三菱ランサー・エボリューションIXシリーズ【試乗記】
フルタイム・アドレナリン4WD 2005.04.06 試乗記 三菱ランサー・エボリューションIXシリーズ 三菱のラリーウェポン「ランサーエボリューション」が、通算12モデル目となる「IX」に進化した。富士スピードウェイのショートコースで、『NAVI』編集長の高平高輝がインプレッション!12モデル目の“ランエボ”
試乗会が始まって間もなく、富士スピードウェイのショートコースは富士の裾野から降りて来た雪雲にすっぽりと包まれた。サーキットの路面は瞬く間にウェットコンディションに変わる。いつもなら空を見上げて悪態のひとつもつきたいところだが、その日はちょっと違った。なにしろ試乗会の主役は新型「ランサー・エボリューションIX」。走る路面を選ばないラリーマシーンのベースモデルにとって、難しいコンディションこそ望むところと言えるかもしれない。
再建に向けて苦闘する三菱ブランドの虎の子にして、スポーツイメージの象徴たるランサー・エボリューションの新型が「IX」。1992年10月にデビューした初代エボリューションから数えて9世代目、実際にはその間に、ATモデル「GTA」や「トミ・マキネン・エディション」といった車種が存在するので、シリーズ通算では12モデル目に当たるという。本物のコンペティションカーならばシーズンごとに進化・熟成されていくのは当たり前だが、ベース車とはいえ市販モデルが連綿と改良を加えられ、モデルナンバーを積み重ねていくのは世界的にも珍しい。それだけ根強いファンを持つということだろう。
トルク&スタビリティの向上
先代のエボリューションVIII MRからエボIXに進化した今回のバージョンアップの主な内容は、ターボチャージャーの改良、GSRとRSの中間に位置する新グレード「GT」の追加設定、いわゆる“ブーレイ顔”を廃した新しい前後バンパーデザインといったところだ。
吸気側カムに可変バルブタイミング機構「MIVEC」を備え、コンプレッサーハウジングの形状を改良したターボを採用したエンジンは、レスポンスにより磨きがかかったようだ。さらにマグネシウム合金製のコンプレッサータービンを採用したGT/RS用エンジン(GSRにもオプションで装着可能)は、最大トルクが41.5kgm/3000rpmへとまたひとまわり分厚くなったが、雪の舞うサーキットではむしろ先代とのハンドリングの違いのほうが明確に感じ取れた。リアの車高をわずかに下げてスタビリティ向上を狙ったという新型は、前へ前へとグイグイ押し出す強烈なトラクション性能が印象的。2004年からヨーロッパ市場にも投入されたことが影響しているのだろうが、ヒトコトで言ってよりスタビリティ重視、安定志向に仕立て直されている。
![]() |
![]() |
依然として“曲がる”
スタビリティ重視はアンダーステアが強まったということだが、それでもランエボIXは依然として、もっとも“曲がる”フルタイム4WDである。ブレーキングやスロットルできっかけを与えれば、たちまちリアを振り出した伝統的な“ファイティングポーズ”を取る。しかも、かなり大きなドリフトアングルがついても、ステアリングとスロットル操作によるコントロールを受け付け、よほどのことがない限りスピンには至らないのがランサーの特長だ。というわけで、ついつい息が上がるまで振り回して走ることになる。
エボVIIから始まった第3世代ランサー・エボリューションの集大成とも言うべきエボIXが、これまで以上に洗練されていることは疑いないが、一旦レカロのバケットシートに座れば、誰もが全開にせずにはいられない攻撃的な波動を伝えてくる。それが海外でも認められたランエボの、いわばコア・アイデンティティだ。もっとも、新型が出たばかりだというのに、「じゃあ次期型はどうなるの?」と先回りされるのは、この道を選んだ宿命だろう。そう、これまでのサイクルから言えば、次の「エボX」は、大きくジャンプするはずなのである……。
(文=NAVI高平高輝/写真=荒川正幸/2005年4月)

高平 高輝
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。