トヨタ・アベンシス セダンの「ライバル車はコレ」【ライバル車はコレ】
“ヨーロピアン”対決 2004.05.03 試乗記 トヨタ・アベンシス セダンの「ライバル車はコレ」 「欧州品質」のキャッチフレーズをひっさげ、英国から輸入される「トヨタ・アベンシス セダン」のライバル車を、自動車ジャーナリストの河村康彦がチョイスした。トヨタ・アベンシス セダン(2リッター=231万円〜288万7500円)
「トヨタ・アベンシス」が最大のマーケットと目論むのはヨーロッパ地域。それゆえ、デザイン開発は南仏にある、トヨタのヨーロッパ拠点「EDスクエア」をメインに行われた。生産も、イギリス工場のみで行われる。
そんなわけで、そもそも日本市場など眼中になかった(!?)このクルマを、トヨタは「できるだけ現地仕様のテイストのままで日本に持ち込む」ことで、逆に特徴付けようとした。トヨタ車としては意外にも(?)硬派な走りが、このクルマのセールスポイントのひとつなのだ。
それゆえ、ブレーキローターの耐摩耗性などに関して、「これまでの日本向けトヨタ車とは、異なる社内基準をあてはめた」という。そうは言っても、やはり欧州で販売する車両をそのまま運んでこないところが、トヨタ流の心遣い。たとえば、スタート時の電子制御スロットルの特性を「多くの日本人の好みに合わせてややシャープにする」など、スペックに表れない部分で、日本向け専用のリファインがこっそり(?)と行われてもいるのだ。
セダン/ワゴン/ハッチバックと、3タイプのボディが揃うのが欧州仕様のアベンシス。だが、日本に運ばれてくるのは前2者のみとなる。エンジンも、日本仕様はストイキ(理論空燃費)燃焼を行う、2リッター直噴ガソリンユニット1種類。ヨーロッパで大人気のディーゼルや、より排気量の小さい廉価版は「日本での市場性を考えて」導入が見送られている。ナンだカンだいっても、ヨーロッパ仕様とは色々と異なるのが、日本のアベンシスなのだ。
【ライバル車その1】フォルクスワーゲン・パサートV6 4モーション(2.8リッター=417万9000円)
■間違われた先達
ひょんなことからヨーロッパのとある国で、発売直前のアベンシスを目撃したことがある。そのクルマは、フロントグリル上部の“トヨタマーク”と、リアのエンブレム類をガムテープで覆っただけ、という簡単な擬装を施したものだった。が、その時ぼくは、てっきりそれをフォルクスワーゲンの新型車だと勘違いした。
というのも、大きなマークがボンネットフードにまで食い込むのは、このところの最新VW車に共通するデザイン記号だからだ。そんなわけで、ガムテープで覆われたマークがボンネットフードへと食い込んでいた“擬装車”を、てっきり新しい「パサート」か何かだと思ってしまったのである。
それにしても、横桟グリルに“ボンネット食い込みマーク”を備えるアベンシスの顔つきは、ぼくには“VWチック”に見える。そもそも、ごくごく常識的なラインを描くアベンシスの全体的なシルエットは、多くの日本人が「ヨーロッパのクルマ」に期待をするソレからは、少々乖離したものではないだろうか。
アベンシスよりも70mm長く、15mm幅の狭いボディの持ち主である本家(?)パサート。いまやV型6気筒やW型8気筒エンジンという、アベンシスでは望むことのできないプレミアムなパワーユニットを選択することが可能になった。当然それらは、加速のスムーズさや静粛性において、いずれも4気筒のアベンシスを大きく上まわる。ただし、プライスタグはアベンシスよりもグンと上だ。VWはいま、パサートというクルマを、アベンシスや「ホンダ・アコード」「マツダ6」(アテンザ)といった日本車の猛攻から守るべく、必死の上級移行を図る過渡期にある。そのように解釈すべきかもしれない。
【ライバル車その2】マツダ・アテンザ セダン(2リッター=189万円〜247万8000円)
■欧州を念頭に置くが……
ヨーロッパでは「マツダ6」、すなわち、日本名「アテンザ」の評判が良好だという。クリーンでスポーティなルックス。そんな見た目とマッチした軽快な走り味が、リーズナブルな価格で手に入るとなれば、合理精神に溢れた彼の地の人に好まれるのも不思議はないだろう。
一方、日本での売れ行きは、前評判ほど高くはないようだ。その要因のひとつに、1780mmという、アベンシスより35mmも広い全幅にあるとぼくは思う。
このところ、日本国内の“セダン離れ”の影響を受けて、日本のためのセダンがすっかり影を潜めてしまったように感じる。ボディサイズは、どれもこれも欧米マーケットを念頭に置いたものばかり……。これでは、国内のセダン市場はさらに冷え込む悪循環を生み出すだけだろう。
見た目も走りのテイストも、スポーティさをより強く押し出すアテンザのキャラクターは、アベンシスに比べてよりわかりやすく、市場にも受け入れられるはずだ。しかし、せっかくの特徴を「広すぎる全幅」が多少なりともスポイルしているとすれば、それは残念なことである。
ちなみに、デザインは頑張るものの、インテリアの質感が少々安っぽいのは、「デミオ」や「アクセラ」にも共通するマツダ車のウィークポイント。いかにもソツのない仕上がりを見せるアベンシスと比べると、この部分の劣勢は明らかと言わなければならない。
(文=河村康彦/2004年5月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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