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ホンダ・インサイトLX(FF)

現在と未来の葛藤 2019.03.18 試乗記 山田 弘樹 1999年の初代モデル誕生以来、ホンダ製ハイブリッド車の歴史とともに歩んできたモデル名「インサイト」が復活。「シビック」由来のプラットフォームに独自のハイブリッドシステム「スポーツハイブリッドi-MMD」を搭載した、新しい4ドアセダンの出来栄えを試す。

オーソドックスだが、それがいい

インサイトはお世辞抜きに“いいクルマ”だ。

シックだがスタイリッシュなセダンルック。ドアを開けて乗り込めば、その外観に見合う落ち着きのあるインテリアがドライバーを出迎え、しっとりとしたレザーステアリングの感触と、包み込むようなシートのホールド感に、働き盛りの男なら多くが癒やしを感じ、「これなら……」と納得することだろう。

「これなら」とは「これなら家族も乗せられる」であり、「これなら大人の男としてのカッコがつく」であり、「これなら疲れた体と心を癒やしてくれる」である。たくさんの「これなら」が湧き上がることに、このクルマの本質が見て取れる。その多くがワイフやキッズたちにとっては幻想にすぎず、「え~、ミニバンかSUVにしてよ」なんて言われかねないとしても。うるさい、それが男のロマンってヤツだ!

はっきり言って、この3代目ホンダ・インサイトには、いまのアクが強いホンダ・デザインにはない、オーソドックスだが確かなフォーマルさがある。

ただし――そんなものがいまや大切なのかという風潮すらあるが――クルマオタク的に考えると、インサイトは非常にその出自がややこしい。既出の記事でもその経緯はきちんと書き記されているが、なぜこのセダンが「インサイト」であるべきなのかが、よくわからない。

2018年12月に発売された新型「ホンダ・インサイト」。ホンダの新世代プラットフォームにハイブリッドシステムを搭載した4ドアセダンであり、ラインナップでは「シビック」と「アコード」の中間に位置する。
2018年12月に発売された新型「ホンダ・インサイト」。ホンダの新世代プラットフォームにハイブリッドシステムを搭載した4ドアセダンであり、ラインナップでは「シビック」と「アコード」の中間に位置する。拡大
今回の試乗車はエントリーグレードの「LX」。インテリアでは、シートの仕様や電動調整機構の有無、ドアのソフトパッドの有無などが、上級グレードとの違いとなる。
今回の試乗車はエントリーグレードの「LX」。インテリアでは、シートの仕様や電動調整機構の有無、ドアのソフトパッドの有無などが、上級グレードとの違いとなる。拡大
1999年にホンダ初の量産ハイブリッド車の車名として採用された「インサイト」。日本でこのモデル名が復活するのは4年ぶりのこととなる。
1999年にホンダ初の量産ハイブリッド車の車名として採用された「インサイト」。日本でこのモデル名が復活するのは4年ぶりのこととなる。拡大
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出世魚じゃないんだから

インサイトは初代で実験的エコカーとして燃費を追求し、2代目でこれをより多くの人たちに伝える大衆ハッチバックとなった。出世魚的には次の成長でセダンを選ぶのもありかもしれないが、その流れを直感的に「なるほど」と納得できる人は少ないだろう。しかも、商業的には残念ながら“出世”していないので、その歴史を知らないカスタマーにとっては、親しみのないただ難解なネーミングにすぎなくなってしまったと思うのだ。

手厳しい言い方をしてしまったが、それはこのセダンの出来栄えが値段相応に素晴らしく、そのネーミングがとても惜しいと感じたからだ。

インサイトのベースとなるのはシビックのプラットフォームであり、これをサイズアップしてちょっとプレミアムなセダンとしたのであるから、車名は「シビック ハイブリッド」でよかったのではないか? 「ドマーニ」なんてやったら購買層の中年男性たちは喜ぶかもしれないが、また話が脱線してしまうし。

もはや、ハイブリッド仕様はエコというだけではなく、「そのクルマのプレステージを高める」グレードとしてのイメージも世間的に定着しているし、事実インサイトが搭載する「i-MMD」は、それだけ手の込んだ制御をしているのだから。

2018年3月のニューヨークショーで初公開された新型「インサイト」。「刀をモチーフにした」というフロントグリルのメッキのバーが、日本仕様の特徴だ。
2018年3月のニューヨークショーで初公開された新型「インサイト」。「刀をモチーフにした」というフロントグリルのメッキのバーが、日本仕様の特徴だ。拡大
メーターパネルはフルデジタル。速度や燃費、パワープラントの作動状態、運転支援システムの作動状態など、さまざまな情報が表示されるが、ドイツ車のようにナビゲーションの表示機能は搭載されていない。
メーターパネルはフルデジタル。速度や燃費、パワープラントの作動状態、運転支援システムの作動状態など、さまざまな情報が表示されるが、ドイツ車のようにナビゲーションの表示機能は搭載されていない。拡大
センターコンソールに備わるシフトセレクターは、現行型「レジェンド」で導入が開始されたスイッチ式。走行モード「ECON」「SPORT」「EV」のオン/オフスイッチもここに備わる。
センターコンソールに備わるシフトセレクターは、現行型「レジェンド」で導入が開始されたスイッチ式。走行モード「ECON」「SPORT」「EV」のオン/オフスイッチもここに備わる。拡大

ユーザーの声を反映したと言うが……

早朝6時40分、ゴルフをするわけでもないのに編集部H君と集合し、出掛けた片道100km程度の道程は、実に快適だった。

前述の通り、インサイトはまずドライバーを紳士的に迎え入れる。走りだせば極めて静かにモーターが駆動し、閑静な住宅街の雰囲気を壊すことなく、幹線道路へと私たちを導いてくれる。

アクセルの踏み始めが、電動モーター特有のタイムラグのないトルク特性と“なっていない”のは、あえての処置。セダンとしての快適性を重視するなら、唐突なモータートルクを出さないほうがよい、という判断を開発陣はしたようだ。個人的には、内燃機関よりもモーターによる加速の方がきめ細やかで気持ち良いし(新幹線の加速がそうだろう)、もう少しリニアリティーを上げたほうがよいと思うのだが、彼らの主張なのだからよしとしよう。

ちなみに、これは北米用開発を終えたあと、あえて日本向けにリセッティングした結果。上位機種である「アコード」や「レジェンド」の加速が唐突すぎるという、日本ユーザーの意見を反映した結果なのだという。ふーん……。だからセダンの年齢層が若返らないのではないか? もっとも、ドライブモードを「SPORT」に転じれば、その歯がゆさは解消される。SPORTという表現自体がもはや子供っぽいが、とにかくせっかちなドライバーはこちらをどうぞ。

バッテリー容量がPHEVよりも小さなインサイトは、走り始めこそEV感をもって歩を進めるけれど、すぐにエンジンが発電を開始する。ちなみにアコードの70セルに対してインサイトは60セルのリチウムイオンバッテリーを後部座席下に搭載している。

あっ、今、エンジンかけたでしょ! そこにマニア的なツッコミ所はあるが、発電機としての音量はそれほど大きくない。

ファブリック表皮が用いられた「LX」のシート。電動調整機構の設定はないが、運転席と助手席にはシートヒーターが標準装備される。
ファブリック表皮が用いられた「LX」のシート。電動調整機構の設定はないが、運転席と助手席にはシートヒーターが標準装備される。拡大
リアシートは6:4の分割可倒式。センターアームレストは備わるが、アームレストスルー機構はなく、荷室に長尺物を積む場合は、シートを倒す必要がある。
リアシートは6:4の分割可倒式。センターアームレストは備わるが、アームレストスルー機構はなく、荷室に長尺物を積む場合は、シートを倒す必要がある。拡大
走行モード「SPORT」をオンにすると、アクセル操作に対するパワープラントの応答性が高まり、伸びのよい加速感を味わうことができる。
走行モード「SPORT」をオンにすると、アクセル操作に対するパワープラントの応答性が高まり、伸びのよい加速感を味わうことができる。拡大
ホンダの2モーターハイブリッドシステム「スポーツハイブリッドi-MMD」は、バッテリーの電気で走るEV走行、エンジンが発電した電気を利用し、モーターで走行するハイブリッド走行、そして低負荷巡航時のエンジン走行の3つの走行状態を使い分ける、独自の仕組みが特徴となっている。
ホンダの2モーターハイブリッドシステム「スポーツハイブリッドi-MMD」は、バッテリーの電気で走るEV走行、エンジンが発電した電気を利用し、モーターで走行するハイブリッド走行、そして低負荷巡航時のエンジン走行の3つの走行状態を使い分ける、独自の仕組みが特徴となっている。拡大

違和感はないが、新しくもない

それにしても思うのだが、インサイトという名前を付けたのなら、やっぱりもっとEV方向に舵を切ってもよかったのではないか。ホンダはこのセダンについて、「内燃機関ユーザーがシフトしても違和感が出ないように」という一点に執心している。

例えば、その稼働の9割以上を発電機として機能する1.5リッターエンジンは、しかしアクセル開度に合わせて回転数を上げていく。簡単に言うと日産のe-POWERのような一定燃焼方式が、人間の感覚に違和感を覚えさせると考えているようだ。

だから、低速から常用域までは静かなガソリン車のように走り、いざアクセルを踏み込めばホンダらしい快活さを伴ってカーン! とエンジンも回る。「エレクトリックCVT」などとは言いながらも、その実トランスミッションを持たないインサイトの出力制御は加速時に“ズレ感”をもたらさず、その加速感は気持ちいい。

とはいえ、日産のe-POWERだってアクセルを踏み込めば発電機たるエンジンは回転数を上げざるを得ず、これが結果的に感覚とのズレを相殺している。それよりはモーターによる走行感覚の新しさこそが、e-POWERがウケた理由だろう。ホンダもそれを優先し、制御を洗練させていくほうが、どのみちEV化が進む未来を思えば有益ではないだろうか? ライバルとの違いを意識し過ぎて、小さいことにこだわり過ぎているように筆者は感じる。

同じ「スポーツハイブリッドi-MMD」搭載車でも、他のモデルが2リッターエンジンを採用しているのに対し、「インサイト」はより小排気量の1.5リッターエンジンを採用している。
同じ「スポーツハイブリッドi-MMD」搭載車でも、他のモデルが2リッターエンジンを採用しているのに対し、「インサイト」はより小排気量の1.5リッターエンジンを採用している。拡大
「インサイト」にはトランスミッションが搭載されておらず、ステアリングホイールのパドルはアクセルオフ時の減速度を3段階で調整する「減速セレクター」となっている。日産のe-POWERほど強烈ではないが、制動Gを上手に発生させつつバッテリーに電力を蓄える。
「インサイト」にはトランスミッションが搭載されておらず、ステアリングホイールのパドルはアクセルオフ時の減速度を3段階で調整する「減速セレクター」となっている。日産のe-POWERほど強烈ではないが、制動Gを上手に発生させつつバッテリーに電力を蓄える。拡大
運動性能を高める装備としては、コーナリング時に内輪に制動をかけて回頭性を高める「アジャイルハンドリングアシスト」が採用されている。
運動性能を高める装備としては、コーナリング時に内輪に制動をかけて回頭性を高める「アジャイルハンドリングアシスト」が採用されている。拡大

大人向けのセダンとして好適

インサイトが搭載するi-MMDのすごいところは、9割以上をモーターで走りながらも、高速巡航時にエンジンが駆動系と直結されること。これはハイブリッドが苦手とする高速・低負荷時のエネルギーロスをエンジンが補うものだが、走らせていてもその直結状態を感じ取ることはできない。一定車速走行時に、メーターに“歯車マーク”が出ることを後から聞いたが、まったくわからなかった。

それよりも気になったのは、エンジンが直結していないだろう領域でも、アクセル(やフロア)から微妙な振動が伝わること。これは内燃機関を積むクルマにとっては当たり前のことであり、EVはその振動がないから特有の走行感をもっていて、疲れない。インサイトはアクセルペダルがバイ・ワイヤだと聞いたが……。ここまで内燃機関らしくしないでもよいと思うのはひねくれすぎだろうか。

シビックと共用するシャシーはソフトなアシまわりに対して十分な剛性バランスを確保している。シビック セダン同様に、若干リアまわりの剛性が低く、転舵時にこれがむずむず動く感じはあるものの、バッテリーの搭載などで増えたリア荷重によってか、そのむずむずもなんとか抑えられている。

電動パワーステアリングが細かく追従する操舵感は、レザーステアリングの質感と相まってねっとりと上質。同じハイブリッドセダンである「トヨタ・カムリ」よりも操舵が定まっている分、直進安定性は高く、コーナーでは大人びた雰囲気を保ちながら、ビターッと張り付くような安定性を披露してくれる。

総じてほぼモーターで走りながらも、従来のガソリン車との違和感を徹底して封じ込めたハイブリッドセダンというのがインサイトというクルマだろう。税抜き302万円スタートという価格を考えても、大人の階段を上るための「はじめの一歩」としてはおすすめである。

ただしEV的な未来感は、かなり薄い。出来栄え自体はお世辞抜きにいいだけに、そこがやはり惜しいのだ。既存の価値観と未来へのワクワク感、そのどちらを取るかが、とても悩ましい。

(文=山田弘樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)

エントリーグレードながら運転支援システムは充実。自動緊急ブレーキや車線維持支援機能、誤発進抑制制御機能、渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロールなどが標準装備される。
エントリーグレードながら運転支援システムは充実。自動緊急ブレーキや車線維持支援機能、誤発進抑制制御機能、渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロールなどが標準装備される。拡大
タイヤサイズは、「EX」や「EX・ブラックスタイル」が215/50R17なのに対し、「LX」は215/55R16。テスト車にはミシュランの低燃費タイヤが装着されていた。
タイヤサイズは、「EX」や「EX・ブラックスタイル」が215/50R17なのに対し、「LX」は215/55R16。テスト車にはミシュランの低燃費タイヤが装着されていた。拡大
「インサイト」では、走行用のバッテリーをリアシートの下に配置することで、広いトランクスペースを確保。容量は519リッター(VDA方式)となっている。
「インサイト」では、走行用のバッテリーをリアシートの下に配置することで、広いトランクスペースを確保。容量は519リッター(VDA方式)となっている。拡大
「LX」に設定されるボディーカラーは全6色。テスト車には3万7800円の有償色「プラチナホワイトパール」が採用されていた。
「LX」に設定されるボディーカラーは全6色。テスト車には3万7800円の有償色「プラチナホワイトパール」が採用されていた。拡大

テスト車のデータ

ホンダ・インサイトLX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4675×1820×1410mm
ホイールベース:2700mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直列4気筒DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機 
エンジン最高出力:109ps(80kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5000rpm
モーター最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:267Nm(27.2kgm)/0-3000rpm
タイヤ:(前)215/55R16 93V M+S/(後)215/55R16 93V M+S(ミシュラン・エナジーセーバーA/S)
燃費:34.2km/リッター(JC08モード)/28.4km/リッター(WLTCモード)
価格:326万1600円/テスト車=337万7160円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(3万7800円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<フロント用>(3万0240円)/フロアカーペットマット(4万7520円)

テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1553km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:272.2km
使用燃料:15.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.0km/リッター(満タン法)/20.8km/リッター(車載燃費計計測値)

ホンダ・インサイトLX
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山田 弘樹

山田 弘樹

ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。

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