ランドローバー・ディスカバリー3(6AT)【海外試乗記】
変身したクロスカントリー 2004.11.04 試乗記 ランドローバー・ディスカバリー3(6AT) 「ランドローバー・ディスカバリー3」は、初代「レンジローバー」の流れを汲む従来モデルと決別。近代的な成り立ちと装備を得て生まれ変わったニューディスカバリーに、自動車ジャーナリストの河村康彦が英国で試乗した。時代が変わった
いかにピュアオフローダーを自任するモデルでも、オンロードでの運動性能や快適性の向上を追い求めないワケにはいかない。これは、好むと好まざるとにかかわらず、現代に生きるマスプロダクションカーの宿命である。
ということで、イギリスを代表するオフローダー「ランドローバー・ディスカバリー」も、時の流れをふまえたモデルチェンジを敢行した。
「ディスカバリー3」と名付けられた新型は、いわゆるビルトインフレーム(ランドローバー社では“インテグレーテッドボディフレーム構造”と呼ぶ)式のボディに4輪独立懸架式のエアサスペンションを採用。ラック&ピニオン式のステアリングシステムに電子制御式の駆動システムなど、最新のクロスカントリーモデルらしいスペックからして、あきらかに時代が変わったことを実感させる1台に変身した。なにしろ、これまでは初代レンジローバーのラダーフレームを使う、古典的な成り立ちだったのだから。
デザインのヒミツ
スタイリングは、好評を博す同社のイメージリーダー「レンジローバー」にあやかったものであることは明白だ。いかにもボクシーで頑丈そうなのに、モダンなフロントセクションなどは、ちょっと遠目に「あれっ、レンジかな!?」と見紛うほど兄貴分に印象が近い。それでいながら、サイドビューではどこから誰が見てもディスカバリーだとわかる。アイデンティティの色濃い継承ぶりもなかなか見事だ。
対して、ちょっと意見が別れそうなのがリアビューだ。背面スペアタイヤを廃されて随分プレーンになったボディが走り去る姿は、どうにも従来のディスカバリーとつながり難い。はじめて見たときはそう思った。
実は、リアビューのアピールポイントは、ボディ中央を境にして左右で非対称形状というパネル&ウィンドウのデザインにある。このクルマのテールゲートは上下開き方式で、デザインには、機能を見た目でわかりやすく紹介する役割が込められたのだ。ただし、ボディがダーク系カラーだとボディパネルとウインドウの境目が判別しにくく、せっかくの特徴的なデザインが埋没してしまいがち。“非対称リアビュー”を明確にアピールしたいならば、明るいボディ色を選択するのがオススメである。
オフロードの秘密兵器
スコットランドの北の果て、地図上で英国のもっとも右上に位置する、ウィックという小さな街で国際試乗会が開かれた理由は、走り出してすぐに納得できた。地域全体がなだらかな丘陵で構成され、人より羊の数の方がはるかに多い(!)この辺りには、オフロードファンであれば歓喜の涙に咽ぶ悪路があちこちに点在するのだ。しかも、単なる“未舗装路”とはワケが違う。
この一帯を毎日のように降る雨がタップリと地中深くまで染み込み、たとえ長靴を履いていても、自らの足で踏み入れるのは躊躇してしまいそうな泥炭地がある。かと思えば、砂丘を思わせるアンジュレーションに富んだ海岸沿いの砂浜が出現。さらには、そんな砂浜から突然立ち上がる険しい岩場……など、ヌルヌルしたりサラサラしたりゴツゴツしたり、バラエティに富んだ“本物のオフロード”が勢ぞろいしているのである。
原野を頼もしく踏破する秘密兵器が、ランドローバーが「テレイン・レスポンス」と呼ぶ最新の駆動システムだ。これは、センターコンソール上に設けられたダイヤルによって、路面ごとに5種類用意されたなかから適したポジションを選択。スロットルバルブ開度の線形マッピングやディファレンシャルギアのロッキングファクター、ATのシフトプログラムや地上高などを、その路面を踏破するのに最適な組み合わせに調整するというもの。路面状況を判断するスキルはドライバーに要求されるものの、多数のセットポジションを備える様々な電子制御システムのなかから、最適な組み合わせを探し出す難解な作業を手早くこなしてくれるのはメリットだ。
“オトナ”になったぶん……
実際に走ると新しいディスカバリー、相変らず呆れるばかりのオフロード性能を味わわせてくれた。そのことは、多くを語らずとも写真から分かるハズである。もちろん、この試乗会のために何度も下見し、走れる保証付きの場所ではあるはずだが、人間の足でも行けない所をクルマが平然と走破するのは、ぼくにはやっぱり驚きだ……。
ジャガー製をリファインしたという4.4リッターV8ユニットは、けっして軽いとはいえないボディを常に不満なく加速させる。先代と較べて静粛性が際立ち、直進性は向上。全体的に“高級セダンライク”なテイストをグンと強めた。さすがにレンジローバーには及ばないが、質感の高いダッシュボードまわりの仕上がりなどは、これまでのディスカバリーとは大きく異なる。英国ではオプションのサードシートは大人がそれほど窮屈な思いをせず座れるようになり、パッケージングも近代化した。
随分と“オトナ”になったディスカバリーだが、価格は据え置きというわけにはいかないようだ。ランドローバー・ジャパンによれば、日本での価格は未定とのことだが、ヨーロッパでの価格変化を見ると、それなりの値上げは覚悟しなければならないだろう。
(文=河村康彦/写真=ランドローバージャパン/2004年11月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。