BMW 116i(6AT)【試乗記】
「充分」以上のものがある 2005.04.14 試乗記 BMW 116i(6AT)/118i(6AT) ……349万1100円/324万5000円 ラクシャリークラスは蜜の味。マスマーケットは米の飯。かくてフォルクスワーゲンはフェートンを、メルセデスベンツはAクラス、BMWは1シリーズを送り出し、市場は互いの本丸を攻め合う仁義なき闘いとなる……はずだった。結論は「116i」
……ところが、この1シリーズの場合は幸か不幸かそんな修羅場も蚊帳の外、そもそも闘う土俵が違うように見える。理由の第一は「ゴルフ」や「メガーヌ」といった、現代の標準的な前輪駆動車たちとは求めるものがかなり異なること。そして第二に、価格がやや独善的と思えるほど高めに設定されていることだ。キャッチフレーズどおり、それ故の「ワン・アンド・オンリー」なのだろうが、このクルマに魅力を感じながらも予算の限られた顧客にとっては、悩ましいかぎりだ。
これはプライベートカーの買い換えを迫られた筆者自身の「切実な」問題(心の叫び?)でもある。折しも昨秋発売されたトップモデルの「120i」からほぼ半年を経て、「118i」と「116i」が輸入開始されたのを機に、両車を試してみた。
結論を先に言ってしまおう。当初アンダーパワーと思われた「最廉価版」の116iだが、BMWらしさを充分に愉しむことができたのは、大きな収穫だった。ただし、依然ライバルに比べての割高感は否めない。また室内が狭いのも事実だが、それこそ、選択する側の懐具合と要求次第に違いない。個人的には意外や、エンジンに新機軸を盛り込んだ118iよりも、むしろ古典的な116iのほうに一層の好ましさを感じた。
BMWらしさとは?
ところで「ちょっとお高い」その価格だが、同じ1.6リッター/ATのハッチバック同士を較べると、BMW116iは288万8000円。対して、ゴルフGLEは240万4500円、メガーヌ1.6は231万円。さらに言えばあのメルセデスベンツでさえ、「Aクラス170」が252万円からと、輸入コンパクトのなかでは平均的な価格設定である。
1シリーズの突出した差額を正当化するのは何なのか? 誤解を恐れずに言えば、単なる「ブランドかぶれ」も、機能本位のユーザーも、結局は“プロペラマーク”への信頼と期待に尽きるのではないか。言葉にすれば、例の「駆けぬける歓び」である。
“フロントミドシップ”による前50:後50の重量配分と、BMWがBMWの証たるフロントエンジン/後輪駆動のシャシーレイアウトはまさにそのためにある。MINIがBMWでないのも同じ理由だ。したがって、それから得られるナチュラルでスポーティな操縦感覚と引き替えに、今や前進6段ものギアセットを擁するZF製ATを収めたハウジングやフロアトンネルが居住空間の一部を奪うのは自明の理。実際、レッグルームは前後席ともヘタをすると格下のモデルより狭いとさえ感じられる。
もうひとつの「らしさ」がエンジンにあるのは言うまでもない。本来これはフルネームでその名も「バイエルン発動機製作所」を意味するBMWが最も得意とするところ。ゲルマンの理性とラテンの感性が絶妙にマッチした南ドイツ生まれならではの技が気筒数、排気量を問わず、惜しげもなく注がれる。
南の奔放さと北の朴訥
カタログを拡げてみると、すくなくともスペック上は118iが明確に有利と思える一方、116iはいかにも頼りなさそうに見える。最大の理由はBMWらしいクォリティとコンフォートを維持するための、ズッシリと重い車重にある。1.6リッターで1280kgもあり、その昔なら確実にミドルクラスの数字だが、パワー、トルクの値は115ps、15.3mkgにすぎない。対する118iはネーミングとは裏腹に、実は2リッターの排気量を持ち、おまけにBMW独創の最新技術、バルブトロニックを与えられた。その結果、55kgの重量増加を補って余りある129ps、18.4kgmを得るに至ったのだ。なかでもピークトルクの違いが大きく、かつその発生回転数が4300rpm対3250rpmと低いところから発揮されるのが特徴だ。
ところが、ところがである。現実には非力なはずの116iでも普通に走らせるには充分以上だった。そればかりかボア・ストローク比の違いもあってか、エンジンが静かでかつメリハリが効いているところなど、むしろ兄貴分のお株を奪うほどなのだ。たしかに、パートスロットルのままでは全般におっとり、「ここ一発!」の場面でも凡庸な加速しか示さない。
とはいえ、フルスロットルを与えると4000rpm台後半からリミットの6500rpmに至るまで、タコメーターの針が自ら盤面上を駆け上がる勢いで一気に揚げ足が速くなり、実に気持ちがイイのである。
ギアリングまで含めて118i以上と完全に共通のZF製オートマチックは、それにもかかわらず116iにドンピシャのセッティングを提供する。単にスムーズなだけでなくキックダウンの設定が適切で、Dレンジでも容易に下のギアを選び出すことができるため、あえてシーケンシャルモードにしなくても絶対的なパワー不足を感じさせないのである。むろん、冷静に観察すれば118iの方が明らかにトルキーで、速いのは事実。だが、タウンスピードではアイドリングの微振動や、それにともなう若干のハウリング(共鳴音)、そしてエンジン自体の透過音とが目立ち、あまり愉しくないままに終わりがちなのが惜しい。
標準のタイヤ/アルミホイールは116iが195/55R16 87H+6J、118iが205/55R16 91H+7Jと差別化されているが、この点ではむしろ積極的に前者を推したい。1シリーズの乗り心地はランフラットタイヤ導入のせいか元来あまり誉められたものではないが、メイクの違い(116iのテスト車はピレリのeufori@、118iはコンチネンタルのPremium Contact SSRを履いていた)も手伝ってか、前者の方が「レス・ワース」で、当たりの強さがいくぶん和らげられているからだ。その他の違いは主として装備に関するもの。フロントフォグランプやレインセンサー付きワイパー、“スポーツレザー”ステアリングホイールなどがそれだが、いずれもその気になればオプションでの装着が可能である。
というわけで、筆者ならもとより「手許不如意」なこともあって(残念!)、たぶん「素」に近い116iを選ぶことになるだろう。
(文=道田宣和(別冊CG編集室)/写真=峰昌宏/2005年4月)

道田 宣和
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