フィアット・バルケッタ/ヒュンダイ・クーペ【試乗記】
ラクシャリー、ハイパワーばかりが輸入車じゃない 2005.03.17 試乗記 フィアット・バルケッタ(FF/5MT)/ヒュンダイ・クーペ(FF/4AT) 「輸入車の祭典」JAIAは、「日陰のモデル」に触れるチャンスでもある。地味ではあるが、日本車に足りない部分をカバーしてくれている2台のクルマ、「フィアット・バルケッタ」と「ヒュンダイクーペ」に、NAVI編集委員鈴木真人が試乗した。良くも悪くも、変わっていないフィアット・バルケッタ(FF/5MT)……292万9500円
輸入車の中で、高級セダンとかスーパースポーツならば目を惹くし、売れ筋のお買い得車の情報ならばいくらでもある。その狭間にあって、うっかり見過ごしてしまいそうな2台を、今回は取り上げることにした。JAIAというのは、こういったモデルに触れることができるという意味でも貴重な催しなのだ。
まず「フィアット・バルケッタ」である。1995年デビューということで、さすがにここ数年は存在感が薄くなっていた。10年ぶりのマイナーチェンジだからさぞや大幅にリファインされたのかと思いきや、変わったのはほぼ外見だけである。目につくのは、フロントに大きく口を開ける「シングルフレームグリル」だ。こういうのがデザイントレンドらしいのだが、バルケッタまで威圧的な顔にしなくても……と思ってしまう。名前(バルケッタとは小舟の意味)のとおり、サイドから見ると船の舳先を思わせる形状だったのが、すっかり現代的というか、スポーティというか、要するにありきたりのものになってしまったのだ。
しかし、いったん運転席に滑り込んでしまえば、顔つきのことなどすぐに忘れてしまう。インパネにボディと同色のパネルを使うというクラシカルな演出は最近ではさまざまなクルマで見られるが、このバルケッタや「クーペ・フィアット」あたりが先駆けだったはずだ。やはり、この眺めはスポーツカー然としていてうれしい。「クーペカブリオレ」全盛の中、手動のソフトトップを守り抜いているのも潔い。フロントスクリーンも比較的立っていて、開放感を楽しむことができる。
ほんのチョイ乗りだっただけに、走りに関しては大したことは言えないが、ホイールが15インチから16インチに拡大されたことで極端な変化が生じているようには思えなかった。クイックなハンドリングは以前のままで、ワインディングロードでは気分よく走れるだろう。
つまり、何も変わっていないのだ。高速道路をカッ飛び、雨の日もクーペと変わらない室内環境を確保したいというのなら、バルケッタは選択肢から外れるだろう。しかし、光と風を感じながらドライビングで汗を流したい向きには、依然として魅力を保っているはずだ。変わらなかったことで、バルケッタはニッチなマーケットでの価値を得たのである。
カッコと価格が魅力的ヒュンダイ・クーペ(FF/4AT)……220万5000円
「ヒュンダイクーペ」は、なかなか浸透しないヒュンダイブランドの中でも、ことさらにマイナーなモデルである。目標販売台数は、年間でわずか200台なのだ。実は、今回のマイナーチェンジを迎えるまで、一度も試乗したことがなかった。したがって、旧モデルと比較してのインプレッションはできないことを最初にお断りしておく。
今回のマイナーチェンジでは内外装のデザイン見直しが主な変更点だという。フロントバンパーやリアコンビネーションランプの形状を改め、内装では部分的に本革を使用したシートが採用された。それ以外では、ESPが標準装備となったことが大きな変更点である。マイチェン前は199万円という価格が大きなウリだったが、税込み表示となったこともあって大台を超えてしまった。
ヒュンダイのフラッグシップ「XG」では、正直言って内装の質感に不満を覚えてしまった。しかし、このクーペは乗ってみてガッカリすることはない。スポーティさとそこそこの高級感が演出されていて、好ましい室内空間となっている。2.7リッターV6エンジンは175psと控えめなスペックであり、アクセルを踏み込んでも爆発的な加速が得られるわけではない。しかし、この種のクーペはスポーティであっても決して「スポーツカー」ではない。カッコ重視のクルマなのだから、十分な動力性能である。
どこをとっても飛び抜けた性能があるクルマではないが、なにしろこのセグメント自体が著しく縮小しているから、選択肢が増えるのは歓迎だ。マニュアルトランスミッションが選べるのもいい。「セリカ」に憧れていたのになくなってしまった、とお嘆きの方などには安心して勧められる。ちょっと値上がりしたとはいうものの、依然として価格は魅力的である。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏(M)、荒川正幸(A)/2005年3月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。













