トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン(4AT/4AT)【短評(前編)】
スーパー日常カー(前編) 2004.06.19 試乗記 トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン(4AT/4AT) トヨタとダイハツが共同で開発した「トヨタ・パッソ」「ダイハツ・ブーン」。リッターカークラスに投入された入魂作はどうなのか? 『webCG』コンテンツエディターのアオキが、プレス試乗会に参加した。両社の思惑
「トヨタ・パッソ」「ダイハツ・ブーン」のプレス試乗会が、2004年6月17日、千葉県は幕張のホテルを基点に開催された。
パッソ&ブーンは、「トヨタ・デュエット」「ダイハツ・ストーリア」の後継にあたるモデル。“両社の力を結集させた国内初の共同開発車”である。5ドアボディに、新開発の1リッター直3(71ps)または1.3リッター直4(90ps)を搭載、いずれも4段ATが組み合わされる。両者に、エンブレム以外の違いはない。
これまでのデュエットが、事実上ストーリアのOEM供給車、つまりバッヂだけトヨタ用に変えたモデルだったのと比較して、今回は商品企画の段階からトヨタがからんだのが大きな違い。具体的には、企画、デザインはトヨタが主導し、設計、開発、試験、生産といった“実務”をダイハツが担当したという。
ダイハツとしては、軽自動車からの上級移行組を取り込むクルマが欲しい。トヨタは、自社の製品を持たない軽自動車市場のユーザーを獲得するため、「軽」と「ヴィッツ」の間を埋めるモデルを必要としていた。両者の思惑が合致してつくられたのが、パッソ&ブーンである。
ダイハツ側のチーフエンジニア、相坂忠史製品企画部部長によると、「トヨタ・カローラII(ターセル、コルサ)」のオーナーも潜在顧客だという。なるほど……そういうクルマもありましたなぁ。
![]() |
![]() |
ニューモデルの基本要件
相坂部長に引き続きお話をうかがう。
−−ストーリアでは、軽からのお客様をとらえきれなかったのですか?
「そういう部分がありました。実際、『マーチ』なり『フィット』なりに流れる方がいた……」
−−何が原因だったのですか?
「セダンライクなクルマに飽き足りなかったということでしょう」
−−ユーザーは“小さなミニバン”を求めていた、と?
「ミニバンとまではいきませんが……。わたくしどもには、『ムーヴ』といったクルマがあるわけです。そこから乗り換えると……。
−−ストーリアでは“広々感”が足りなかった。
“タイトな空間”というフレーズに魅力を感じ、ミニバン的車内空間を“ムダ”と考えるリポーターが、なぜ世間一般の人たちは、そんなに“広々感”を重視するのか、と「コペン」の開発も手がけたチーフエンジニアに疑問を呈すると、相坂さんは、「この手のクルマは、まずファミリーユース、それからシルバー世代の方が主にお乗りになります。1年のうちに何度かは5人乗ることがあるから、とりあえず5名乗車でないといけない」と、ニーズの基本を再確認させてくれた。そして、「そういう方々には、“スポーティな走り”とか“ドライバビリティ”より、乗り降りがラクである、とか、走っているときに普通に会話ができる、といった、日常の使い勝手の方がずっと大切なわけです」と、自動車専門誌のエディターや、スーパーカー世代のクルマ趣味人にとって、まことに厳しい現実を説くのであった。
クルマの成り立ち
“日常の使い勝手”という観点から新しいコンパクトカーを観察し、各担当エンジニアの方々から詳細な説明を受けると、パッソ&ブーン、「もうグゥの音も出ません」レベルにまで詰められていた。
ボディサイズは、全長×全幅×全高=3595(-45)×1665(+5)×1535(+35)mm(カッコ内はヴィッツとの比較)。パッソ&ブーンは、車体の前後を圧縮する一方、ヴィッツを上まわる幅と高さ、そして70mmも長い(!)2440mmのホイールベースでキャビンを大きくとって、室内の“広々感”を手に入れた。カタログスペック上の車内体積は、ヴィッツを上まわる。デザインに関しては、トヨタ側が主導権を取ったということだが、グラフィカルな面はともかく、タイヤを四隅に追いやったクルマの成り立ちは「ダイハツ車そのものだ」と思った。
試乗会場に、デザインに携わったトヨタのデザイナーの方がいらしたので、さっそく聞いてみた。
−−パッソの外観には、「WiLLサイファ」の影響があるんでしょうか?
「ありません」
奇抜なサイファで市場調査をしたのち、こなれたデザインのリッターカーを出したのかと勘ぐっていたのだが……。
「どこが似ていると思われたんですか?」と逆に質問されたので、リアビュー。特にリアホイールアーチがリアバンパーにつながるところ、と答えたら、「そうですかねぇ」と首をかしげるのであった。
「イカツかわいい」という、「不思議、大好き。」調のデザインキーワードをもつパッソ&ブーン。張りがあるドアの面、ショルダーに走るシャープなキャラクターラインがことにジマンだそう。カワイすぎて、男子(やシルバー世代)にそっぽ向かれることを巧妙に避けたと見受けられる。
同様に、ボディカラーからも、たとえばベタなピンクやパステル調といった“いかにも”な色は慎重に排された。梅雨の合間の陽光に照らされた「カシスピンクメタリック」「ミントブルーメタリックオパール」「ライムグリーンメタリック」といったペイントは、たしかに魅力的に輝いていた。(つづく)
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2004年6月)
トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン(4AT/4AT)【短評(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015373.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。