BMW 530i(6AT)【試乗記】
最高の回答 2003.11.19 試乗記 BMW 530i(6AT) ……710.0万円 デザインはもちろん、先進技術を満載して登場したBMW「5シリーズ」。『webCG』エグゼクティブディレクターの大川悠は、「革新」と「個性」に、BMWの企業姿勢を見た。“攻め”のブランド
この秋までに乗った2003年モデルの輸入車のなかで、もっとも印象に残ったのがジャガー「XJ」とBMW「5シリーズ」だった。XJは、軽いアルミボディによって、いかに新しい高級車の世界が開かれるかを立証した。歴史ある名門の思想と、最新技術への果敢な取り組みの見事な両立といえるだろう。一方の5シリーズは、ブランドを守るためには挑戦的であらねばならないことを、改めて確認させてくれた。
7シリーズに続いて登場した5は、BMWが常に、メルセデスベンツに対抗する価値を提案する存在たることを訴える。企業そのものが挑戦的な経営姿勢なら、その製品もまた常に新しい提案をし、メルセデスとは違ったマーケットを得てこそ存在理由がある。それをはっきりと呈示したという点で、個人的には好ましく受けとめている。
むろん、世間は甘くない。特に日本で高級車を選択する層は、比較的既存イメージを大切にするから、最新のBMW車に対する風当たりは強い。それも主としてスタイリングに対する逆風で、チーフデザイナーのクリス・バングルが、7シリーズ以来押し進めてきた新路線に対する反発である。多少保守的なユーザーの方向性と、バングル路線はまったく正反対なのである。
5シリーズは、7シリーズの個性をさらに強調したスタイリングを、敢えて採用した。特に猛禽類を思わせるヘッドライトの表情や、アメリカの名建築家フランク・ロイド・ライトの傑作、「落水荘」からヒントを得たとバングルがうそぶく角張ったトランクラインなど、さらに大胆に新路線を訴える。
7に初採用され、使い勝手に疑問の声が投げられた「iDrive」と称される一連のデジタルコントロール類は、リファインされてかなり使いやすくなった。さらに、ステアリングギアレシオ、パワーアシスト量を、操舵状態によって10:1から20:1まで無段階に変える「アクティブ・ステアリング・システム」や、舵角に合わせてライトを照射するアダプティブ・ヘッドライトなど、機能的にも革新と個性化が図られた。
よく見ればオーソドクス
日本市場でも、その評価をめぐって論議は二分するが、リポーターは5シリーズの新しいコンセプトを全面的に支持する。メルセデスやアウディだけではなく、世界的に挑戦を強めるレクサスに対抗するためにも、ミュンヘンは“攻め”企業姿勢を重視しなければならなかった。そして多分、ドイツの昔からのBMWファンは、一連の挑戦的な姿勢を前向きに受けとめるだろう。この姿勢なくしては、BMWの存在理由もなければ、BMWを選ぶ積極理由も希薄になるからだ。
人の目は勝手で、だまされやすいもの。5シリーズが「ひどく変わったスタイリングだ」というヒトもいるが、よく見ると、基本的なプロファイルなどは非常にオーソドクスである。ヘッドライト上の補助ライトの処理や、Cピラー後下端の線の延長線上にテールランプの分割線があるがゆえに、トランクの出っ張りが強調されるなど、ディテイルの処理やキャラクターラインの扱いによって奇異に映る。
とはいえ、全体的には、非常に力感が入ったスタイルの4ドアセダンだ。個人的に気に入らないのは、全長×全幅×全高=4855×1845×1470mmと、一昔前の7ぐらいにまで肥大化したボディサイズくらいである。
7のテーマを踏襲しつつもより使いやすくした室内、特にダッシュの仕上げは素晴らしくイイ。いわゆるコンテンポラリーモダンそのもので、新しい思想と古典的な文法や材料が巧みにブレンドされており、しかも伝統のドライバーオリエンテッドが踏襲される。メルセデスベンツ「Sクラス」並に、細かい調整が効くシートのできも文句ない。
ベスト“スポーティ”
アクティブ・ステアリングのフィーリングに、それほど奇異は感じなかった。最初こそ低速で切りすぎたり、タウンスピードでは妙に人工的な反発を感じることもあるが、これはすぐに慣れる。感覚に馴染むのを待つより、山道を走ったほうがその価値が理解できるだろう。DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)と連動し、最大9度までカウンターステアをあてる機能は、パニックに陥ったときかなりの助けとなるはずだ。
乗り心地にも感心した。実は試乗前、ブリヂストンのランフラットタイヤが低速では堅いという話を聞いていたのだが、個人的にはそれほどハードだとは思わなかった。むしろ、全般的なフラットネス、ダンピングが締まって車体姿勢の変化がすくないこと、そして全速度域を通じての静かさに好感がもてた。
だが、一番印象的だったのは、やはりエンジンである。3リッターストレート6は、BMW製直列6気筒ならではの、繊細にして豪快なエンジンだった。あたかも足の裏ですべての細かな鼓動を感じ取れるような気持ちのよさが、最大の価値である。6段ATの応答もとてもいい。
やはり5シリーズは、中型プレミアムセダンのなかで、スポーティな感覚においてはベストだと思う。確かに、ライバルたるメルセデスベンツ「Eクラス」の総合性能は高いし、長く所有するならEクラスの方がいいかもしれない。だが、最新サルーンの事情、あるいは最新技術の先端、そして最新モードの真っ直なかに生きていたいと願うなら、5シリーズは最高の回答だろう。
ただし、日本では高すぎる。530iの場合、標準でこそ675.0万円台だが、ちょっとアクセサリーを付けただけで、簡単に700万円を超えてしまうのだ。これでは誰でも、一瞬考え込むのではないか。
(文=大川悠/写真=荒川正幸(A)、峰昌宏/2003年11月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。