメントのプログラムが切り替わる。スロットルに対するレスポンスが高まるとともに、オートマチックのシフトプログラムも高回転寄りにシフト。さらに、ステアリングはアシスト量を減らすことでダイレクトな印象に変わるから、スポーティな走行にはうってつけだ。
そんな状態のまま645Ciをワインディングロードに持ち込むと、ここでもまたボディサイズを忘れさせるような事態が、ドライバーを待ち受けている。高速コーナー入口でダイレクト感の増したステアリングを切ると、V8が積まれたノーズはすっとインに向かい、まさにオン・ザ・レール感覚でコーナーを抜けていく。その際、ドライバーはほとんどロールを意識しないだろう。それもそのはず、走行状況によってスタビライザーの剛性を変化させてロールを抑え込む「ダイナミック・ドライブ」が機能しているのだ。おかげでボディの重量を意識することなく、軽快にワインディングロードをとばすことができる。
645Ciは、グランツーリズモとして優雅に走るラグジュアリークーペの顔と、ワインディングロードを機敏に駆け抜けるスポーツクーペの顔を併せ持っている。そして、なにしろドライバーにボディの大きさや重さを意識させないところがいい。奥行きがあり、十分広いトランクや、いざとなれば大人2人を乗せることができるリアシートなど、実用性も十分備えるこのクルマ。2ドアの不便さを差し引いても、選ぶ理由はいくらでもあるだろう。
(文=生方聡/写真=清水健太/2004年1月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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