ホンダ・インサイト(5MT)【ブリーフテスト】
ホンダ・インサイト(5MT) 2004.01.15 試乗記 ……211.5万円 総合評価……★★★★★ ホンダ初の量産ハイブリッドカー「インサイト」。「エコカーではなくハイブリッドスポーツ」と考える、自動車ジャーナリストの森口将之が、2003年11月にマイナーチェンジを受けた同車に乗った。ライトウエイトスポーツの理想
今回のインサイトの試乗は、僕の側からリクエストをお願いした。2003年11月に行われたマイナーチェンジを機に、もう一度このスタイリッシュな“ライトウェイトスポーツ”に、しっかり乗りたいと思ったからだ。
そう、僕にとってのインサイトは、エコカーではない。ハイブリッドのスポーツカーだ。以前、MT仕様のステアリングを握ったときから、僕はそう思っていた。そんな気持ちを察してくれたのか、編集部は舞台に箱根を選び、試乗車には5MT仕様を用意してくれた。
820kgという軽量、しかも低重心のボディは、感動的な身のこなしでコーナーの連続をこなしていった。ステアリングやブレーキなど、レベルアップしてほしい部分もあるが、小さく低く軽いことが、「こんなにすばらしいことなのか!」と痛感する。理屈抜きで、ほんとうに楽しかった。それはちょうど、スマート・ロードスターに乗ったときと同じ気持ちだった。21世紀のライトウエイトスポーツの理想に、いちばん近いのがこの2台だと確信した。
同時に、タイプRをつくってほしいとも思った。モーターの出力を上げ、ギア比を低めにし、ブレーキとタイヤを強化して、それでも10・15モード燃費で30km/リッターをたたき出す。インサイトの存在をアピールするには、それがいちばんいいのではないだろうか。
こんなにも一本筋が通り、ポリシーがはっきりした国産車は、ほかにないのでは、と思った。もっともホンダらしいホンダ車ともいえる。だからこそ、日本での販売台数が年間60台程度と、ランボルギーニ並の“希少車”で終わらせてほしくない。大切に育てていって欲しいと願う。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1999年9月6日に発表された、トヨタ・プリウスに次ぐ量産ハイブリッドカー。モーターとガソリンエンジンを(考えのうえでは)対等に扱ったプリウスに対し、インサイトは、4気筒のうち1気筒分をモーターに割り振る、というのがコンセプト。当たり前だが、乗車定員5名のハイブリッドファミリーカーと2シータークーペというのが、両者最大の違い。アルミを多用した空力ボディ、実験室から抜け出たかのようなスタイルが、インサイトの魅力だ。
2003年11月に初のマイナーチェンジを受け、アンサーバック機能が付いたテールゲート連動タイプの「電波式キーレスエントリーシステム」、盗難防止効果が高いとされる「イモビライザー」が標準装備された。内外装も小変更され、ボディカラーに「ロイヤルネイビーブルーパール」を追加。インテリアカラーは「チタン」となった。価格に変更はなく、5段MTが210.0万円、CVTは218.0万円。
(グレード概要)
インサイトはモノグレード。「ホンダIMAシステム」と呼ばれる1リッターリーンバーンVTECユニット+モーターがパワーソース。モーターの最大出力がトランスミッションによって異なり、5段MTの10kW/3000rpmに対し、CVTは9.2kW/2000rpmとなる。いずれも、条件が合えば停車時にエンジンを切る「アイドルストップ機能」を搭載。フルオートエアコン、パワーウィンドウ、電動ミラー、UVカットガラスなど、快適装備も充実。省エネカーとはいえ、ガマンを強いられない。オプションで、ナビゲーションシステムが用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
今回のマイナーチェンジで、ダッシュボードの一部がチタン調パネルになり、内装色もチタンカラーになった。高級感は増したかもしれないが、ブルーやイエローなどを使ってポップなイメージを強調していた以前のほうが、インサイトのイメージにふさわしかったと思う。インパネそのものはシンプルで使いやすく、基本的な装備はそろっていて、不満はない。
(前席)……★★★★★
クッションは薄いが、形状は適切。背もたれは張りがあり、サポート性にも優れる。ワインディングロードでも不満がないし、以前長距離を乗ったときも、予想以上に疲れなかった。ステアリングやシフトレバーとの位置関係も申し分ない。それにしても、着座位置の低さは驚異的。まぎれもないスポーツカーだ。
(荷室)……★★
2シーターなので奥行きはあるが、下に大きなバッテリーが収まっているので、フロアはかなり高い。リアオーバーハング部分に、大きめのクーラーボックスが入るぐらいの部屋があるが、こちらもそんなに広くない。デビューから4年間でバッテリーは進歩したのだから、パッケージングを見直してほしいところだ。リアゲートの開け閉めが、外から電磁式ボタンに触れるだけで行えるのはいい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
プリウスのハイブリッドが、エンジンとモーターに同等の権限が与えられているのに比べると、インサイトの「IMA」(インテグレーテッド・モーター・アシスト)はその名のとおり、エンジンが主役。加速時にモーターがアシストするのだが、そのフィーリングはまさに「電気ターボ」だ。軽量ボディのおかげもあって、1リッターながら、体感的には1.5リッターぐらいの力はある。エンジンはさすがホンダらしく、3気筒でも元気に高回転までまわる。
ほかのクルマと違うのは、高速道路でアクセルを離しても、なかなか速度が落ちていかないところ。Cd値=0.25というエアロダイナミックなボディと、2速で100km/h以上まで伸びるハイギアリングのおかげだろうが、ちょっとした異次元感覚だ。
シフトレバーはストロークは短く、タッチはコクコクと心地よい。ペダルレイアウトはヒール&トゥに最適。このシフトレバーとペダルを駆使して、よくまわるエンジンをガンガン回し、速さに結びつけていく。ライトウエイト・スポーツそのものだ。それでいて、おとなしく走ればリッター30kmの超低燃費も可能なのだから、おそれいってしまう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
初期のインサイトは、アルミボディにありがちな、ショックをパシッと伝えるドライな乗り心地が特徴だった。ところが今回のマイナーチェンジで改良が施されたのか、マイルドなフィールに変わっていた。これなら硬いと意識することはない。一方、ノイズや振動はそれなりのレベルで入ってくるが、これは遮音材や防振材を省いてまで軽量化を徹底した、ストイックなコンセプトの結果。じゅうぶんに納得できるものだ。
ワインディングロードでのインサイトは、予想をはるかに上まわった。ステアリングは切りはじめに電動アシストっぽい、のったりした手応えを感じるが、その後の車体が動きはとにかくクイック。ペースを上げていっても、軽量低重心ボディのおかげで、タイヤが鳴くことさえない。燃費重視で転がり抵抗の少ない、つまりグリップしにくいタイヤを履くことを考えれば、すごいことだ。
とくに、フロントの重さをほとんど感じないのがすばらしく、切ったとおりに進んでくれる。コーナリング中にアクセルを緩めれば、リアがスライドする。こうした走り方をすると、ブレーキがやや役不足に感じられたが、エコなインサイトにふさわしい走り方なら、不満は出ないだろう。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2003年12月11日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:992km
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)同じ(いずれもヨコハマ E-SPEC)
オプション装備:リアワイパー(1.5万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(6):山岳路(2)
テスト距離:382.6km
使用燃料:20.0リッター
参考燃費:19.1km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。